第189話 アルティの後悔
アルティ達はセレーナにより女神の紋章を刻まれる。
2国間和平交渉会議6日目夜。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、物品荷材搬入エリア。
エリーは今、得体の知れない黒い煙に包まれた男性と対峙していた。エリーの前には皇帝侍女長サディが口から泡を吹いて意識がない状態でうつむせに倒れている。エリーはサディの生体反応を確認して安心したような顔をすると煙に包まれた男性は言う。
「……ローラさま、何を安心されているのですか! そのものはあなたさまのお命を奪おうとしていたのに……圧倒的な力を持っていらっしゃるのにもかかわらず。ローラさまは危うすぎます。一旦、信用してしまうとまるで警戒しない……私がこの場にいなければここに倒れていたのはローラさまですよ! そのものはライオネルの魔道士です。この城に潜って機会をうかがっていたのです」
その言葉を聞いてエリーはサディを視感する。確かに右手には魔道短剣が持たれているが、エリーに危害を加えようとしたかどうかはわからない。それにサディからは殺気も憎悪、敵意も感じ取れなかった。むしろ敬意や尊敬といった好ましい感情しか感じられなかった。
「……」
エリーは煙に包まれた男性を神眼で見据える。(かなりの魔力量で形成された分身体。本体は離れた別の場所にいる? 分身体とはいえその実力はユーリさんと同等か上回る……? このスキルを使いこなせる術者がいようとは……私だってやろうと思えば出来るけど、魔力量の消費が半端なくとてもじゃない! どうやってマナの供給をしているの)
エリーは魔力量を増大させ体を包む色は濃い紫色に輝き始めた。黒色の煙に包まれた男性は残念そうな表情をしてエリーを見つめる。
「ローラさま、そう警戒しないでください。従者は主のいざという時役立たねばね。いまの従者は……」
煙に包まれた男性はそう言い掛けて周囲に注意を払う。
「それでは、時間のようです。またいずれ……」
黒い煙に包まれた男性はそう言って少し微笑むような表情を浮かべる、そして煙が拡散するとあっという間に消えていなくなった。エリーはその男性の魔力反応が消えたことを確認してふ――っと息を吐いた。
(……消えた!? 私を助けたと言ってましたけど……? あの感じ?)
そこへユーリとリサが飛び込んで来る。
「ローラ様! ……」
声を上げたユーリは厳しい顔をして魔道剣を構え周囲を警戒している。5mほど前にいる近衛士官とアルティを見据えてリサが拳銃を構え威嚇している。
「遅くなり申し訳ありません! 膨大な魔力量を感知して慌ててやって来ました!」
リサが前の2人を警戒しながら声を上げた。近衛士官とアルティは先ほどのエリーと黒い煙に包まれた男性の膨大な魔力覇気やられ両目を見開き固まったように動けずにいた。
アルティはその場から離れようにも体を動かすことが出来ずにいたのである。
(師匠が一撃で……そんな!? わたしは視線が合っただけで身動き出来なくなった。そう……動けば一瞬で粉砕されるイメージが頭に流れ込んで来た……)
アルティと近衛士官は恐怖で完全に支配され冷静な判断力を失っていた。アルティと近衛士官は万が一のために自決用の薬物を所持していたがそれにさえ手にすることが出来ない。
「……師匠……」アルティの瞳からは涙が浮かび流れていた。
(私たちの考えが浅はかだったの……? クラリス姉さんゴメン……とんでもないものに手を出した見たい。たぶん報復が始まる。姉さん……)
エリーは近衛士官とアルティからユーリに視線を移して言う。
「あの2人はリサさんで十分抑えられます。輸送車両の荷台を確認してください! ソアラちゃんが居るはずです」
「はい、了解致しました!」
ユーリは答えると直ぐに荷台の後部扉を開放して内部を確認する。そして荷台に飛び上がり中の箱の上蓋を開放した。シーツをほどくとぐったりしているソアラを発見する。
「ローラ様! ソアラちゃん発見しました! 息はあります! 無事です」
ユーリの安堵した声が聞こえる。エリーはそれを聞いて微笑む。そしてエリーはアルティに近づいて行く。1mほど前で立ち止まり言う。
「やってくれましたね。当然報いは受けてもらいますよ」
アルティはエリーから視線を外せず瞳を痙攣させながらその言葉を聞いた。エリーはアルティの顔を見て微笑む。
「あなたは殺しませんよ。そして死なせませんから安心してください」
アルティは恐怖で顔が強張って声が出ない。エリーはアルティに背を向けるとリサに声を上げる。
「リサさん! ここの周辺に魔法結界を展開してください! いまから従属の契約を行います」
リサは驚いた顔をして言う。
「ローラ様、この者たちを生かすおつもりですか!? 従属の契約など手緩いことを……はい……申し訳ありません。ローラ様、私などの申し上げることではございませんでした」
リサはすぐさま拳銃をしまうと、ひざまずき魔力量を上げ周辺に強力な魔法結界を展開する。それを見て近衛士官とアルティはさらに驚愕する。
(配下でさえ……これほどの魔導士がいるのか……無理だ。こんなの無理だ。姉さんゴメン……)
エリーは周辺を感知して安心したように言う。
「ユーリさん、リサさんそれでは」
そしてエリーは意識を深部に沈める。(セレーナ、頼むよ。)
(エリー、わかった。あとは任せろ。我が審判を下そう)
エリーの意識が薄れてセレーナの意識と入れ替わる。そして瞳が朱色から真っ赤な色に変わり目は若干吊り上がり髪色が紫色から美しい銀髪に変わっていく。それを見てユーリは跪き右手をつくと頭を深く下げた。
「……」
アルティはエリーを驚愕の表情で見ている。(……女神……)
エリーはアルティを冷たい目で眺めて言う。
「我が名は、セレーナ・ブレッドリー忘れられた女神だ! アルティよ我がしもべとする。そしてサディもカインとやらも」
アルティはかなり動揺していたが、なんとか声を絞り出す。
「……な、なぜ……私のなまえを……」
エリーは答える。
「そなたのすべてを読み取った。それだけだ。そなたが心配している姉のクラリスの名もわかっておる」
アルティはその場に崩れ落ちてエリーの足元に這い蹲ると懇願する。
「ど、どうか……セレーナさま……姉だけは」
エリーはそれを聞いても表情を変えず魔力を上げ行く。そして白色の光に包まれるとその光を拡散させアルティ、カイン、サディへと照射する。エリーから拡散された光を浴びた近衛士官カインは痙攣したように地面に倒れこみ意識を失う。倒れていたサディもしばらく痙攣したようなようにもがき意識を再び失う。アルティはしばらくもがきながら耐えていたが気絶した。
それを見てユーリが顔を上げエリーに声を掛ける。
「セレーナ様! これはいったい」
エリーは美しい銀髪をたなびかせてユーリのほうを見て言う。
「第二の女神の紋章だ。従属の契約、スキルは付与されん、我に背くことは一切出来ん。意思を奪い我の意のままに動く人形と化すことも出来る」
ユーりはセレーナの姿を見てうっとりしながらさらに尋ねる。
「恐れながら! レベッカさんとはどう違うのですか?」
「レベッカは、第一の女神の紋章だ。スキルが付与され。我が許せば裁量が与えられ、ある程度自由に行動出来る。大きな違いは能力が大幅に向上するか、まったくしないかの違いだ」
そう言ってエリーはリサに視線を向け言う。
「リサ! ご苦労! ことはすんだ! もうよい」
エリーはゆっくりと地面に倒れ込む。そして、銀色の髪は紫色に変わり、瞳の色も朱色に変わった。ユーリが慌ててエリーに駆け寄り抱き起す。
「ローラ様!」
「……」
エリーは目を薄ら開けて言う。
「終わったね。ソアラちゃんも起きてるみたいだね」
ユーリに抱きかかえられながら起きるとソアラの立っている方向を見つめる。
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