和平交渉 第145話 エリー出撃する
エリーはエルヴィス帝国国境へ向けて出撃した。
ここはベランドル帝国、帝都ドール市ドール城、皇帝護衛隊重装機兵待機エリア。
帝国、連邦国間和平交渉会議一日目、正午。
エリーは、艶消し色に塗装された、攻撃型垂直離着陸機ベルダーのコックピット内にいた。サードシートにはリサが緊張した様子で搭乗している。
あれからマーク宰相と30分ほど話して昼食後、ここに来ている。帝国東部国境付近で不穏なエルヴィス帝国の情報を確認したためマーク宰相の依頼で出撃準備をしていた。
ベルーダとは、ブラウン商会新鋭可変翼垂直離着陸機、対空対地攻撃機である。昨日深夜に帝都に届いたばかりだ。整備調整が完了して今しがた飛行出来るようになっていた。
「ローラ様、今よりでますか?」リサは白色のパイロットスーツを着用して強張った顔で言った。
エリーはパイロット用ヘルメットを被り言う。
「ジャアーさん、お願いします。この機体は初めてですからお手柔らかにお願いしますね」
一番前のパイロットシートに座っている金髪の男性が振り返って微笑む。
「はい、ランカーⅡとは別物なので、驚くかもしれませんが。まあ直ぐになれると思います。後ろのお嬢さんはトイレパックをきちんと着用してください。漏らされては困りますからね」
それを聞いてリサは少し嫌な顔をした。
「ええ、大丈夫です。水分はそんなに取っていませんから、お漏らしなんてしません」
(私はアンドレアの特級魔導士です。それに空を飛ぶことには慣れています。いらない心配です)
そう答えるとリサはヘルメットを装着する。
エリーは酸素マスクを着用してバイザーを下ろした。リサも同様に酸素マスクを装置してバイザーを下ろす。
そしてヘルメットのインカム越しにジャーアの声が聞こえる。
「ランカーⅡのようにコックピット内は完璧な気圧空気濃度が十分調整されていません。軽減簡易装置だけですので、飛行中はマスクは外さないでください。絶対ですよ」
リサは頷き言う。
「マスクを外せばどうなるのですか?」
「気分が悪くなる程度なら良いのですが。高度にもよりますが意識を失います」
ジャーアがすぐに答えた。
「それとシート横の大きいフックを引っ張るとキャノピー、プロペラが飛散分離されシートが強制射出されます。そのあとパラシュートが開きますので引っ張らないでくださいね」
エリーがそれを聞いて言う。
「緊急脱出装置ですね」
「そうです。機体緊急時以外は操作しないでください」ジャーアは答えるとすぐにコックピットの正面パネル操作する。
「それでは離陸体制に移行します。ベルト、ヘルメット、マスク装着確認してください。それと正面パネルにアラーム表示が出ていないか確認してください」
「オールグリーンランプ、警告表示はありません」エリーがすぐに答える。リサも続いて答えた。
ベルーダはエリーの搭乗機意外に2機が同行出撃する。今回、3機で作戦行動を行う予定である。
ベルーダ3機はプロペラ回転出力をプライマリーからセカンダリーに移行させた。そしてジャーアは僚機に手で合図を送って確認すると声を上げる。
「キャノピー閉めます。注意してください」
コックピット内のレッドランプが点滅してキャノピーシールドが後ろから前へスライドしていく。そしてキャノピー防風ガラスガ閉じると、ベルーダはホバーリング上昇を始めた。3機並んでドール城上空に上昇して、可変翼を調整移動すると速度を上げる。そして高度をさらに上げていく。
「この機体やはり小型な分だけランカーⅡとは違いますね」
エリーがインカム越しにジャーアに話し掛ける。
「もちろん運動性能、加速性能はランカーⅡの遥か上です。格闘戦だって低空ならバルガの機体とでもやり合えますよ。まあ機体特性を十分把握出来ていればどうとでもなります」
ジャーアがすぐに嬉しそうに答えた。
「エルヴィス国境まであと50分ほどで到着出来ます」
エリーは少し考えてから言う。
「国境付近を低空で侵入して展開中のエルヴィス帝国軍に警告を発します。それからあとは考えてます。それでお願いします」
ジャーアはエリーにそれに対して聞いた。
「もし問答無用で攻撃してきたらどうしますか?」
エリーはすぐに答えた。
「はい後方待機のランカーⅡでエルヴィス帝国軍を爆撃して壊滅させます。それで終わりです。この機体の攻撃力を見て仕掛けてくるようならよっぽどの無能者です。もしそうならどうしようもないですけどね」
エリーはインカムを切り替えてリサに話し掛ける。
「リサさん、どうですか? 気分悪く無いですか?」
リサの緊張した声がする。
「大丈夫です。飛ぶのには慣れていますから」
ベルーダ3機は高度7000mほどで目的地へ安定飛行している。天候は安定しており機体の揺れもない。
「ここで機関砲の試射をしておきますので、びっくりしないでください」
ジャーアからのインカム音声が入った。
「はい、了解です」
〈どーーっ! どーーっ!〉若干の音と振動が機体に伝わる。ランカーⅡより明らかに早い速度で飛行しているのはエリーにもわかった。
(この機体操縦してみたいですね。ワクワクします)
エリーは朝のモヤモヤした不安な気持ちはこのベルーダに搭乗してすっかり忘れ去っていた。そして3機のベルーダは魔道ジェットタービンを起動させさらに速度を上げた。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!
今後もよろしくお願いします。