和平交渉 第172話 エランの憂鬱
エリー付き部隊士官ソアラ中尉登場。
2国間和平交渉会議4日目午後。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城皇帝執務室。
エランは執務机の書類を処理しながらビアの顔を見て寂し顔をする。
「エリーは明日の午前中でしたね?」
ビアがエランを見て微笑み言う。
「いいえ、予定が変更になっています。アンドレアに立ち寄られからになるので、午後になります」
エランがガッカリした顔をして言う。
「私に連絡は有りませんでした……。昼食を一緒に撮れると思ったのに。急な要件ですか?」
ビアがエランを見て遠慮したように言う。
「申し訳ありません。詳細は伺っておりません。直ぐにセリカ様に確認致します」
そう言ってビアは椅子から立ち上り歩き出そうとするとエランが声を掛ける。
「ビアさん結構です。仕事を続けてください。セリカさんを呼び出します」
ビアは戸惑って言う。
「いえ、セリカ様は、今、お忙しいので直接行って参ります」
エランは少し口を緩めて言う。
「ビアさん、あなた息抜きにしたいにでしょう? 30分ほど休憩にします。その間に聞いてきてください」
ビアは嬉しいそうな顔をしてエランを見て言う。
「エラン陛下! ありがとうございます! 確認して参ります」
そう言ってビアは執務室室から出て行った。エランは部屋のドアが閉まると、受話器を取りボタンを押して言う。
「エランです。レベッカさんをお願いします」
直ぐに受話器からレベッカの声がする。
『エラン陛下! どうされました。ハル閣下に御用家でしょうか? 直ぐに折り返し連絡致します』
エランは直ぐに言う。
「いいえ、レベッカさんにお聞きしたいのです。エリーの事なのですが、アンドレアに立ち寄るとのことですが私には話せない内容なのですか? 私に直接連絡がないのは納得いきません」
レベッカが少し間を置い言う。
『いいえ、そのようなことは無いと思います。エリー様は今、べマン大隊本部で色々忙しいのではないかと思います。特に問題は発生しておりませんのでご安心ください』
「私に言えないことなのですか?」
レベッカは直ぐに答える。
『いえ、電話では盗聴の恐れがありますので直接お伝えする方がよろしいかと』
「セリカさんは知っているのですか?」
『はい、伝えております。陛下にはエリー様より直接連絡があると思いお伝え致しませんでした。申し訳ありません』
レベッカが申し訳なさそうに言った。
「レベッカさん、良いのよ。エリーが悪いのだから……、まあ確認してみます。時間をとらせて申し訳有りませんでした」
そう言ってエランは電話を切ると椅子から立ち上がる。
(エリー……、定期連絡入れるて言ってたのに、もう2日連絡が無い)
エランは執務室から出て皇帝護衛隊待機所へと向かった。
◆◇◆◇
ここはグラン連邦国首都べマン市、首都防衛隊基地内、エリー大隊本部。
エリーは諜報分析室でヨハネス中佐と今後について諜報隊員を交え打合せをしていた。
「エリー中佐! べランドル帝国皇帝護衛隊ビア様から電話が入っております。どうされますか? 移動端末のほうへ回しますがよろしいですか」
諜報士官がエリーに尋ねた。
「はい、ヘッドセットをください」
エリーは通信端末とヘッドセットを諜報士官から受け取る。そして部屋の隅に移動した。
「はい、エリーです。なんでしょうか?」
エリーが答えると、ヘッドセットからエランの声がする。
「エリー……、あなた連絡もよこさず」
エリーは慌てて諜報士官に声を上げる。
「すみません! 魔道暗号直通回線に切り替えてください!」
諜報士官は直ぐに通信回線端末を操作して中継機から直通魔道暗号回線に切り替えた。エリーは諜報士官に確認すると奥の個室に入りドアを閉める。
「お姉様! どうしたのですか!」
エリーが機嫌の悪い声で言った。ヘッドセットの向こうから悲しそうな声がする。
「エリー……。忙しいのはもちろん理解しています。ですが……ちゃんと連絡は入れてください」
エリーは少し間を置い言う。
「はい、そうですね。約束を守らなかった私が悪いと思います。ゴメンナサイ。それでリサさんの件も聞きましたか?」
『いいえ、あなたから直接聞こうと思って連絡したのです』
エランの寂しそうな声がヘッドセットから聞こえる。
「実はリサさんを洗礼したのです。ですからアンドレアへ謝罪と言うか言い訳と言うか……。それでアンドレアのブライアン魔道師団長を訪問することになったのです。まあ、エランお姉様には迷惑は掛けません」
エリーが申し訳なさそう言った。エランはそれを聞いて言う。
『何を言っているのですか! エリーは大切な私の妹です。私が謝罪して済むのならいくらでも謝罪しますよ』
エリーは直ぐに言う。
「エランお姉様! ダメですよ。エランお姉様はべランドル帝国皇帝と言う立場が有ります。そんな軽々しく謝罪などと」
エランは言う。
『エリー、あなたこそ自分の立場を理解していません。あなたの価値は私など及ばないのです。あなたがいなければ帝国の政変も連邦国の和平も成っていないのです。そのことは周りの者は理解していますよ。だからエリーの周りのは人々が集まるのです。そして私もあなたを慕いとても大切に思っているひとりです。だから寂しいことは言わないで』
エリーはエランの声を聞きながら思っていた。
(エランお姉様……、ありがとう。わかったよ。もっと頼りにするよ)
「エランお姉様、ありがとう。言葉は受け取ったよ。明日午後には帰るますので、お待ち下さいね。それでは仕事が残っているのでこの辺でよろしいですか」
『エリー、ゴメンね。待ってるよ。私も仕事がまだ山のように有るんですよ。皇帝がこんなに忙しいとは思わなかったわ。じゃあね』
そう言ってエランは通信を切った。エリーはヘッドセットを外して、個室から出ると先ほどの諜報士官に通信端末を渡した。
「ありがとうございました。では先ほどの続きを」
そう言ってエリーはヨハネス中佐を見て微笑む。
ヨハネス中佐がエリーに尋ねた。
「帝国で何か?」
「いいえ、特に問題は有りません」
エリーは直ぐに答える。そして水差しを取りコップに水を注ぐ。
「エリー中佐、先ほど申しました。こちらの部隊からエリー中佐付き連絡士官を付ける話ですが、了承くださいますか? 連動性を上げるためにも必要などですが」
「ええ、もちろんです。ですが当然一定の技量を要した者ですよね。私が護衛しなくてならないようでは困ります」
エリーが少し嫌な顔をしてヨハネス中佐を見て言った。
「はい、そこは大丈夫です。上級魔法士、上級剣技士レベルではあります。そして頭の回転も早く要領も良いです。たぶんエリー中佐は気に入ってくださると思います」
ヨハネス中佐は受話器を取って言う。
「ソアラ•アルベイン中尉にこちらへ来るように伝えてください。エリー中佐がお待ちです」
ヨハネス中佐は受話器を置くとエリーに言う。
「しばらくお待ち下さい。ソアラ•アルベイン中尉、女性諜報士官です。中央大魔法士学科、主席です。残念ながら魔法量が少なく特級には届きませんでしたが、いずれ鍛錬を積めば特級レベルに達すると思います」
そして慌てたように諜報分析室のドアが開き小柄な女性士官が入って来て、ヨハネス中佐の前に来て敬礼する。
「ソアラ•アルベイン中尉! 参りました!」
エリーはその女性諜報士官を見る。身長はエリーよりだいぶ低い。150cm無いくらい、見た目は10代前半くらいにしか見えない。
ソアラ中尉はエリーを見て敬礼すると言う。
「エリー中佐! ソアラ•アルベインと申します。よろしくお願い致します」
エリーはソアラ中尉を見て微笑み言う。
「ソアラ中尉……、おいくつですか? 私よりまさか下?」
ソアラ中尉は戸惑った顔をしてエリーを見つめる。
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