皇帝権限奪還 第114話 皇帝護衛隊21
エリーは火災を消火する。
帝都出撃翌日夜。エリー達がアンドレアを出撃してから45時間ほど経過している。
ここは第一艦隊旗艦ドール号砲塔装弾室内。
エリーはカレーを食べたあと、ジーン大尉に艦内を案内してもらっていた。エリーは海上艦艇に興味を持ち、今後の艦隊再編に備えて知識を習得しようとしていた。
「ローラ様はすごいですね。技術知識が豊富で驚きました。魔法の知識については理解出来ますが、最新の制御システムなど様々な知識はどこで勉強されたのですか?」
ジーン大尉がエリーの顔を見て感心したように声を漏らした。
「ええ、特に勉強とかはしてませんが、一度見たものは忘れません。でも射撃制御管制システムは改善すれば命中精度は大幅に向上するはずです。陸軍重装機兵の射撃制御システムの転用が出来れば良いのですが」
ジーン大尉は申し訳なさそうに言う。
「申し訳ありません。私はドール号の知識は大体大まかに知っていますが、詳細部分は把握しておりませんので・・・・・・」
エリーはジーン大尉を見て言う。
「十分ですよ。私が異常なだけです。気にしないでください」
エリーについて来ているビアとリサはもう飽きて暇そうな顔をしている。
「もうそろそろ帰りますか? 食事会も終わって落ち着いている頃でしょう」
エリーは王城での食事会には参加していなかった。エランには確認したい事があると言って不参加としたが、カレーをたらふく食べてお腹いっぱいでとても参加出来る状況ではなかったのである。参加する以上は食べない訳にはいかない。エリーなりの配慮である。
「はい、了解致しました」
リサが嬉しそうにエリーを見た。
ジーン大尉がエリーを見て言う。
「では、ガイン中将のところへご案内いたします」
「あゝ、そうですね。ご挨拶しておかないと」
エリーは頷きジーン大尉の後ろについていく。
そして艦橋下部の総合指揮所へと移動した。総合指揮所内では慌ただしく海軍将兵が動き声を上げている。
「何かあったのですか?」
エリーがジーン大尉に尋ねる。
「わかりません。確認します。少し待ってください」
ジーン大尉は指揮所の奥の海軍士官に駆け寄り確認をする。そして直ぐにエリーのそばに来て言う。
「停泊中の駆逐艦で爆発火災が発生しているようです。詳細は不明です。負傷者も出ているようです」
「普通停泊中の艦船で火災など発生するものなのですか?」
エリーが不思議そうに聞くとジーン大尉が答える。
「通常はあり得ない事です。将兵は良く訓練されています。一般船舶と比べれば事故率は極めて低いのです。戦闘中は別ですが」
エリーはそれを聞いて声を上げる。
「ビアさん! トッドさんに連絡をお願いします。エラン陛下の警護をよろしくお願いしますと伝えて下さい」
ビアは慌てて腰のホルダーから無線機を取り出して連絡をする。
リサがエリーの顔を見て言う。
「何か感じたのですか? では急いで王城へ向かうのですね」
「いえ、トッドさん、ユーリさん、セリカさんがいますから大丈夫ですよ。あの3人に対抗出来る脅威は感じていません。私は火災現場に向かいます」
リサが驚いた顔をしてエリーを見る。
「エリー・・・・・・いえローラ様それはどういた」
エリーは目を閉じて少し間を置いて言う。
「ベルニス王国の揺動かもしれませんから確認したいのです。それに艦船乗員の救助もお手伝いもしたいのです」
「しかし、ローラ様よろしいのですか?」
リサは少し不安そうな顔をしてエリーを見る。
エリーは頷きガイン中将のそばによると声を上げる。
「ガイン閣下! お願い致します。火災現場への立ち入りを許可してください」
ガイン中将はエリーの顔を見て戸惑い言う。
「ローラ様、危険ですので、王城へお帰りください。万が一のことがあれば私の責任になります。どうぞご容赦ください」
そう言ってガイン中将は頭を下げた。
「ガイン閣下、私への指揮命令権はありませんよね。これは私の責任で行います。ですので、現場まで連れて行ってもらえば結構です」
エリーは澄ました顔で言った。
ガイン中将は困った顔をして声を上げる。
「ジーン大尉! 高速連絡艇でローラ様を駆逐艦付近までお連れしろ。くれぐれも危険がないように頼む」
エリーがガイン中将の顔を見て言う。
「ガイン閣下ありがとうございます。感謝致します」
エリーはガイン中将に一礼してジーン大尉の前に行く。
「ジーンさんよろしくお願い致します」
「はい、それでは左舷の方へ向かいます。そこに連絡艇があります。では急ぎましょう」
ビアとリサは諦めたよう言葉を発せずについて来た。
ドール号の左舷に着くと高速艇は浮桟橋に準備されていた。桟橋タラップを降り高速艇に乗り込む。操舵下士官がローラ達に敬礼する。
「ローラ様、揺れますので注意してください!」
高速艇乗員は直ぐに係留ロープを外す。操舵下士官が声を上げる。
「それでは! 出発します!」
高速艇は浮桟橋を離れると艦船の間を抜けて加速して行く。
「どのくらいですか?」
エリーがジーン大尉に尋ねる。
「5分もあれば到着します」
「そうですか。では準備をします」
エリーは神眼スキルを発動左目が赤色に変わる。(周囲に魔導反応無し。とりあえず問題は無いようですね)
しばらくして前方の暗い海上にかがり火のような光が見てくる。高速艇は500mほど手前で停止した。駆逐艦の周辺には他の艦艇が5隻ほどいたが爆発での巻き添えを恐れて接近出来ずにいた。周りの艦艇は駆逐艦をサーチライトで照らしている。
「まだ消火ポンプ船は到着していないようですね。ベルニス港湾局に要請はしたのですが」
ジーン大尉が呆然と燃えている駆逐艦を見つめて言った。
エリーは駆逐艦の炎を見つめ言う。
「そうですか。待っていられないので、私が出来ることをします」
「リサさん、どうですか周囲に怪しい気配は確認できますか?」
リサはエリーの顔を見て言う。
「確認出来ません。問題は無いようです」
「了解しました。それでは高速艇を200mほど手前まで接近させてもらえますか」
エリーがジーン大尉に声を上げる。
「爆発の危険があります。これ以上は無理です!」
ジーン大尉がエリーに答えた。
「大丈夫です! 近づいてください。今なら間に合います!」
エリーは一気に魔力量を増大させて高速艇周辺に展開させる。高速艇が薄い紫色の光に包まれる。
高速艇の乗員達は驚いた顔をしてエリーを見つめている。ジーン大尉が呟く。
「これが大魔導師ローラ様のチカラ・・・・・・」
「早く近づいてください! 手遅れになります」
操舵下士官が慌て高速艇を駆逐艦に接近させた。
エリーはさらに魔力量を増大させるとエリーの体が濃い紫色の光に包まれる。そして駆逐艦上空に光の塊があらわれる。
「じゃあ、消火しますね」
そして駆逐艦上空の光の塊から大量の水が降り注ぐ。まるでスコールの雨のように大粒の水滴は駆逐艦の甲板に当たり跳ね上がっている。
その様子を高速艇の乗員達は驚愕の表情で見つめている。
しばらくして炎は見えなくなり鎮火した。エリーは神眼スキルで確認して言う。
「火災は鎮火しました。艦内温度も問題無いようです! 負傷者がいるようなので今から乗船して治療します。高速艇を近づけてください」
ジーン大尉が呟く。
「はい、了解しました!」
高速艇は駆逐艦の近くによって停止する。
「ビアさんは残ってください。リサさん一緒にお願します」
「はい、ローラ様」
リサが頷くとエリーと手を繋ぐ。そしてエリーの濃い紫色の光がリサを包み込む。
「リサさん、行きますよ!」
エリーが声を上げるとエリーとリサは一気に10mほど飛翔して駆逐艦の甲板に着地した。
それを見たジーン大尉はビアを見て言う。
「ローラ様は・・・・・・、神なのですか? とても人間のなせることではありませんが」
「ええ、あのお方はとんでもないお方です。ですが神ではありません。抜けていらっしゃるところも多々あるので人間ですよ」ビアは微笑みながら言った。
エリーは甲板上から声を上げる。
「責任者の方はいますか! 負傷者の治療を行います」
エリーを見て白い軍服が黒く薄汚れた海軍士官が駆け寄って来る。
「医務官か? 火傷のひどいものがいる。とりあえず応急処置をしてくれ」
リサがそれを見て声を上げる。
「なんだその態度は! 皇帝直属大魔導師ローラ様に対して不敬だひざをつけ!」
エリーはリサに手を挙げて言う。
「良いんだよ。今は治療が先だよ」
海軍士官は戸惑った顔をして言う。
「大魔導師ローラ様・・・・・・、確かに艦隊訪問しているとは聞いているが?」
海軍士官はエリーの黒縁メガネの顔をマジマジと見て言う。
「なんで我が艦に? あり得ない」
エリーが少し怒ったような顔をしてリサを見て言う。
「そんなこと、どうでも良いです。まずは治療ですよ。リサさんも少しは使えるんでしょう」
リサは戸惑った顔をして言う。
「はい、軽い治療なら出来ます」
「では軽傷者をリサさんお願いします。私は重症者を治療しますので」
エリーは海軍士官を見て声を上げる。
「案内をお願いします」
「あゝ、こっちだ、しかし、医療具を持っていないが診療するだけなのか?」
「いえ、治療します」
エリーは答える。海軍士官が移動すると前方甲板上に負傷者が寝かされていた。
エリーは直ぐに神眼スキルで負傷者の状況を確認する。
(とりあえず死人はいない良いですね。先ず火傷のひどいものから治療しますね)
エリーはひとりの負傷者の横に行くと治癒スキルを発動、魔力量を上げて患部に流す。エリーの体が白い光に包まれそれが負傷者の体も包み込む。直ぐにケロイド状の患部が癒えて皮膚が生成されていく。周りにいたもの達がその光景を驚きの表情で見つめている。エリーは重症度の高い負傷者から順次治癒して行く。
ほぼ重症者の治癒が終わってエリーが立ち上がると、先ほどの海軍士官がエリーの前にやって来て跪き頭を下げる。
「先程は大変失礼致しました! 大魔導師ローラ様! 私はこの艦の艦長をしております。テーラー・ライドです。乗員の治療をして頂き感謝致します」そう言ってテーラーはさらに深く頭を下げる。
エリーはテーラー艦長の顔を見て言う。
「この艦の乗員でいなくなった者はいませんか? 確認してもらえればありがたいのですが」
「はっ! 了解致しました!」
テーラー直ぐに答えた。
「火災原因はわかっているのですか?」
「いえ、まだです」
テーラー艦長エリーを見上げて答えた。
「では、艦内を見ても良いですか?」
「はい、ですが破損がひどい箇所もありますので注意してください。何か気掛かりでも?」
「ええ、痕跡が無いか調べるだけです」
エリーは微笑みテーラー艦長の顔を見て答えた。
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