第186話 晩餐会
エリーは晩餐会に参加する
2国間和平交渉会議6日目夜。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、大ホール。
エリーは今、エルヴェス帝国との交流晩餐会に参加させられている。べランドル帝国、財界関係者、地方官僚、旧貴族、エルヴェス帝国外交官、在留財界人と挨拶を交わして親交を深める目的を達成するため、いつもになく社交的に振る舞っていた。エリーは髪を金色の髪飾りでまとめ、薄い水色のドレスを着ている。化粧は薄めに優しい雰囲気にしていた。エリーのいつものノーメーク軍服姿に見慣れたものは、エリーだと気づかないレベルに仕上がっていたのである。実際何処かの令嬢と勘違いされて交際申込みをする者もいた。エリーはそれを嫌な顔もせず丁寧にあしらった。
エランは皇帝らしく紺色の豪華な刺繍の入ったドレスを着用し、頭には美しい宝石のあしらわれたティアラをつけて、普段とは違う威厳と知性のオーラを放っている。
(さすが……エランお姉様! こういう場では違いますね)エリーが感心した顔をしてエランを見ていると男性が近寄って来て頭を深く下げる。
「ローラ様……お初にお目に掛かります。わたくし、アルバート•ギールンと申します。以後お見知り置きを……」
エリーは微笑みアルバートと名乗った男性を見上げる。身長はエリーより20cmほど高い、短く整えられたブロンズの髪、ブルーの切れ長の瞳、唇を若干緩め微笑みを浮かべている。年齢は20代後半くらい。自信を持った表情をしている。エリーは微笑み一礼する。
「ご挨拶ありがとうございます。エラン皇帝直属魔道士、ローラ•ベーカーです。よろしくお願い致します」
そう言いてエリーは再度頭を下げた。アルバートは直ぐにエリーの右手を優しくとって言う。
「……ローラ様、魔道師団編成の件よろしくお願いします」
「……!?」
エリーはアルバートの瞳を見て、何それ見たいな顔をする。アルバートは少し動揺した顔で言う。
「何か不快な事を申し上げましたか?」
「……」
エリーはアルバートの手を優しく振り解く。そして考えた。
(あゝ……そうだ。エランお姉様が言っていたような? 帝国でも魔道士部隊を創設すると。するとこのイケメンは関係者てこと!?)
エリーはアルバートに微笑み言う。
「そのお話しはいずれ致します。今日はこれ以上はご容赦ください」
(魔道士部隊の話は全然関与していないのに……話しも何もわからないものは無理だよね)
アルバートは少し寂しそう顔をしてから直ぐに笑顔を無理に作って言う。
「……失礼致しました。それでは別のお話しを。ローラ様にはいいなずけとか特定のお方はおられないと聞き及んでおりますが。本当でしょうか?」
「……!?」
エリーはアルバートから距離をとる。
「あゝ……すみません。特に深い意味は有りません。もしよければ私とお付き合い願えないかと思っただけです」
エリーはアルバートを見上げて考える。
(やっぱりコイツ女性の扱いに手慣れてる感じ……私あんまり好きなタイプではないんだよね。アルバート•ギールン……魔道感知では悪意とか敵意は感じ無いけど、この自信ありげな態度が気に入らない!)
「はい、いませんよ!」
エリーは少し嫌そうな顔で答えた。そしてさらに言う。
「せっかくの申し出、残念ですが陛下より恋愛は禁じられております。現状では任務に集中しなければならないのです」
アルバートは微笑みエリーを見て言う。
「そうですか……ですが陛下よりお許しが出れば良いという事ですね!」
「……?」
エリーは顔を傾けて嫌な顔をする。
「あゝ……ローラ様のご機嫌を損ねましたか? それは失礼致しました。私はあまり美しい女性の対応に慣れていませんので……大変な無礼を働いたようです」
そう言ってアルバートは深く頭を下げた。エリーはアルバートの顔を見て笑顔を作って言う。
「いいえ、お気遣いありがとうございます。それでは」
エリーは一礼してアルバートより離れようとする。そこへソアラがやって来て囁く。
「ローラ様は大変ですね! 私のようにお子様では声も掛けられません」
ソアラは白のパーティドレスを着て薄めのメークでより幼く見えていた。可愛くは見えるが確かにお子様にしか見えない。
アルバートはソアラを見て微笑み言う。
「これはソアラ様ですね。わたくしアルバート•ギールンと申します。よろしくお願いします」
そしてアルバートは一礼した。そしてエリーに深く頭を下げると離れて行く。
(引いた……引き際は心得ているようですね)
エリーはソアラを見て微笑み言う。
「ソアラちゃん、食事は取りましたか?」
「はい、適当にとりました。リサさんがお世話をしてくれました」
ソアラはエリーを上目遣いで見つめて微笑んだ。
「そう……なら良いけど私はなにも口に出来ませんでした。挨拶が忙しくて……」
そしてエリーはソアラの頭に手を触れて優しく撫でた。ソアラは少しい緩んだ顔をする。
エリーはエランの取り巻きがいなくなったのを確認するとソアラを見て言う。
「それじゃあ適当にね」
エリーはソアラから離れエランのそばに行った。そしてエリーは耳元で囁く。
「あのアルバートとかいうものに魔道師団編成よろしくお願いしますて言われたのですが!?」
「……アルバート……あゝ、それね! ギールン家の嫡男ね。最近復権して中央に戻って来たのです。アイクル摂政により地方に閉職されていたのですよ。元々王国魔道士家系の名門です。本人の実力も中々と聞いていますが……私には挨拶に来ませんでしたね。父親はご挨拶しましたが? アルバート殿はローラに魔道師団編成と言ったのですか……まだ話は全然進んでいないのですがね。困ったものですね」
エランは少し戸惑った顔をする。エリーはエランを見て言う。
「かなりのイケメンですが! 私のタイプではありません! それは言っておきますよ」
エランは微笑み言う。
「珍しいですね。ローラがそこまで言うとは……でも印象には残ったのですね。良くも悪くも」
エリーとエランの2人が話していると会場の視線が集まって来ていることに気づいた。エリーは微笑み周囲を見渡す。そしてそこへ黒色の礼装軍服を来たセリカがやって来て2人に敬礼する。いつもはパンツスタイルだが今日はスカートを着用してロングブーツを履いている。そしてスタイルが良いのがわかる。会場で注目を集めているひとりだ。
「エラン陛下! 定期報告です。警備に問題は有りません! 不審情報も有りませんのでご安心ください!」
そう言って再度敬礼するとセリカは2人の前から去って行った。エランはセリカを目で追いながら言う。
「セリカさんには、諜報統制官専任でやってもらいたいのだけどね……。でもね。帝国には人材が圧倒的に不足しているのよね。アイクル派閥から選別して登用はしているにですけど……信頼度に問題があって上手く行ってないにです。その点グラン連邦国は安定していて良いですね。羨ましく思います」
エリーはそれを聞いて微笑み言う。
「大丈夫です! エラン陛下のご威光があればなんとでもなりますよ。私も頑張りますのでご安心を」
「……まあ、そうよね。焦ったところで人材は湧いて来ないしね。ローラがいればブラウン商会の人材も活用出来るからとりあえずはしのげるけど……ありがとう!」
エランはエリーの手を優しく握る。エリーは瞳を見つめて微笑み頷いた。
そして会場の隅ではソアラが大ホール入口からお手洗いにいくため出て行くと、そのあとを追うように2人の侍女が出て行った。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!