和平交渉 第150話 帝国魔道士ローラ
和平交渉会議2日目早朝。
ここはべランドル帝国、帝都ドール城内、内壁通路。-エリーは早く起きてランニングをしていた。隣にはエランが並走している。
「……ローラ! どうかしら? これくらいなら大丈夫でしょう」
エランがエリーの顔をあまり余裕のない表情で見て言った。エリーは嬉しいそうにエランを見て頷き言う。
「はい、お姉様思ったより体が使えていますね。記憶の共有の賜物でしょう。でも根本的には鍛錬していないのですから無理は禁物ですよ」
「エラン陛下! ローラ様! おはようございます」後ろから男性の声がする。近衛士官バラン中尉だ。
「エラン陛下! ローラ様がお付きなので護衛の必要は無いと存じますが。お供いたします」
バラン中尉を見ると軍服でなく修練着を着ている。そして腰には拳銃ホルダーを装着していた。エリーがバラン中尉に振り返り言う。
「良い心掛けです。ペースを上げますか?」
それを聞いて隣のエランが嫌な顔をする。
「ローラ、バラン中尉が可哀想ですよ。これくらいで良いでしょう」
「エラン陛下、まだ余裕と言ってらっしゃいましたよね。だめなのですか?」
エリーが微笑みエランに言った。
「……ローラ、そんなに意地悪なのですか」
エランが少し嫌な顔でエリーを見る。
エリーは後ろを振り返り嬉しいそうに言う。
「フランク少佐は、あれからいかがですか?」
バラン中尉が少し不思議そうな顔をしてエリーを見る。
「ローラ様、フランク少佐をご存知なのですか?」
エリーはペースを下げてバラン中尉の隣に並んだ。
「エラン陛下から詳しく聞いています。前回の騒ぎでフランク少佐は陛下に女を紹介しろと言ったとか。私は大笑いしてしまいました」
バラン中尉はエリーを見て言う。
「……あの日以来、人が変わったように態度が変わりました。修練にも励んでおります。それもう一生軍刑務所に収監されるところを不問とされたのですから、私も驚いております。もう別人です。エラン陛下に生涯忠誠を尽くすと事あるごとに申しております」
エリーは、バラン中尉の顔を見つめて少し嫌な顔をする。
「人はそんなに変わるのものなのですか? よっぽどショックを受けたのですね」
バラン中尉がエラン陛下を遠慮したように見て言う。
「エラン陛下は、今日は少し調子が悪いようですが……」
エリーは微笑み言う。
「そうですね。エラン陛下は少し体調が良く無いようです」
エランはエリーに追いついて微笑む。
「ローラ! 私の悪口でも言っているのですか?」
エリーはエラン残念そうに見て言う。
「いいえ、エラン陛下の調子についてお話しをしているのです」
3人はペースを合わせて仲良くランニングを続けた。
◆◇◆◇
ここはベルニス王城内、国王執務室。
「ローラ様に臣下の申し込みを……、エルヴィス皇帝が?」
ウィンは機嫌悪そうに文官の報告を受けて声を漏らした。
「確かにローラ様は、偉大なるお方ではある。しかし、一国の皇帝がそうも簡単にか? 何かあるのでは無いか? お前達はエルヴィスのカールデン周辺を探れ。問題があると判断すれば処分も必要ですかね」
ウィンは部屋で跪く3人を見て目を細める。そして少し考え微笑み言う。
「ローラ様の障害は私達が駆逐します。あなた達も覚悟して掛かってくださいね。我が力役立てる時が来たのです」
「アレッサンドロ国王はいかが致しますか? 影武者でこのまま誤魔化せません」
ウィンの前に立つメガネの文官が言った。
「ええ、とりあえず2ヶ月はこの体制で維持せよとローラ様のご命令です。あとは第1王子を国王にする段取りです」
ウィンが嬉しいそうに言った。文官はウィンを見て一礼をすると言う。
「では、ワーベリー王子に引継ぎの準備を進めます。実の親がここにいないことに、気づいていないのでしょうか?」
ウィンは微笑み言う。
「ワーベリー王子は気づいているでしょう。ですが気づいてないフリをしていると思います」
文官はウィンを見て少し遠慮気味に言う。
「ワーベリー王子は国王よりかなり優秀であると思います。ですのでローラ様に早くお引き合わせた方が良いかと思います」
ウィンは目を閉じて言う。
「ワーベリー王子は王族の中では期待を持てますが? ローラ様にとりあえず会ってもらいますか。ローラ様は今、ドール城におられる。気に入ってもらえれば良いですが……」
文官はウィンを見て頭を深く下げて言う。
「はい、了解致しました。手筈を整えます」
ウィンはソファーから立ち上がりアレッサンドロ国王の影武者、グレンに言う。
「しばらく頑張ってくださいね。終わったら隠居生活をさせてあげますからね」
◆◇◆◇
ここは帝国領、バレット市連邦国軍駐屯地。
薄紫のショートボブ、茶色の瞳の女性士官が大隊本部テント内で打ち合わせしていた。怪我より復帰したエマ大尉である。新生エリー大隊副長に任命され今、連邦国首都べマンに移動準備を忙しくしている。
「これが終われば、私はドール市へ向かいます。あとはミラー中尉にお願いしますね」
隣にいたミラー中尉が微笑みエマを見て言う。
「エリー中佐にお会いするのですね。私達がお会い出来るのはしばらく先ですね。中佐は今、特別任務遂行中とのことで戻って来れないのですよね」
エマは頷き言う。
「本当……、エリー隊長は凄いお方ですね。遥か先に行ってしまわれた。私が妹のように可愛がっていたのが嘘のようです」
エマは一瞬寂しそうな顔をしてミラー中尉を見る。大隊本部テントの入り口から赤髪の女性士官が入って来る。そしてエマに声を上げた。
「エマ大尉! エリーのところへ行くのだろう。私も連れて行ってくれぬか」
「ジェーン中佐、それはどう言うことでしょうか? 許可は得ているのですか」
エマは少し戸惑った顔をしてジェーンを見て言った。それを聞いてジェーンは微笑み言う。
「許可はとっていない。だからエマ大尉、ハル中将に許可をとってくれ、頼む!」
エマは困った顔をしてジェーンを見て言う。
「はい、ハル局長に連絡をとりますが。結果は保証出来ません。管轄が違うのですが問題になりませんか?」
ジェーンは右手を挙げて言う。
「参謀総長には許可はとっている。あとはハル中将にOKをもらえば良いのだ」
「はい、旦那さんにお会いになるのですね。エリー中佐はついでですね」
エマは少し微笑みジェーンの顔を見る。ジェーンは少し照れたような顔をして視線を逸らした。
「ジェーン中佐! 了解致しました」
そう言って、エマは暗号無線機を操作してハル中将へと連絡をとってしばらくやり取りをする。エマは振り返りジェーン見つめて言う。
「ジェーン中佐、運が良いですね。ハル中将に直ぐに繋がりました。同行を許可するとのことです」
ジェーンは嬉しいそうにエマを見て言う。
「エマさんありがとう。では、出発はいつだ」
「はい、30分後に出発します。2時間ほどでドールに到着します。あゝそれと軍服はダメですよ。スーツに着替えてください」
エマがそう言うとジェーンは慌ててテントから出て行った。エマは微笑みそれを見送った。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。