和平交渉 第136話 アレッサンドロ国王の行方
エリーはアレッサンドロについて考える。
皇帝暗殺未遂事件翌日夕方。
ここは第一艦隊旗艦スミスン艦隊司令官室。エリー達はベルニス王城から帰って来ていた。
エリー達はアレッサンドロ国王に出し抜かれた。アレッサンドロ国王毒殺未遂騒ぎに乗じて本物のアレッサンドロ国王を見失っていたのである。エリーはアレッサンドロ国王を治癒して直ぐに影武者であることに気付きリサに行方を探させたがもはや遅かった。
「やられました。ここで逃げられるとは・・・・・・、油断していました」
エリーは嫌な顔をしてユーリ、リサ、ガイン中将を見て言った。
ユーリが申し訳なさそうに言う。
「いいえ、ローラ様の責任ではありません。不測の事態です。逃げ出すとは思いませんよ」
「せっかくの糸口をむざむざ・・・・・・」
エリーは少し落ち込んだ顔をして言った。
(最近失敗が無く上手くいき過ぎていましたね。肝心なところでこれでは詰めが甘すぎですね)
リサがエリーを見て言った。
「ベルニス王都周辺は警戒網を敷いています。まだアレッサンドロ国王は王都を出ていないと考えられます」
エリーは直ぐに答える。
「いいえ、それはどうでしょう。もうあれから3時間ほど経っています」
そう言ってエリーは考える。
(レンベルの魔導回路を使ってみるか? まだ王都に潜んでいるなら感知出来るかもしれない)
「そうですね。まだ諦める訳にはいきませんね」
エリーは微笑んで言った。
そしてガイン中将を見て言う。
「連絡艇を直ぐに出してもらえますか」
ガイン中将は直ぐに頷き立ち上がると、艦内電話の受話器をとって連絡した。
「直ぐに準備を指示しました。左舷でお願いします」
エリーは一瞬考える。
(確かにあの混乱とはいえ私の感知範囲は王城全域に至っていた。それにブラウン商会機関員、アンドレアの魔道士も警戒している中、さすがに脱出は困難! 地下通路も抑えている。とするとアレッサンドロ国王は王城内に潜んでいる? 強固な魔法結界で隠蔽出来れば可能なことだ)
エリーは微笑んで言う。
「王城へ向かいます」
「サンドラさんはどうなっていますか?」
エリーはリサに尋ねる。
「はい、追跡は問題なく継続中です」
「そうですか。では参りましょう」
エリーは頷き微笑む。
ガイン中将がエリーを見て言う。
「連絡艇まで急ぎましょう!」
そうしてガイン中将と共に左舷へとエリー達は向かった。
◆◇◆◇
ここはベルニス王城地下深くの隠し部屋内。
アレッサンドロ国王は6畳ほどの狭い部屋の中にいた。この部屋は王城に存在しない部屋となっている。強固な魔法偽装障壁が張られている。
「ローラは騙せたか? もう帝国に帰国するのか?」
秘書官はアレッサンドロ国王を見て言う。
「ローラ様は第一艦隊へとりあえずは向かわられたようです。しかしあの毒を治癒魔法で処置してしまうとは驚きました。今やその話題で城内が大騒ぎとなっております」
アレッサンドロ国王は驚いた顔をして言う。
「なんだとワイズは助かったのか。本来死ぬはずが、余計な事はしゃべっていないだろうな」
「大丈夫です。ですがあまり時間が経つと影武者と気づく可能性があります。ローラ様が王都を出発次第ここを出ましょう」
秘書官はアレッサンドロ国王を落ち着いた表情で見ている。
「しかしローラ様を目の前で見るとんでも無いと思いました。まるで女神様が降臨されたような聖なる力を周りに拡散されて心が満たされたのです」
秘書官がなんとも言えない幸福感に満たされた表情をして言った。
「お前は、誰の味方なのだ。ローラなどに魅了されてどうする」
アレッサンドロ国王が機嫌の悪い顔をした。
「しかし、あのローラ様が我々の味方であればと心から思いました。陛下には申し訳有りませんんが。あのお力が有れば大陸に安寧秩序ももたらせるのでは無いかと私は思ってしまたのです」
秘書官がさらに嬉しそうに言った。それを聞いてアレッサンドロ国王はさらに機嫌が悪くなった。
「お前は私の脱出の手配をしろ! 良いな!」
「はい、それはもちろんです。私は陛下の従者ですから務めは果たします」
秘書官は姿勢正して整然と言葉を発した。
「しかし、あのサンドラが私を見限るとは・・・・・・、まあ良いお陰で影武者が発覚したとしても一緒に逃亡していると思うだろうからな」
アレッサンドロ国王は苛立った顔をして言った。
「では、脱出の手筈が整いましたら、その時にまた伺います。それでは一旦失礼致します」
秘書官は一礼すると部屋から出て行った。
そしてアレッサンドロ国王は部屋の壁を見つめてひとり呟く。
「ローラとは女神ローゼの使徒ではないのか。しかし力が使徒の領域ではない。まるで女神自体のような・・・・・・。まさかローゼ自身が」
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