皇帝権限奪還 第103話 皇帝護衛隊10
エリーは休憩する。
帝都出撃当日昼過ぎ、エリー達がアンドレアを出撃してから12時間ほど経過している。ここは帝都ドール城皇帝居住エリア。
エリーはかなり疲れた感じでひとりエランの寝室で横になっていた。そしてドアが開いて声がする。
「エリー! お疲れ様でした。かなり活躍したようね。帝都では大魔導師ローラ様てもっぱらの噂よ」
エリーは半目を開けて虚な顔をしてエランを見る。
「あゝ、それはしょうがないですね。そうしないと抑えられませんでした」
エリーはベットの上で転がりエランのそばに寄った。
「まあ、エリーのお陰で皇帝護衛隊の力が示せて、そうそう逆らおうような輩は出て来ないと思うわ」
エリーはベットでシーツを被って言う。
「今日の予定は終了しました。思った以上に魔力を使ってだいぶ疲れました。いま回復しているところですよ」
エランがベットに上がりエリーの頭を撫でる。
「エリー、夕食は楽しみにしてね。美味しいものを準備しますよ」
「ええ、ありがとう。エランお姉様はこれからの予定は?」
「新体制の準備と各閣僚との打合せをしなけらばならないの。夕食は一緒にするからね」
そう言うとエランはエリーの肩を叩き部屋から出て行った。
エリーはそれから直ぐに睡魔に襲われる。そして眠りについて体の回復を図る。
◆◇◆◇
ここは帝都ドール城内、行政執行エリア、皇帝護衛隊隊長室。
執務机の椅子に座ってセリカはぐるぐる周り考えていた。
(これから大変だな・・・・・・、諜報情報統括官なんて。私は今まで下で動いてきたのにトップだなんてどうなんだろうか? やれるのか? ヒルト中佐が補佐官になってくれたら良いのだけど・・・・・・)
隊長室のドアがノックされる。
「どうぞ、入って下さい!」
セリカが答えると男性が2人入って来た。男性2人は入室するとそろって一礼する。
「セリカ様、新任のご挨拶に参りました。この度、諜報情報統括官ご就任おめでとうございます」
メガネの男性が嬉しいそうにセリカに言った。そして頭を深く下げる。
「申し遅れました。このたび情報局長に任命されましたネルソン=ハリスございます。今後もよろしくお願い致します」
今回の人事で摂政派閥は重要ポストから追放された。そして諜報工作部長からネルソンはプリムス=ゴア局長解任に伴い昇進したのだ。
セリカはネルソンの横に立っている男性を見て微笑む。
「ヒルト副長、ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げた。男性は動揺した顔をして言う。
「名前を見た時まさかと思ったのですが・・・・・・、やはり皇帝陛下の密命を帯びて潜っていたのですね」
セリカはそれを聞いて答える。
「ヒルトさん、申し訳ありませんが。詳しいことは申し上げられません」
ヒルトはセリカを見て強張った顔から少し微笑む。
「でも生きていらしゃって良かったです。騙されていたと思うと少し嫌ですが、こうして昔の仲間に会えるのは嬉しいです」
セリカは執務机からヒルトのほうへ移動して手を取って言う。
「頼りにしております。ヒルトさん」
セリカはネルソン局長の顔を見て言う。
「ヒルトさんに私の情報補佐官をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
ネルソン局長は少し困った顔をして言う。
「私などに拒否出来るわけがありません。しかし現場の管理者がいなくては困ります」
「しばらくは兼務で結構です。それでお願い致します」
ネルソン局長はセリカの顔を見て言う。
「申し訳ありません。諜報部隊の再編成がまだ十分でないので助かります。さすが大魔導師ローラ様と並び称されるセリカ様です」
セリカが眉を少し上げてネルソン局長を見る。
「ローラ中尉のことは我々皇帝護衛隊のイチ分隊長です。大きく言わないようお願い致します。確かに彼女は皇帝陛下に引けを取らぬほどの魔道士ですが、あまり目立ちすぎるのは我々としても望むところではありません」
ネルソン局長はセリカから視線を外して言う。
「しかし、帝都の治安回復には大きく寄与しているのは事実でございます。ローラ様は一瞬にして30機の重装機兵をねじ伏せ、そしてエド中将を圧倒的剣撃で撃ち倒したと。もはや皇帝陛下の武の象徴であることは紛れも無い事実でございます。これにより皇帝陛下の威信も高まっております」
セリカは微笑みながらネルソンを見て言う。
「まあ良いです。当初の目的は達成しています。それでは今後の諜報体制については皇帝陛下に承認を頂き次第連絡します」
セリカは2人に頭を下げた。
「セリカ様、連邦国との和平はどのように?」
ヒルトがセリカに質問した。
「申し訳ありません、具体的はまだ何も、新体制政局運営方針案が出てからですね。ですが、諜報機関員の諜報活動は破壊工作以外継続で結構です」
セリカはそう答えるとヒルトの手を再び握って言う。
「ヒルトさん、よろしくお願いします」
ヒルトは少し戸惑った顔をする。
「頼りにされるのは有難いのですが、そう期待されても・・・・・・、ええ、頑張ります」
ヒルトはセリカに頭を下げた。そしてセリカから離れて言う。
「では、一旦戻ります。失礼致しました」
そして一礼するとネルソンと一緒に部屋から出て行った。
2人が出て行くとセリカはどっかと一気にソファーに座り込む。
(ハリーさんの狙い通り皇帝護衛隊の力を示し皇帝陛下の威信を高めることに成功した。でも、私はまだ何の役も立っていないな・・・・・・、なんか寂しい・・・・・・)
セリカは窓の外を見つめ寂しそうな顔をした。
◆◇◆◇
ここは帝国領バーグア市、帝国軍第三軍司令本部、司令官室。
マーク中将は不安そうな顔をしてソファーに座っていた。
「重要ポストの打診はあると思っていたが・・・・・・、これは流石に周りが黙っておらんだろう」
マーク中将はため息を吐いた。
「閣下! 大丈夫です。皇帝陛下がお認めになったのです。不満を表立って言う者などおりません」
ミリアが微笑みマーク中将を見つめている。
「宰相だぞ! 帝国で皇帝陛下の次の地位そして各部門の取りまとめ役。私は中央軍の参謀本部長くらいと予想していたが、これは流石に荷が重い・・・・・・」
「陛下は連邦国との早期和平、そして国内の早期安定のための最適な人材を選定したとのことです」
ブラス参謀長がマーク中将を嬉しそうに見て言った。
「私は元老院議員から選ばれると思っていたが、まさかこの私か?」
「明日、1100までにドール城に閣議のため集合せよとのことです。それまでに残務処理、引継ぎをせよとの通達です」
ブラス参謀長が相当の喜びようで言った。
「ブラス参謀長、他人事だな。任命された身にもなってみろ」
マーク中将は機嫌悪そうな顔でブラス参謀長を見つめる。
「いいえ、閣下はいずれトップに立つおつもりだったのですから、少し早まっただけです」
ブラス参謀長は少し笑い声を上げて喜んでいる。
マーク中将はミリアを見て言う。
「ミリア、秘書官として私と同行してくれるか?」
「はい、喜んでお供致します。しかし、宰相とはやり甲斐がありますね。気合いを入れて頑張りましょう!」
ミリアが微笑みマーク中将を見る。
マーク中将はミリアを見つめて少し嬉しそうに言う。
「そうだな、任命された以上、尽力しよう。それと話は変わるがうちの娘と帝都で会ってくれるか?」
「ええ・・・・・・、それはどう言う」
ミリアが戸惑った顔をした。
「あゝ、婚約者として発表しようと思う」
「あゝ、はい、理解しております」
ミリアが少し緊張した顔になった。
「良いな、ミリア・・・・・・」
マーク中将はミリアを嬉しいそうに見つめた。ブラス参謀長が慌てたようにソファーから立ち上がり声を上げる。
「それでは私は、第三軍の配置を確認して参ります」
そう言ってブラス参謀長は部屋から出て行った。マーク中将はそれを見て微笑む。
「ブラスなりに気を効かしたのだ。それにしてもエリー様に久しぶりにお会い出来ると思うと胸が高鳴る」
ミリアはマーク中将を見て言う。
「すでに向かうとご連絡はしております」
「そうか、ありがとう」
マーク中将はソファーから立ち上がり窓のほうへ移動して言う。
「この景色も、しばらく見れんのだな。夕日が特に綺麗で良かったのだが」
ミリアがマーク中将の近くに寄ってきて囁く。
「帝都でも綺麗な夕陽は見れますよ。これから大変ですが頑張りましょうね」
マーク中将はミリアの顔を見て頷いた。
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