和平交渉 第174話 ソアラ•アルベイン
エリーはソアラ中尉と一緒に出かけた。
2国間和平交渉会議5日目早朝、
ここはグラン連邦国首都べマン市、ブラウン商会本店敷地内。
エリーは商会内修練グラウンドをランニングしていた。隣にはソアラ中尉が並走している。
「ソアラさん、お伝えしておくことがあります。先ずは連絡係に徹して下さい。私の周辺で見聞きした事は私が許可しない限り、絶対に他者に漏らしてはなりません。たとえヨハネスさんでもです。それと帝国では私は皇帝直属魔導士ローラと呼ばれています。私のこれかの主任務はべランドル帝国で行いますのでローラ以外の名前は呼ばないでくださいね」
ソアラ中尉はエリーを見て頷き言う。
「はい、了解致しました。ヨハネス中佐からは詳細は伺っておりませんので……、順次指示を受けよとのことでした」
エリーは立ち止まりソアラ中尉を見て微笑む。
「これからシャワーを浴びたら出かけます。ソアラさんも直ぐに準備してね。軍服はダメですよ。あゝ、私の服を着て下さい」
ソアラ中尉はエリーを見て敬礼する。
「はっ! 直ぐに準備致します」
そしてエリーはソアラ中尉を見て嫌な顔をする。
「これからはソアラさんは私の秘書官だから、敬礼は無しね。もっと柔らかく会釈でお願いします。諜報潜入訓練とか受けてないの?」
ソアラ中尉がエリーを見て答える。
「基礎訓練は受けております。諜報活動は未経験です。申し訳ありません」
エリーはソアラの肩に手を乗せて微笑み言う。
「いいよ。これからレベルアップすればね」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
エリーはソアラ中尉を隣りに歩いて母屋へと向かう。
(ソアラさん……、絶対なんか隠している! 何なんだろう。違和感があるんだよね。でもまあしばらく様子見で行くしか無いけど)
エリーは母屋に着くと直ぐにシャワーを浴びて着替える。水色のロング丈のワンピースと久々にツインテールにして見た。そして着替えたソアラ中尉を見て唖然とした。どう見てもルイカと同級生くらいにしか見えない。エリーが幼年学科入学時期くらいに、着ていたワンピースを着込んで恥ずかしいそうにエリーを見ている。母ニールがソアラ中尉を見て嬉しいそうな顔で言う。
「ソアラさん、軍を辞めてうちに来ませんか? 衣料品部門の専属モデルとかどうですか? 本当にもったいない。エリー……、なんとかなりませんか」
エリーは戸惑った顔をして言う。
「お母様、無理に決まっているでしょう」
ニールがソアラ中尉のそばにより言う。
「本当……、可愛い! この見た目でエリーより二つ上なのでしょう。凄いわ! ソアラさんモテるでしょう?」
ソアラ中尉が少し怯えた顔で答える。
「いえ、同年代からはまったくです。可愛がられますがそう言うことは全然です」
「ルイカと並んだら、最強美少女コンビだね。ここまで着る服で変わるとわ。軍服の時とは別人ですよ。化粧しないほうが良いですよ」
エリーがそう言うとソアラ中尉は困惑して言う。
「化粧と髪型で幼さを誤魔化しているのです。お二人とも、もうご容赦ください。お願いします」
そしてリビングの電話が鳴りニールが取って応答するとエリーを見て微笑み言う。
「エリー、準備出来たそうよ。玄関まで来ているから出てくださいって」
「はい、わかりました。お母様行って参ります」
エリーは直ぐにソアラ中尉に視線を向けるとソアラ中尉も一礼して玄関へと向かう。
玄関前にははブラウン商会のリムジン車両が止まっている。護衛官がドアを開けて一礼するとエリーは直ぐに後部席に乗り込んだ。躊躇しているソアラ中尉を手招きして言う。
「ソアラさん早く乗ってください。早く要件を済まさないとニュードレアに到着が遅れます」
それを聞いてソアラ中尉はリムジン車両の後部席へ慌てて乗り込んだ。護衛官がドアを閉めて助手席へ乗り込むとリムジン車両は直ぐに動きだした。
ソアラ中尉が驚いたように言う。
「エリー中佐! このような高級車両、軍の幹部でも乗れませんよ。さすがブラウン商会のお嬢様なのですね。なぜ軍人などなられたのですか?」
エリーは直ぐにソアラ中尉を見て言う。
「私は好きで軍人になった訳では無いですよ。色々あってしょうがなく軍人をやっているのです。本来ならまだ高等学科の学生なのに無理矢理に大隊長やら課長をやらされているのですよ。ソアラさんがどのように聞いているかは存じませんが、平和なら私の役目などありませんからね」
ソアラ中尉はエリーを見て遠慮したように言う。
「私は、選抜飛び級だったので17才で、大学を卒業して請われて軍に入りました。家の事情もあったのですが、面白いかなと思って……」
ソアラ中尉はリムジンの窓の外を見て言う。
「高級住宅地区に向かっていますね。誰か要人に会われるのですか?」
エリーが微笑み言う。
「ええ、中枢院のアーサー卿のお屋敷に向かっています」
ソアラ中尉は驚いた顔をしてエリーに尋ねる。
「あの……、お伺いします。エリー中佐は中枢院のお方に直接面会出来るのですか? 閣僚でさえ簡単にお会い出来ないと聞いております。エリー中佐の本当のお立場は?」
エリーは嫌な顔をして答える。
「詮索は無用です。言ったはずですよ。まだあなたは知らなくて良いことです。いずれわかるかもしれませんが。今は知るべきでは無いと思います」
ソアラ中尉は顔を下げる。
「申し訳ありません。私はただの連絡係でした」
エリーはソアラ中尉を見て思っていた。
(この見た目には騙されないよ。魔力も隠蔽しているみたいだし技量も高い。本当の姿はもっと優秀なんだろうけど、ワザと弱気に見せている。何を探っているのか?)
ブラウン商会のリムジン車両はアーサー卿のお屋敷の門で一旦チェックを受けると、ゲートが開きさらに奥に移動する。ゆっくり屋敷内の道路を走行して玄関前につけた。そして護衛官が後部席のドアを開ける。
大きな玄関ドアが開くと執事長が深く頭を下げて声を上げる。
「エリー様! おはようございます。旦那様がお待ちです」
エリーは一礼して言う。
「申し訳ありません。このような早くから」
執事長はエリーの隣りのソアラ中尉を見て少し顔を緩めて言う。
「おはようございます。エリー様のお付きのお方ですか?」
エリーは執事長を見て微笑み言う。
「はい、そうです。私付きのソアラと申します。一緒に面会をお願いしたいのですが。ダメですか?」
執事長は直ぐに答える。
「旦那様に伺います。先ずはロビーにお入りくださいませ」
メイドが階段を降りて来てエリーとソアラ中尉を玄関までエスコートする。
執事長はエリーに一礼すると直ぐに確認のために2階への階段を上がって行った。
ソアラ中尉はそれを緊張した面持ちで見つめている。エリーはソアラ中尉の肩に手を置いて言う。
「どうしたの、緊張する必要はないよ。それとこれからのことは極秘事項だからね」
ソアラ中尉がエリーを見て言う。
「はい、了解致しました」
そして執事長が戻って来て言う。
「旦那様はよろしいと申されました。それではどうぞ」
エリーとソアラ中尉はロビーから2階階段を執事長と一緒に上がって行く。前回と同じ部屋に塔されるとアーサー卿が深く一礼して言う。
「エリー様、また直ぐにお会いできるとは嬉しい陰りです」
エリーも深く一礼して言う。
「このように朝早く申し訳ありません」
エリーは隣りのソアラ中尉を見て紹介する。
「私の連絡係になりました。ソアラと申します」
アーサー卿はソアラ中尉を見て微笑み言う。
「ソアラさん……、魔導士すか? 見た目にそぐわぬ技量をお持ちのようですね。流石にエリー様に仕えるだけはあると思います」
アーサー卿はエリーを見て言う。
「まあ、お掛けください」
エリーは一礼してソファーに座る。アーサー卿はソアラに微笑み言う。
「ソアラさんもどうぞ座ってください」
ソアラ中尉は驚いた顔をして頭を下げると直ぐにエリーの隣りに座った。
「あの件は現在問題なく進行中です。ただ起動にはエリー様のお力が必要ですので、その時はよろしくお願いします」
アーサー卿がソファーに座りながら言った。
「ありがとうございます。直ぐに見つかったにですか?」
エリーが言うとアーサー卿は嬉しいそうに答える。
「ええ、場所はすでに把握していました。引き出すのに少し手間取りましたが、それほどの問題は有りませんでした」
「そうですか」
エリーはそう言ってソファーから立ち上がるとアーサー卿の耳元で呟く。アーサー卿は直ぐに声を上げて否定する。
「……エリー様、知りませんよ。私はそのようなことはしておりません」
エリーはアーサー卿から離れて言う。
「違うのですか? あたりと思ったのですが」
そう言ってエリーはソファーに座る。アーサー卿はソアラ中尉の顔を見つめてからエリーに視線を移して言う。
「わかりました。調査をしてみます。また後日連絡申し上げます」
エリーはアーサー卿を見て微笑む。
「本当に違うのですか? 調査をする振りして誤魔化しているのでは?」
アーサー卿は直ぐに言う。
「ハッキリ言って私には必要か有りませんから、エリー様の動向は手に取るようにわかるのですから」
エリーはアーサー卿を見て嫌な顔をして言う。「では調査をお願いします」
エリーはそう言ってソファーから立ち上がり一礼して歩き出すとアーサー卿が言う。
「せっかくですから、一緒に朝食でもいかがですか?」
エリーは立ち止まりアーサー卿に向かって頭を下げて言う。
「アーサー様、大変申し訳ありません。アンドレアに急ぎの要件がありまして急いで出発せねばならないのです。またの機会によろしくお願いします。それでは失礼致します」
エリーはソアラ中尉と一緒に部屋から出て行った。ドアが閉まるとアーサー卿は直ぐにソファーに座り呟く。
「エリー様、何を心配されているのか?」
そしてアーサー卿は受話器を取り何処かへ連絡を取り始めた。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!
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