和平交渉 第164話 中枢院アーサー卿
エリーはアーサー卿に依頼する。
2国間和平交渉会議3日目午後。
ここはグラン連邦国首都、べマン市。
エリーはべマン市北区の高級住宅街の大きな塀に囲まれた屋敷に来ていた。あの後、父ジョンにより手配をしてもらい中枢院メンバーである。アーサー卿の屋敷を訪れているのである。
大きな玄関ドアを入ると執事が深く頭を下げてから声を発した。
「エリー様! 旦那様がお待ちです。申し訳有りませんが。ジョン様は別室にてお待ちくださるようお願い致します」
執事の横にいたメイドが前に出て一礼するとジョンに声を掛ける。
「ジョン様、こちらへ」
メイドがジョンを見て言った。そしてジョンは頷きメイドともに一階の奥へ移動して行く。
エリーは執事を見て微笑み言う。
「案内お願い致します」
「はい、こちらへ」
エリーは執事と一緒に中央階段を登る。2階の廊下をしばらく歩いて執事は奥のドアで止まりノックをすると部屋の中から声がする。
「入れ!」
執事はドアを開けて、エリーに手で部屋に入るように即した。それを見てエリーは執事の横を通り部屋の中へ入っる。部屋の中に立っている男性がエリーを見て微笑み一礼するとエリーも頭を下げて言う。
「お久しぶりです。アーサー様」
「エリー様から、ご連絡を頂けるとは私が驚いております」そう言ってアーサー卿は執事に視線を向けると執事は一礼してドアを閉め出て行った。
「エリー様、いえ、セレーナ様、何か重要な御用でしょうか? 急ぎの要件ですね」
エリーは直ぐにアーサー卿の近くに寄ると呟く。
「ローゼは今どこにいますか? ここ10年接触が無いのですが」
アーサー卿はエリーを見て微笑み言う。
「まあ、お座りください。お話致します」
エリーは奥の大きなソファーへ座るとアーサー卿もテーブルの反対側のソファーに座った。
「ローゼ様は表にはお姿を絶対にお見せにはなりません。我々使徒ですら居場所は存じません。定期的な連絡指示は有りますが、ほぼ一方的です。それは、アクセリアルの直接攻撃を恐れてのことです」
エリーはアーサー卿を見て尋ねる。
「ローゼは狙われているのですか?」
「はい、ローゼ様はアクセリアルの邪魔者ですから、まあ、始まりは1000年前の失態ですかね」
アーサー卿はエリーに少しためらったように言った。
「1000年前の失態?」
エリーは少し顔を上げてアーサー卿を見て言った。アーサー卿は視線を外して言う。
「ローゼ様は愚かだったのです。後悔はされておられたのですよ……、本当に」
「あゝ、そう言うことですね……」
エリーは納得したような顔をして言った。そしてアーサー卿はエリーを眺めて尋ねる。
「それにしてもセレーナ様は変わられましたね。武一辺倒だった頃とは……、外見もそうですが可愛くなられた。雰囲気も柔らかく知性を身につけられた様ですね」
エリーはアーサー卿を見て嫌な顔をして言う。
「アーサー様、それではまるで私が以前はただの筋肉バカのように聞こえますよ」
アーサー卿は少し慌てたように言う。
「いえ……、そんなつもりはございません。思慮深くなられたということです。誤解なさらないでください。より高見の智と武を兼ね備えられたと言うことです」
エリーは機嫌の悪い顔をしてアーサー卿を見つめて言う。
「私をそんなに褒めてどうしたのですか? あなたはローゼの熱狂的な支持者ではなかったのでは無いですか?」
アーサー卿はエリーの瞳を見つめて言う。
「はい、今のセレーナ様ならお仕えしても良いかと思ったからです」
エリーは改めてアーサー卿を見る。
年齢は40才前後、身長はジョンお父様より少し低い180cmくらいだろう。ブロンズのショートヘア。そして切れ長の目にブルーの瞳。完全にエリーの好みのタイプだった。
(え……、転生してアーサーさんかなりのイケメンになりましたね。まあい良いけどね)
エリーはハットして思考を切替える。
「実は至急お願いしたいことがあるのです。ローゼの守護体である。レガリアをこちらに欲しいのです」
アーサー卿はエリーを見て微笑み言う。
「はい、承りました。至急探し出し、セレーナ様に献上致します」
「えーーっ! ローゼの許可は要らないの?」
エリーは驚いたように言った。
「ええ、問題有りません。ローゼ様にはセレーナ様の要望には応えるようにと仰せつかっておりますので」
「そうですか。では大急ぎでお願い致します」
アーサー卿はソファーから立ち上がると微笑み言う。
「3日ほどあればお届け出来ると思います」
エリーはソファーから立ち上がり一礼して言う。
「アーサー様、ご協力感謝致します」
それを聞いてアーサー卿はエリーに深く頭下げた。
「セレーナ様、勿体無いお言葉、今後も何か御用があればなんなりとお申し付けくださいませ」
エリーは少し戸惑った顔をしてアーサー卿を見て言う。
「アーサー様、私は過去の出来事を忘れていませんよ。ですからあなたを残念ながらまだ信じることは出来ません。ご容赦ください」
アーサー卿は残念そうな顔をしてエリーを見る。
「セレーナ様……、ごもっともです。私も信用を勝ち得るよう尽力致しますので、どうかよろしくお願い致します」
アーサー卿はそう言ってエリーの前で跪き頭を深く下げた。エリーは驚いた顔をしてアーサー卿を見て言う。
「アーサー様、もう勘弁してください。私は気分が悪くなりました」
アーサー卿は寂しそうな顔をしてエリーを見上げる。
「申し訳有りません。どうやらやり過ぎたようです」
そう言って立ち上がりエリーの手を取っる。
「セレーナ様、ご依頼は早急に果たします」
「では、アーサー様、これで失礼致します」
エリーはアーサー卿に一礼するとドアへ向かう。アーサー卿は寂しそうな顔をして見送った。
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