第188話 ソアラ奪還
2国間和平交渉会議6日目夜。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、物品荷材搬入エリア。
エリーは輸送車両を見つけるとサディを伴って車両の前に飛び出す。そしてエリーは運転席に座っている近衛士官に声を上げる。
「申し訳ありません! 降りてもらえますか!」
運転席の近衛士官は顔を強張られてエリーを見たから諦めたように車両のドアを開けて地面に降りた。
エリーは更に助手席側に身を潜めている侍女に向けて声を上げた。
「隠れているあなたも降りてもらえますか! 訪ねたいことがあります」
助手席のダッシュボードに見えないように潜んでいたアルティがゆっくり顔を見せると助手席のドアを開けて車両から降りた。
近衛士官がエリーに敬礼すると申し訳なさそうに言う。
「ローラ様、申し訳ございません。私用で輸送車両を使ってしまいました。彼女と夜のドライブをしようと思いました」
エリーは2人を嫌な顔をして見る。
(この2人あくまでも誤魔化すつもりですね。ホントどう言うつもり……、明らかにソアラの反応がこの車両から出ているのに……どう言い逃れするのでしょう? でも……ソアラが簡単に拉致されるぐらいだから、かなりの手練れなのでしょうけど。とりあえず魔力開放して戦闘態勢とっておかないと)
エリーはすぐに神眼を発動、左目が朱色から赤色に変化する。それを見て近衛士官がぎょっとする。
「お2人のデートは残念ながら認められません! 荷台をあらためさせていただきます! よろしいですね」
アルティが前に出てエリーに頭を深く下げる。エリーは侍女制服の右胸の皇帝侍女章を見て少し怪訝そうな顔をした
「カイン大尉さまには、私がわがままを言ってご迷惑をお掛けしました。ローラ様……どうかカイン大尉には罪が及ばないようにどうかお願いいたします」
エリー2人を見てふっと息を漏らし笑った後に言う。
「もう時間稼ぎはいいから! 荷台のソアラを返して欲しいのだけど……ね」
近衛士官は冷静さを装いエリーを見て微笑み言う。
「……ローラ様……何をおしゃっていらっしゃるのですか!?」
エリーは魔力量を上げ全身に通すと侍女制服を着たアルティを見据えて言う。
「あなたは誰ですか? 皇帝侍女ではないのは明白です。どうやってその制服を手に入れたのですか? 城内に仲間がいるのですね」
近衛士官は腰の拳銃ホルダーにゆっくり手を掛けようとするとエリーは目を細めて声を上げる。
「私が武器を携帯していないからと思ってなめていませんか! 私は皇帝直属大魔導士ですよ。素手でも戦えますよ」
そう言ってエリーは魔力量を増大させると体が白色に輝き。そして光が伸びて左手が剣の形状をして光迸り始めた。近衛士官とアルティはエリーの魔道覇気に顔を強張らせて後方に退く。
「ローラ様……我々をどうするおつもりですか! 残念ながら逃がしてはくれないようですね……」
近衛士官はエリーに恐怖心を悟られないようゆっくり丁寧に言った。
「あなた方は、私を欺きそして……大切なものを奪おうとした。あなた達は罪を犯したのです。この大切な時期に……本当に分かっていない……」
エリーはそう言って2人を見て残念そうな顔をする。
「今……国家などという枠組みに囚われていてはダメなのです……」
エリーは間を置いてから2人を見据えて言う。
「じゃあ……本意ではありませんが」
「ソアラをおとなしく返してくれるのなら、命は助けましょう。あなた達では私には到底勝てません。無益な戦闘は避けたいのですが、どうですか?」
「……」
近衛士官とアルティは少しづつ後退する。
アルティは思っていた。(魔導士ローラ……なんて魔力量! そしてマナエナジーを武器具現化出来るほどの制御能力を有している。伝説級の魔道士じゃないですか……!? 私と師匠がいればなんとか対処出来ると思っていたけど……足元にも及ばない、これじゃあ逃げることも出来っこない。もうここで死ぬしかないのか)
アルティはエリーの後ろにサディがいることに気づき一瞬驚いた。いままでエリーの覇気に圧倒されサディがいることに気付かなかったのだ。
(師匠……)サディはアルティと視線をあわせ微笑み掛けるとエリーの背後に距離を詰める。そして素早く何かを取り出すとおもむろにそれをエリーに突き出した。
エリーは瞬間的に後方に膨大な魔力量を感知して直ぐに後方を振り返り防御態勢をとった。そしてエリー目の前でサディが呻きながら崩れ落ちて行く。
(……!?)
倒れたサディの後ろには黒い煙に包まれたような男性が立っている。そしてエリーとその煙に包まれた男性と目が合う。エリーは見据えた。
(こいつヤバイやつだ!)エリーは直感的に感じて魔力量を増大させ戦闘体制をとるのであった。
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