和平交渉 第141話 サンドラの消息
皇帝暗殺未遂事件翌日、深夜。
ここはベルニス西部の港湾都市アレー、港湾倉庫街の建物内。
サンドラは簡易ベットに横になって睡眠を取っていた。外で警戒している筈の配下の気配が消えたことに違和感を覚えサンドラは周囲の気配を探る。
(おかしい……、配下のものの気配が無い? 敵の気配は無いが……)
〈トン、トン〉軽く部屋をノックする音がする。サンドラは配下と思いドアを開けるとそこには見慣れた顔が立っている。サンドラは男を見て言う。
「遅くに来たものだな」
ドアの前に立っている男はサンドラに微笑む。
「申し訳ありません。色々有りまして遅くなりました。それでサンドラさんはローラ様をどう思われていますか?」
サンドラは唐突な質問に一瞬戸惑った顔をしてから言う。
「ローラは危険だ。だからいずれ処分せねばならんとは思っている。戦闘能力も高いが、鼻も効く厄介な奴だ」
「ではローラ様に危害を加えると言うことですね」
ドアの前に立つ男はそれを聞いて表情を変えて言った。
「何を言っている。危害?」
サンドラは男の言葉が理解出来ないように言った。
「まあ入れ。私はもう少し眠りたい。城の様子はどうだ」サンドラはそう言って男を部屋に招き入れようとする。男は怒りの表情をしてサンドラを見ている。
「残念です。サンドラさん、あなたはもう少し頭の良い方だと思っていましたが、この大陸に安寧秩序をもたらすお方を敵に回すとおっしゃるのですね。あなたの先を見通す力もたかが知れているのですね。私はサンドラさんが目的を共有する仲間だと思っていましたが違ったようです。主人に盲目に従っていれば良と言うものでは無いのです。従う主人は自ら選択しなければなりません。そして私は道具では無いのですから、意志を持って主人に従い行動するのです」
サンドラは男を見て言う。
「何が言いたいんだ。お前は、まるでローラに従うような言い方だな」
「はい、そうです。ローラ様に従い目的を達成致します」
男は平然と言葉を発した。それを聞いてサンドラは直ぐに男と対峙して睨みつける。
「お前は気は確かか? あのような魔道士風情に身を預けると言うのか!」
「ええ、まともです。サンドラさんこそ目が曇ってらっしゃる」
男はそう言って魔力量を上げる。サンドラは驚いた顔をして声を上げる。
「お前、魔導分身体を……、本体は何処に?」
「サンドラさん相手なら分身体で十分です。もう一度確認します。ローラ様に敵対するのですね」
男はサンドラは見て言った。そしてサンドラは魔力量を上げ、防御シールドを展開した。
男は猛烈な速度でサンドラへと飛び出して沈み込むと、サンドラの防御シールド目掛けて蹴りを放つ。蹴りをサンドラは退き交わそうとするが、蹴りは伸びるよにサンドラの防御シールドを砕き腹部へ当たる。そしてサンドラはベットのほうへ吹き飛ばされ倒れ込んだ。
「げーーっふお」サンドラは口より血を吹き出し内臓にかなりのダメージを負っていた。
「表面だけ強化しても無駄ですよ。私の魔力波動攻撃は振動で内部にダメージを与えます。もう戦闘は継続困難ですね。残念ですがあなたはもう助かりません。このまま放置すれば必ず死にます」
男は床に倒れ込んだサンドラを見つめて言った。
床に倒れ込んだサンドラは意識朦朧としてその言葉を聞いていた。そして男はサンドラを見て一礼すると黒い煙と共に忽然と姿を消した。
◆◇◆◇
ここはベランドル帝国帝都ドール城、皇帝執務室。
エランは分厚い書類に一応目を通して、ひと段落ついてソファーに座り天井を見上げていた。
「エラン陛下、問題はないと思います。お疲れ様でした」
テーブルの反対側に座っているマーク宰相が微笑み言った。
「停戦要項はこれで良いと思います。賠償等はハリーさんと相談して決めたのでこれで決まりですね」
エランはソファーから立ち上がりマーク宰相を見つめて微笑む。隣りのミリアが嬉しいそうにマーク宰相を見ている。
「今日はソフィアさん、大学の寮へ帰られたのですね」エランが水差しを取りコップに水を注ぐ。
ミリアが微笑みエランを見て言う。
「はい、今日は私達2人だけです」
マーク宰相はソファーから立ち上がり言う。
「エラン陛下、明日から連邦国との事前停戦交渉が行われます。私は帝国のために尽力致します」
そう言ってマーク宰相は深く一礼する。
「マーク宰相期待しております。他国の横槍が入らぬよういまローラ達が牽制しておりますので、安心して務めを果たしてくださいね」
エランは2人を見て口を緩めて言う。
「お二人はいつ正式な夫婦に成られるのですか? 私のところへ婚姻証明書が届いていませんが」
ミリアが嬉しいそうにエランを見て言う。
「はい、近日中に陛下にお届け致します」
「まあ、私が立会人になっているので文句を言う人間はいないと思いますが。早くしてくださいね」
エランはそう言ってコップの水を飲み干した。
「ミリアさんが羨ましいですね。好きな方と結婚出来て」
そう言ってエランは目を閉じて言う。
「私にも心を寄せている方がいるのですが……、どうなのでしょうか。気持ちは伝えたのですが、相手の方は冗談としか思っていないと思います」
「陛下はその思い成就されたいのですか?」
ミリアはためらいエランに聞いた。
「そうですね。今の立場では無理ですかね。でも役目が終われば出来ると思いますよ」
エランは微笑みミリアを見つめた。そして疲れたように言う。
「でも強力なライバルがいますからね。本人は気づいていないようですが……」
そう言ってエランは2人を見て言う。
「今日はこれで解散ですね。お疲れ様でした。マークさん、ミリアさん今日はゆっくり休んでくださいね」
マーク宰相とミリアはエランに深く頭を下げる。
「エラン陛下、失礼致します」
そう言って2人は部屋を出て行った。
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