和平交渉 第181話 大陸情勢2
2国間和平交渉会議6日目、早朝。
ここはエルヴィス帝国、べランドル帝国国境付近。エルヴィス帝国皇帝飛行船が、べランドル帝国国境守備隊基地に着陸していた。
「カールデン陛下、もう少し落ち着いて下さい」
カールデンはニース大将が言うと俯き手を握り締めて言う。
「やっと会えるのだぞ! 興奮もするだろう! 眠ることさえままならなかった。我ら一族の望みが叶うなだ」
ニース大将は呆れたように言う。
「カールデン陛下! 嫌われますよ。もう少し冷静さを保たないと、前回のように引かれますから気持ちを抑えるようにお願いします」
その言葉を無視するようにカールデンは飛行船のキャビンからタラップを下り地面に降りた。それにニース大将も続いた。そして飛行船の200mほど向こう側にはランカーⅡが2機が飛行準備体制を整えてプロペラを回している。
リサがカールデンに駆け寄り手前で深く頭を下げる。
「カールデン皇帝陛下! お迎え役を承りました。魔導士ローラ付き秘書官、リサ•ヒューズです」
カールデンは直ぐにリサに寄ると握手を求めた。戸惑うリサは一歩下がり言う。
「カールデン皇帝陛下! 私はそのような立場ではございませんのでご容赦ください」
リサはそう言って一礼する。カールデンは構わずリサに顔を近づけ囁く。
「リサ殿、あなたはローラ様の洗礼を賜りましたね。私にはわかるのです。もはや立場は私より上ですよ。私はリサ殿が羨ましい……。ですから握手くらいして下さいよ」
リサは少し驚いた顔をしてカールデンから距離をとって言う。
「カールデン皇帝陛下! 私は申し受けた役目を果たすだけです。どうかご容赦ください。立場を越えた対応は出来かねます」
後ろに控えていたニース大将がカールデンに言う。
「陛下! そこがダメなのです。リサ殿が嫌がっているではないですか。申し訳無い。リサ殿、謝罪致します」
リサは一礼するとニース大将を見て言う。
「ご理解感謝致します」
リサの後ろにいた皇帝護衛隊副長ビアが一礼して言う。
「カールデン陛下! それではご案内致します」
カールデンはビアを見て言う。
「これが噂に聞く皇帝護衛隊副長ビア殿ですね。噂に違わぬ美しさですね」
ビアはそれを聞いて平然と微笑み答える。
「カールデン皇帝陛下! お褒めのお言葉ありがとうございます。それではこちらへ」
カールデンはビアの反応に少しガッカリした顔をして言う。
「はい、お願いします。ビア殿」
そしてビアが歩き出すとカールデン達も続いた。ランカーⅡ2号機は搭乗員と機長ビアンカが搭乗口で出迎えカールデン達に一礼する。
「カールデン皇帝陛下! 機長を務めます。ビアンカと申します。帝都まで安全にお連れいたしますのでご安心ください」
カールデンはビアンカ機長を見て微笑み言う。
「よろしくお願いします」
そう言ってタラップを上った。追随する皇帝護衛もそれに続き搭乗して行く。最後にビア、リサが乗り込むと搭乗員がタラップを収納ドアを閉めた。
「ドアロック完了確認! 離陸してください!」
搭乗員が声を上げる。コックピットのビアンカ機長がインカムを通して言う。
「各員ベルトの着用をお願いします! 只今より離陸します」
リサがカールデン達にベルトの着用を説明してベルト着用を確認すると搭乗員に声を掛ける。
「ベルト着用確認しました。離陸OKです」
リサに手を挙げると搭乗員は内線インカムを通してコックピットへ連絡する。そしてランカーⅡ2号機のプロペラ出力が上げて機体が上昇を始めた。カールデンは隣に座るニース大将を見て言う。
「やはりグラン、べランドル連合は凄いな。女性の登用の多さにも驚くが、これらの飛行兵器を運用している。我らなど足元にも及ばぬ。我らがモタモタしている間にはるか先行っている」
ニース大将がカールデンを見て言う。
「陛下! 我らにも価値は有ります。でなければエラン陛下が会談などこうも早く応じてくれるハズはございません。ですから落ち着いて会談に臨んでください」
カールデンは頷き言う。
「そうだな。ローラ様にも申し上げなければならない事があるしな」
そう言ってカールデンはキャビンの窓の外を眺める。
◆◇◆◇
ここはライオネル連合共和国、オーリス市中央区外交局本部。
外交局長室には、執務机に座り資料を見ている40代のメガネを掛けた男性と机の前に立つスーツ姿の20代の黒髪の女性がいた。40代の男性は資料を机の上に置くと20代の黒髪の女性を見て言う。
「クラリス次長、どうかね。エラン陛下の動きは予想以上だね。君は策を打てるかね」
クラリス次長と呼ばれた20代の黒髪女性は目を細めて執務机に座る男性を見て言う。
「デアル局長! もう手は打っております。ご心配は無用です!」
デアル局長と呼ばれたメガネの男性は椅子から立ち上がり手を叩くと言う。
「さすが! クラリス次長だ! 抜かりは有りませんか?」
クラリス次長は顔を強張らせて言う。
「諜報、軍、外交局との連携調整はすでに完了して最終段階です。グラン連邦、べランドル帝国の好きにはさせません」
デアル局長は執務机の前に出るとクラリス次長の肩に手を回して言う。
「期待しているよ。クラリス次長! このままでは我が国は完全に置いていかれるからね。まあ元王族のコネを使って頑張ってくれたまえ。しかし、元王女様でもエラン陛下と君では恐ろしいほどの差がついたね。今やエラン陛下の大陸での評価は鰻登り。そして君はここで私の部下として働いている。頑張っても手柄は全て私のものだ。私が大統領にでもなったら君を局長くらいにはしてやるよ。それで今晩どうだ?」
そう言ってデアル局長がクラリス次長の腰に手を伸ばそうとするとクラリス次長は手を払い退ける。
「暴言はほどほどにしてください。上層部に訴えますよ」
デアル局長は機嫌の悪い顔をしてクラリス次長から離れると言う。
「そもそもこの国が不安定なのは、お前ら王族が無能だったからだ。それを立て直しているのは誰だ! 我ら下級貴族出身者や平民上がりの者達なのだぞ。お高く止まるのもいい加減にしてほしいものだ。嫌なら亡命すれば良いのに何故、留まり続ける?」
クラリス次長は体の向きを変えてデアル局長を見据えて言う。
「この国を救いたいからです! それだけです」
デアル局長は呆れた顔をしてクラリス次長を見る。
「そうか。なら私の妻になればもっとやり易くなるぞ。王家血統者なら大歓迎だ。妻を離縁しても良い。どうだ」
クラリス次長は嫌な顔をして答える。
「お断りします。真っ当な方法で救って見せます」
デアル局長はクラリス次長を見てから執務机に戻り椅子に座って言う。
「了解した。君の策の成功を祈る。まあ失敗しても責任は君に有る。その事は理解しておけ」
クラリス次長は冷たい目でデアル局長を見て言う。
「ご期待に応えて見せます。それでは失礼致します」
そう言ってクラリス次長は頭を下げて向きを変えると局長室から出て行った。
デアル局長はドアが閉まると呟く。
「バカだなぁ……、この国を救うなどと、とっとと諦めて国外に出れば良いものを。この国はもう救えない。クラリス様……何故だ? これだけ嫌がらせしても残るのだ」
そう言ってデアル局長はため息を吐いた。
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