皇帝権限奪還 第101話 皇帝護衛隊8
帝都出撃当日朝。ここはドール城内、皇帝護衛隊本部、機兵駐屯所。
エリーはレンベルTYPEⅡのコックピット内スピーカーで帝国ラジオ放送を聴いていた。
《これより重大放送がございます。帝国人民の皆様は心してお聞きください。》
帝国ラジオ放送女性アナウンサーの声がした。しばらくの沈黙の後にエランの声がする。
《私はベランドル帝国皇帝エランです。帝国人民の皆様にお伝えしなければならないことがあります。本日未明、摂政アイクルを帝国政令法に基づき処罰致したことを報告致します。そして帝国政局運営新体制を構築進め、現在の連邦国との戦争を早期和平に向けて交渉に入ることを報告致します。なお各事案は元老院議会にて全て議決済みであることを報告します》
エリーはエランのラジオを聴きながらレンベルTYPEⅡのパネルを操作する。
「カシムさん、今より作戦開始出撃します。よろしいですか?」
コックピットフレーム上にいたカシムが笑顔で答える。
「エリー様、起動スタンバイ完了しています」
エリーはインカムをローカル回線に切り替える。
「ユーリさん、帝国無線周波数を使用します。設定は良いですか?」
『エリー様、皇帝護衛隊識別コードが帝国軍コードで認証済みです。安心して出撃出来ます』
エリー正面パネルを操作しながら言う。
「では、各帝国軍に通達お願いします。これよりエラン皇帝護衛隊。皇帝陛下及び新体制に従順の意を表明しない場合反乱軍とみなし討伐対象となります。速やかに各軍は皇帝陛下支持を表明せよ! この文言でお願いします」
ユーリから応答が入る。
『第一軍以外はもう表明しているとのことです』
「第一軍は帝都周辺の部隊管轄なのに・・・・・・、それだけ摂政の影響が大きいてことですね。了解しました。打合せ通りに」
エリーは皇帝護衛隊仕様のヘルメットを被ている。白色に女神像がデザインされた目立つものだ。そして機兵パイロットスーツはブラウン商会製の耐圧耐火仕様の最新型を護衛隊仕様に変更したものを着用している。重装機兵レンベルTYPEⅡ艶消し黒色ボディーのショルダーシールドには皇帝護衛隊のマークがペイントされ目立っていた。
エリーが手を挙げて合図するとカシム技官が頭を下げて直ぐにタラップを降りていく。そして作業員によりレンベルTYPEⅡからタラップが外された。
エリーは周囲を確認するとシールド安全装置を外しシールド開閉ボタンを押した。コックピット内にアラームが鳴り響きシールドがゆっくり下に閉まっていく。
エリーがコックピット正面パネルを見て確認呼称する。「起動異常アラーム無し! オールグリーンランプ確認! 起動シーケンス、スタート!」そしてセーフティーロックを解除、起動スイッチを押した。重装機兵の融合炉が起動、高周波モーターの様な音が鳴り始める。
エリーはモニターを見て各関節稼働部コア、ジェネレータ出力数値を確認する。
エリーが正面パネル確認して呼称する。
「起動完了! 異常警告表示無し! 制御システム異常警告無し! 兵装制御システム連動異常警告無し!」
エリーは確認完了後、左右のレバーを離し、手前にある左右のスペースに手を入れた。
機体のスピーカーから女性のアナウンスが流れる〈レンベル機体パイロット認証システム作動! 認証しました! エリーブラウン確認! シンクロパイロットシステムに移行確認!〉
エリーはヘルメットバイザーを下ろしデーター表示を確認する。
「ユーリさん、データー相互間連動確認お願いします」
ユーリから直ぐ応答が入る。
『エリー様、全て問題ありません! 部隊コールネームはエンペラーイーグル1号2号でお願いします。1号はエリー様です』
「了解、それでは今から部隊通信に切り替えます。」
『エンペラーイーグル2号了解!』
「護衛隊本部! こちらエンペラーイーグル1号! 情報をお願いします」
『こちら護衛隊本部! 帝都西区第五師団本部にて暴動発生! 投降要請に従いません。 重装機兵大隊規模、歩兵中隊規模、2機で鎮圧可能ですか?』
エリーは嬉しそうに答える。
「私達はエラン皇帝護衛隊ですよ。精鋭部隊ですよ。2機で十分ですよ! 他に情報はありますか?」
『ハイ・・・・・・、実は師団本部に第一軍管区司令官、エド中将も立て籠っているのです。ずっと交渉しているのですが応じてもらえず困っております。摂政アイクル殿の盟友ですから無理は無いかと思いますが・・・・・・、出来れば逮捕、もしくは拘束してもらえれば良いのですが』
エリーは直ぐに応答する。
「了解! 位置情報をお願いします! 直ちに急行処置を行います。時間が経てば他の部隊にも影響します。速攻で叩きます。希望は拘束ですよね? 極力努力します」
「それではエンペラーイーグル1号! 出撃します!」
『護衛隊本部了解! バックアップオペレーター サヤです。 サヤでお願いします! 現着予定10分です。 以上!』
そしてドール城西門から2機の重装機兵が出撃した。
「第五師団本部位置確認! 大通りをトレースして向かいます。目立つようにとのことです」
レンベルTYPEⅡを先頭にユーリスペシャルが続き進行する。エリーがホーバー走行しながら外部スピーカーで警告を発する。
《こちらエラン皇帝護衛隊! 帝都治安維持活動中です! ご協力を感謝します!》
道の脇では、ちらほら帝都市民が手を振っている。概ねラジオ放送以降市内は好意的印象だった。
ユーリから無線が入る。
『そろそろです。警戒をお願いします』
「了解です!」
エリーはパネルを確認して言う。
「兵装システムロック解除! モード1移行!」
コックピット内に女性のアナウンスが流れる。〈警告! 兵装システムロック解除! 戦闘モード1移行確認! シールド展開準備完了!〉
大通りを抜け第五師団本部前に到着する。正面道路にはバリケードが築かれその前に20機ほどの重装機兵が並びライフルを構えている。ローランドⅡ型タイプ帝国軍の主力機体だ。
エリー達2機の重装機兵は300mほどの距離まで接近して一旦停止する。攻撃して来る気配はまだ無いようだ。
エリーはレンベルの外部スピーカーに切り替え言う。
《こちら皇帝護衛隊! 反乱行為があるとの連絡を受け確認に参りました! 事実でないと思いますが? バリケードを解き我々を中へ受け入れて下さい!》
バリケードの前の士官が声を上げる。
「我々は! 謀略によりアイクル様を殺害! 悪人に仕立て上げて和平交渉など認めん! とっとと帰って皇帝に伝えろ!」
エリーは再度外部スピーカーで言う。
《エラン皇帝陛下は帝国の今後を思い! やもう得ずとった行動です。帝国のことを思うなら投降して下さい! 今なら罪に問われません!》
士官はイラついたような声で叫ぶ。
「お前達! 皇帝のお飾り部隊がさっさと退がれ!」
エリーはコックピット内で少し微笑み言う。
《じゃあ! お飾り部隊の攻撃を受けて下さいね》
エリーは直ぐにローカル回線に切り替える。
「ユーリさん、戦闘モード2に移行して叩き潰します。どうもこちらの戦闘能力を理解していないようなので半数を無力化します」
『エリー様、極力重装機兵は破壊しないようにとの指示ですが、しょうがないですね。了解しました」
エリーはパネルを確認して言う。
「戦闘モード2に移行!」
コックピット内に女性のアナウンスが流れる。〈警告! 戦闘モード2移行確認! シールド展開完了!〉
レンベルTYPEⅡの兵装システムブレードを選択して融合炉の出力を上げる。
「ユーリさん、行くよ」
『了解です!』
レンベルTYPEⅡのブレードが薄紫色に輝き発光する。ホバーリングして2機は浮き上がると一気に猛烈な速度で加速、第五師団本部前の重装機兵は慌ててライフルを連射発砲する。
レンベルコックピット内では警告音が鳴り響く。〈警告! 防御シールド展開! シールドエネルギー出力上昇確認!〉
ライフル弾はレンベルの前でエネルギーシールドに次々とあたり爆散するだけであった。
「街中でライフル乱射なんて! ほんとにしょうがないね」
エリーは怒った顔をして呟いた。
レンベルは師団本部前に到達すると手間の重装機兵をブレードで薙ぎ倒した。一瞬にして5機ほどが潰された。そしてレンベルとユーリスペシャルの2機の重装機兵はローランドⅡ型重装機兵の脚や腕、頭部を切り飛ばし次々と戦闘不能にしていく。
バリケード付近にいた第五師団将兵達はたまらず後方へ退いた。手間にいたエリーに声を上げた士官は呆然とこの光景を見つめている。
「・・・・・・皇帝護衛隊・・・・・・? お前達はなんなのだ」
圧倒的な力を見せつけて戦闘は終了した。バリケード付近にいた重装機兵は全て戦闘不能、動ける機体はもう無い。
バリケード後方にいた動ける機体の重装機兵もパイロットは恐怖のあまりたまらず機体を放棄してコックピットから脱出する。
エリーは少し機嫌悪い顔をして外部スピーカーに切り替えて言う。
《こちら皇帝陛下のお飾り部隊です! どうですか? 投降する気になりましたか! 抵抗を続けるなら殲滅行動に移行しますがそれでよろしくでしょうか? 皇帝陛下は寛大なお方です。投降するなら現状ならそれほど重く裁かれないでしょう》
バリケードの奥からひとり歩いて出て来る男性がいる。エリーはモニターで確認していると男性が声を上げる。
「皇帝護衛隊! 君らの実力はわかった。女性主体の部隊と聞いてお飾り部隊と思ったが間違いだったようだ! とんでもない戦闘力だ! 皇帝陛下がアイクルと側近達を倒したのも嘘ではないようだな! どうやら私も終わりのようだ。頼みがあるが聞いてくれないだろうか」
エリーは少し間を置いて言う。
《エド閣下ですね、願いとはなんでしょうか?》
第一軍管区司令官エド中将はレンベルTYPEⅡを見上げて叫ぶ。
「君が剣士なら私と勝負してくれ! 君が勝ったら全員、大人しく投降しよう!」
エリーは直ぐに答える。
《エド閣下も含めて全員ですか?》
「そうだ! ただそう簡単ではないと思うが、パイロットとしての技量を見て剣士としてもかなりだと私は思った! 勝負してくれるか?」
エリーはローカル回線でユーリに繋いだ。
「ユーリさん周囲の警戒をお願いします」
『エリー様! 危険では!』
そしてエリーはセーフティロックを解除してコックピットシールド開放ボタンを押す。コックピット内に警報が鳴り響き、ゆっくりとコックピットシールドが上に開放されていく。
最後まで読んでいただきありがとうございます!