皇帝権限奪還 第104話 皇帝護衛隊11
帝都出撃当日夕方エリー達がアンドレアを出撃してから16時間ほど経過している。ここは帝都ドール城内。
エリーは目覚めて城内を移動していた。城内侍女や職員、近衛兵団士官達から畏敬の念で受け入れられていた。すれ違う者達は道を開けて深く頭を下げエリーが通り過ぎるのを待っていた。
(なに、私は皇帝陛下じゃ無いですよ? みんなどうしたの・・・・・・)
エリーは噂が広がりとんでも無いことになっていることを知らなかった。
エリーは小腹が空いたのでおやつを食べたいと、皇帝付き侍女に訊ねたら近衛兵団食堂にあるとのことで向かっていたのである。
エリーが食堂入口に来るともう夜警担当の士官達が夕食を食べていた。そしてエリーを見ると10人ほどが全員立ち上がり敬礼する。エリーはそれを見て一礼して食堂内に入った。
「ローラ様、陛下にお付きになられなくてよろしいのですか」
近衛士官がエリーに話しかけてきた。
「はい、夕食までは自由です」
エリーが近衛士官を見て言う。
「階級は大尉ですよね。私より上位者ですから敬語は結構ですよ。普通に話して下さい」
近衛士官は慌てたように言う。
「とんでも無いことです。階級など関係ありません。皇帝陛下お付きの大魔導師ローラ様に普通に話し掛けるなど出来ません。参謀本部長でもひれ伏しますよ」
そう言って近衛士官は頭を深く下げた。
エリーは笑い声を上げて言う。
「ふざけないで下さい。私は皇帝護衛隊のただのローラです」
周囲にいた近衛士官達は顔を引き攣らせて困った顔をしている。
エリーは少し機嫌悪そうな顔をして近衛士官達の前を通り過ぎて食堂カウンターへと向かった。カウンター内から慌てたように調理担当者が出て来てエリーに頭を下げる。
「ローラ様、何でしょうか? 大したものは出来ませんが」
エリーは調理担当者に微笑み言う。
「何かおやつが欲しいのですが、ありませんか?」
調理担当者が申し訳なさそうに言う。
「ローラ様にお出しするようなスイーツはここにはございません」
そう言って調理担当者は深々と頭を下げた。
「いえ、大したものでなくて良いのであるなら出してもらえませんか。お願いします」
エリーが頭を下げた。調理担当者はびっくりして言う。
「ローラ様、困ります。私が処罰されます。どうぞ頭をお上げください。それではドーナツでよろしければ残っております」
エリーは調理担当者の顔見て微笑み言う。
「では、ドーナツとミルクティーでお願いします」
そう言ってズレた黒縁メガネをちょこんと上にあげた。
そこへユーリがやって来た。食堂内でザワメキが一瞬起きた。近衛士官達がユーリに見惚れていたのだ。
「ローラ中尉! 勝手に出歩かれては困ります。部屋から出る時は私に声を掛けて下さい」
ユーリが少し機嫌の悪そうな顔で言った。
「ゴメン、お腹空いて我慢できなくて・・・・・・、ドーナツ食べますか?」
ユーリは呆れた顔をして答える。
「私は結構です。それより、噂が異常な速さで拡がっています。予想以上です。ハリーさんの予想を超えているようです」
エリーはユーリを見て微笑み言う。
「人民は英雄を求めているんだね。だからだよ。帝国にはしばらく英雄がいなかったから」
ユーリが困った顔をする。
「その役目はエラン皇帝陛下ですよ。目立ち過ぎましたね」
エリーはガッカリした顔をする。
「では、どうしろと? もうやってしまったことはしょうがないです。今後は注意します」
ドーナツとミルクティーがエリーのテーブルに運ばれて来た。調理担当者が頭を下げて言う。
「お待たせ致しました。どうぞ」
「ありがとうございます」
エリーはドーナツを見て嬉しいそうに言った。
「確かエラン陛下と夕食をとる約束があったのではないのですか?」
「大丈夫! 今日はまともに食事してないからね」
そう言ってエリーはドーナツを手に取って口に運ぶと、あっという間に平らげた。
そしてミルクティーを二、三口飲んでエリーは声を上げた。
「何なのですか! そんなにドーナツを食べるのが珍しいのですか!」
周りの近衛士官達がエリー達から目を逸らす。周囲の近衛士官達がエリー達を凝視していたので、その視線に耐えきれずエリーが思わず声を上げたのである。
ひとりの近衛士官が立ち上がり頭を下げた。
「申し訳ありません! 帝国軍では女性士官が珍しい上に、こんなに美しいお二人がおられたらそれはもうたまったものではありません! 本当に失礼致しました」
ユーリは呆れた顔をして言う。
「それは無礼なことです。今後注意して下さいね」そして椅子から立ち上がりエリーを見るとエリーはまだミルクティーを飲んでいた。
「・・・・・・戻りませんか?」
「ええ、まだ少し食べたいから・・・・・・、それに別に美しいと言っているのですから悪い気はしないでしょ?」
エリーは少し嬉しそうな顔をしている。
◆◇
ここはアンドレア首都ニュードレア市、大統領府首席補佐官室。
「ベルニス王国に潜っていた手練3人の連絡が途絶えました。他のメンバーで確認をさせていますが、たぶん無理でしょう」
リサ少尉が機嫌の悪い顔をしてブライアン少将を見た。
ブライアン少将は椅子から立ち上がり手を上げる。
「リサ少尉! いよいよ黒幕が出て来ますよ。帝国が役立たずになった今・・・・・・、エリー様に急いで知らせる必要があります」
リサ少尉は少し嬉しそうな顔をする。
「帝都のエリー様に会いに行けるのですね」
「本来なら私が行きたいのですが、さすがに今のアンドレアを放って行く訳には行きませんからね。リサ少尉、お願いしますね」
「はい、直ぐに立ちます。レベッカさんにお願いしてもらえますか。商会の乗り物を使えば今日中にエリー様に接触出来ます」
「情報は漏らさないようにね。敵方が潜んでいるかも知れませんからね。まあ、レベッカさんは良いですが、口止めはしといて下さい」
「はい、了解しました。エリー様には全てをお話ししますが、それは問題無いですよね」リサがブライアン少将を見上げて言った。
「もちろんです。でもすでに把握されているかもしれませんね。エリー様は偉大なお方ですから・・・・・・、お願いします。対応が遅れるとまずい事になるかもしれないのでね」
リサはブライアン少将に敬礼すると慌てて部屋から出て行った。そしてブライアン少将は執務机の受話器を取り言う。
「ブラウン商会広報のレベッカさんに繋いでもらえますか。急ぎの要件です」
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