和平交渉 第140話 サンドラの行方
皇帝暗殺未遂事件翌日、深夜。
エリーはベルニス王城から第一艦隊旗艦、スミスンに帰って来ていた。
ここはスミスン号、来賓応接客室内。
「ユーリさん、ウィンさんをどう思いますか?」
エリーはユーリに少し嫌な顔をして聞いた。ユーリはエリーの顔を見て答える。
「危険だと思います。あれだけの能力を持ちながら、なぜ我々についたのか怪しすぎます」
ユーリは椅子にゆっくり座り紅茶のカップを手に取り一口含む。
「でもエリー様が警戒するのは珍しいですね」
エリーの隣に座っているリサが不思議そうに言った。
「だって目の前で主君であるアレッサンドロ国王を蹴り飛ばしたんですよ。しかも満面の笑みで」
エリーは少し怯えた顔をしてリサを見た。
「実力もかなりのものです。私でも認知出来ない魔法操作も見受けられました。かなりの魔法の使い手です」
「当然エリー様には及ばないですが、かなりの実力者であると私も思います。直感的に倒すにはこちらもかなりのダメージを覚悟しなければならないと思いました」
そう言ってユーリが紅茶を飲み干し寂しそうな顔をする。
「まあ、とりあえず味方にはなってくれたけど、いつ敵対行動をとるかわからなですから安心はできませんね」
そう言うとエリーは立ち上がりケースからクッキーを1枚取り出し口に運んだ。ユーリはそれを見て目を細めて言う。
「エリー様、もう寝る時間です。甘いお菓子は控えられたほうがよろしいかと」
「大丈夫だよ。すべて魔法のエネルギー補給だからね」
エリーはユーリを見て笑みを浮かべる。ユーリは呆れたような顔をして視線を落とした。
「秘書官ウィン殿の件はとりあえず監視人を何名か付けます。様子見でよろしいですね。トッドさんにお願いしたいのですが、ほかにも解決すべき案件があるので今のところは無理です」
ユーリがエリーの顔を見て言った。エリーはリサの顔を見て微笑み言う。
「どうです。サンドラさんの状況は把握しているのですよね」
「はい、現在ベルニス西部の港湾都市アレーに潜んでいるようです。手下は10名ほど連れています」
リサはそう言ってケースからクッキーを1枚取り出す。それをユーりは睨み牽制した。リサは慌ててクッキーをケースに戻した。
エリーは二人を見つめて言う。
「明日早朝にここを立ち、サンドラさんを捕獲します。このメンバーで行いますのでよろしくね」
「サンドラさんについての情報はウィンさんからもらいました。実力等含め戦闘技量スキルも把握しました」
エリーが呆れたように2人にそう言って、エリーは椅子から立ち上がるとベットにダイブした。
「いまは敵になったとはいえ、つい昨日まで仲間だったのにためらいも無くペラペラと喋るのはどうかと思います」
ユーリはベットのエリーを見て嫌そうな顔をして言った。
「ウィンさんは多分切替の早い人なんだね。きっと普通感情の乱れとか少しは出るものなんだけど、それが無いんだよ。ウィンさんには……」
エリーはベットに寝そべりユーリを見てだらけた顔をする。
「明日は05:00に出発します。あと4時間ほどしか眠れないので私はこれでお休みします……」
エリーは目をとろーーんとさせて2人を見ている。
◆◇◆◇
ここはベルニス西部の港湾都市アレー、港湾倉庫街の建物内。
建物内の一室にサンドラと3名の配下がいた。
「王城はどうなった。アレッサンドロ陛下は逃げ出したか?」
「はい、アレッサンドロ陛下の毒殺騒ぎがあったようですが、そのあとの詳しい情報は上がって来ていません。手の者からの連絡が途絶えました。どうやらローラ達によって処分された模様です」
サンドラは怪訝そうな顔をして言う。
「城内にローラの協力者がいるのか? 対応が早すぎる。しかしもうどうでも良い」
「明日、帝国行きの船の手配は終わっているな」
サンドラは配下の1人の顔を見て言った。
「はい、交易運搬船を手配しております」
配下は直ぐに答えた。
「このまま和平条約などやらせるものか」
サンドラは苛立ちテーブルを叩いた。
(なぜこうなった! 全てあの皇帝エランを生かしたことが原因だ。あのアスクルが舐めたことをしなければ王族血統者を全て処分しておけばこうはなっていない。何が私に懐いているから大丈夫だ。意のままに操れるだ。テメエが殺されていりゃせわないな……)
サンドラは視線を落として言う。
「帝国軍の軍装は揃えたか?」
「はい、横流し品で正規部隊のものです」
「そうか、これで奴らに仕返し出来るな。追跡は確認したか?」
「現状追っ手の確認はありません」
サンドラは強張った顔で言う。
「油断はするな。ローラは何処に現れるかわからんからな」サンドラは基本的に沈着冷静ながら今回の件では相手に先手を取られ冷静さを失っていた。
「だがアレッサンドロがもう少し使えれば良かったのだが……、ウィンの奴は何をしている。あとで合流すると言っていたがどうなっているのか」
「ウィン様からの連絡は有りません。城から出ていないのではないでしょうか?」
配下のリーダー格が答えた。
「ウィンはあれほどの実力を持ちながら活かそうとしない。本当にダメな奴だ。だが今回は働いてもらわねばならん」
サンドラは疲れた表情をして周囲の配下の者達を見渡した。
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