和平交渉 第121話 エリー大隊4
エリーはエランになりすます。
帝都出撃4日目早朝 ここはベランドル帝国帝都ドール城、皇帝寝室。
エリーとエランは昨晩記憶帯の共用を行い、とりあえず問題が発生しないようにした。あのあと食堂に戻ったが、入れ替わったことに気づかれることは無くレベッカが安心した顔をしていた。
「エリーどこに行くのですか?」
ベッドで横になっているエランが修練着に着替えたエリーを虚な目で見て言った。
今、エリーはエランの魔導波動を纏って偽装している。
「はい、朝の修練です。大丈夫目立たないようにしますから」
エリーはそう言って寝室から出て行く。
エリーはドール城城壁外周部をランニングしようと内壁門に来ると。
「エラン陛下! どうされたのですか?」
内門の近衛士官が頭を下げて声を掛けてきた。
「ご苦労様です。走ろうと思いまして」
エリーが答えると近衛士官が直ぐに声を上げる。
「城内とはいえ護衛もつけずですか? それは問題です。陛下に何か有れば私達が責任を問われます」
エリーは少し嫌な顔をして近衛士官を見て言う。
「では諦めろと」
近衛士官は少し考えて言う。
「では私がお供致します。体力には自信があります。陛下も鍛えていらっしゃるようですが大丈夫です」
そう言いて軍服の上着を脱ぎ、隣にいた下士官に渡して何やらしゃべったあと、エリーに駆け寄り頭を下げた。
「それでは参りましょう」
エリーは微笑み近衛士官を見て言う。
「ええ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。日頃から軍事修練はしていますので問題ありません」
近衛士官は自信あるげに言った。
エリーは近衛士官を従え城壁外周部を周回し始める。エリーは淡々と一定のペースでランニングをこなして行く。後ろについて来ている近衛士官が徐々に遅れ始める。
エリーは気にしてペースを緩めて近衛士官と並び声を掛けた。
「大丈夫ですか? キツそうですよ」
「ええ・・・・・・! 陛下がこんなに余裕でこなされているのに、申し訳なく・・・・・・、不甲斐無く思います」
エリーは立ち止まり、腰につけていた水ボトルを近衛士官に差し出す。
「大丈夫です。口はつけていませんから、飲んでください」
近衛士官は余裕のない感じで肩で息をしている。
「陛下・・・・・・。滅相もない。頂けません」
「良いです。無理しなくて、よくついて来ました。迷惑掛けましたね。飲んで下さい」
エリーは近衛士官にボトルキャップを外し手に持たせる。近衛士官は戸惑った表情をして言う。
「陛下、申し訳ありません。このようにみじかに接して頂けるとは・・・・・・、私は感動しております」
エリーは近衛士官が泣いているのに気付き少し引き気味に言う。
「もう、今日はこれくらいにしておきます。では、帰ります。お疲れ様でした」
近衛士官はボトルに口をつけて3口くらい飲むと、エリーにボトルを返してきた。
エリーは少し嫌な顔でして言う。
「全部飲んで下さい。私は結構です。飲みかけなんて要りませんよ」
それを聞いて近衛士官は苦笑してボトルを全部飲み干した。近衛士官は感動した顔で頭を深く下げる。
「陛下、護衛どころかご迷惑をお掛けいたしました」
エリーは近衛士官を見て微笑み言う。
「これを機に鍛え直してくださいね」
近衛士官は真剣に顔をして答える。
「はっ! 今後このようなことがないよう鍛えます」
「じゃあ、歩きで帰りますね」
エリーは優しく言うと近衛士官は言う。
「大丈夫です。少しなら走れます」
「無理しなくて良いです。任務に差し支えては困ります」
エリーはそう言って近衛士官と並んで歩く。隣りの近衛士官はまだ余裕がなさそうだ。身長はエリーより少し高いくらい金髪で短く刈り上げている。細身だが筋肉質、顔は整って美形の部類。
「陛下の隣で歩けるなど光栄です。ここ最近の陛下のお噂は聞き及んでおりますが、本当にお変わりになられたのですね」
隣の近衛士官が嬉しそうに言った。
「そうですか?それは嬉しいことです」
エリーが微笑んで言った。
「以前は陛下をお見かけすることはありませんでした。それに悪い噂ばかりでした。しかし、政変以降は良い噂ばかりで、失礼ながら、私としては信じられなかったのですが、今日実際にお会いして本当のことなのだと理解致しました」
近衛士官が少し遠慮気味にエリーに言った。エリーも微笑みながら聞いていると後ろから怒鳴り声がする。
「バラン中尉! キサマ任務中に何をやっているのか! どこから女を連れこんだ!」
エリーが振り返ると近衛士官がスタスタと近寄って来るのが見える。隣りの近衛士官は慌てたように声を上げる。
「フランク少佐! 誤解です。この方はエラン陛下です」
フランク少佐と呼ばれた近衛士官はエリーの近くまで来るとエリーの顔まじまじと見て言う。
「こんな朝早く陛下がお一人で・・・・・・、なんでお前と2人でいる? そんなことがある訳ない。しかし顔は似ている気もするが、そもそもお前となんで親しく話しをする訳ないだろ」
フランク少佐は少しいやらしい顔をしてバラン中尉を見て言う。
「今回は女性を紹介してくれるのなら見逃しやる。その彼女に頼んでくれよ」
エリーはその話を嬉しそうに聞いている。
バラン中尉は青ざめた顔をして言う。
「フランク少佐・・・・・・。終わりです、もうダメですよ」
エリーは微笑みフランク少佐を見て言う。
「フランク少佐、お幾つですか? ご紹介なら何人か心当たりがありますが」
フランク少佐はエリーの顔をみて言う。
「35才、一応独身、特に好みのタイプはない」
エリーはフランク少佐を見て微笑み言う。
「では、私の知り合いでいますので、今呼びますので待ってくださいね」
バラン中尉はもう完全にエリーを見て怯えた顔をしてなにも言わない。
エリーは腰のホルダーから小型無線機を取り出し、少し2人から離れて連絡している。
「西の内門に来るそうです。すぐに移動しましょう」
エリーが言うと2人も一緒に移動した。
バラン中尉が強張った表情で寄って来て言う。
「これは終わりですか? 陛下は遊ばれているのですか?」
「面白いじゃ無いですか? 皇帝の顔もわからい警備担当なんてあり得ないでしょう。少し懲らしめてあげますよ。バラン中尉は心配しなくても大丈夫ですよ」
エリーは微笑み言った。そしてバラン中尉は諦めたように後ろに下がった。
門付近に皇帝護衛隊軍服のセリカがすでに待っていた。フランク近衛少佐がセリカに気付き慌てて駆け寄り敬礼する。
「セリカ様、どうされたのですか? こんな朝早くに、何か問題でも
・・・・・・」
セリカはフランク近衛少佐を見て微笑み答える。
「ええ、皇帝陛下に女性を紹介しろと言った近衛士官がいたそうなので、私が呼び出されたのですよ。陛下の顔をわからいとは皇城の警備など任せられるはずもないと」
フランク近衛少佐はゆっくり振り返りエリーの顔をみて言う。
「陛下・・・・・・? そんなはずは・・・・・・」
バラン中尉がエリーに跪き頭を下げて声を上げる。
「エラン陛下! 申し訳ありません! 私の上官がとんでもない失礼を致しました。決して悪気は無かったのです。どうか寛大な御処分をお願い致します!」
エリーはフランク近衛少佐を見て少し意地悪い顔をして言う。
「バラン中尉はあゝ申されていますが! フランク少佐あなたは何を望まれますか?」
フランク近衛少佐は、汗が額から停めど無く流れ落ちて顔色を失って言葉を発しようとしているが口がぱくぱく動くだけで、声が出ない。
(まあ、私はエランお姉様じゃあないし、この人可哀想だよね。穏便に済ますかな)
エリーがそう思っていると、セリカが声を上げる。
「フランク少佐! あなたは陛下の顔もわからいのですか! 陛下への不敬を含め厳重な処分があるものと思ってください」
(え・・・・・・、ちょっと待ってセリカさん)
エリーすかさずセリカに言う。
「今回は私にも問題がありました。皇帝らしい立ち振る舞いが出来て無かったのでしょう。ですからここだけの口頭だけで済ませてもらえませんか」
セリカは少し戸惑った様子で言う。
「しかし、それでは今後に・・・・・・、いえ、陛下がそうおっしゃるのなら従います」
エリーはセリカに微笑み言う。
「ありがとうございます。セリカさん感謝します」
エリーは呆然と立ち尽くすフランク近衛少佐に近寄り手を取って言う。
「今回の件は私にも責任があったのでしょう。ですから不問とさせて頂きます。今後に期待致します」
フランク近衛少佐はその場に崩れ落ち声を上げる。
「申し訳ありません。今後のお役に立てますよう尽力致します!」
エリーはセリカに近寄り囁く。
「あゝ、はい、そうですね。では、今回はこれで終わりです。それでは失礼します」
セリカは近衛士官2人に言った。エリーはバラン中尉に頭を下げて言う。
「ゴメンなさい。また今度一緒に走りましょうね」
バラン中尉は苦笑いしてから頭を深く下げた。
◆◇
ここは帝都ドール市北区商家の2階の一室。
部屋はカーテンを閉められ部屋の中かは薄暗い。部屋の中には6人の男性と5人の女性がいる。大き目のテーブルを囲んで全員座って話をしていた。
1人のメガネを掛けた40代前半くらいの男性が言う。
「大魔導師ローラは今日の午前から各地方都市を訪問するそうだ。予定は3日間から1週間ほどだ日数はハッキリしないが3日以上は確実らしい」
黒髪短髪の口髭の男が言う。
「サンドラ様からの要注意危険人物は、護衛隊隊長のセリカ、外交担当官のトッド、
ユーリ、皇帝のエラン、そして主が最も超危険と判断した大魔導師ローラの5人だ。他にも手練は多くいるようだが、我々でも十分対応出来るレベルだ。今帝都にいるのはローラとエラン、セリカの3人だ。そして一番厄介な大魔導師ローラが昼からいなくなる」
赤髪ロングヘアの20代くらいの女性が言う。
「エラン陛下の予定は掴めているの?」
メガネの男性が言う。
「本日午後から商工金融会議に参加出席する情報を掴んでいる。西区の商工会館で行われるそうだ。やれると思うか?」
赤髪ロングヘアの女性が言う。
「2度目はないからね。全員で掛かるのよね」
短髪口髭の男が言う。
「俺たち全員でやる。絶対に仕留めなければならない相手だ」
メガネの男性が言う。
「皇帝エランだってかなりの手練だ。だがサンドラ様の見立てではアイクル・シルバートを仕留めたのは大魔導師ローラで間違い無いといておられた。反乱分子を簡単に潰したのもローラらしい。分析では我々ではローラには勝てないらしい」
短髪口髭の男が言う。
「今回ローラが留守を狙うのだな。銃ではダメなのか?」
メガネの男性が答える。
「この間の皇城での戦いで防御シールドが展開出来ることがわかっている。遠距離攻撃では仕留められない可能性が高い。失敗すれば警備が厳しくなって手を出せなくなる」
赤髪ロングヘアの女性が少しためらい言う。
「どっちにせよ。私達が生きて帰る可能性は低いのでしょう」
メガネの男性が頷き言う。
「あゝ、半分生きていれば御の字だな」
一番奥の席に座っていた男が立ち上がり言う。
「今回はかなりのリスクを伴う、成功しても半分は死ぬ。失敗すれば全滅だ。しかし、やらねばならないのだよ。本国も余裕がない状態だ。絶対に皇帝エランを仕留めなければ我々にあとはない」
「ガルフさん、あなたも出るのですか?」
口髭の男が50代の茶髪の男性を見て言った。
「あゝ、総力戦だからな。失敗は絶対に許されんからな」そう言いてガルフと呼ばれた男は室内の者達を見渡した。
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