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三題噺もどき2

わたしって。

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくななじゅうさん。

 


 窓ガラスを雨粒が叩く。5月半ば。珍しく大雨のようだ。

 1人暮らしのこの部屋に、嫌という程響く。

 わざと大きな音を立てているんじゃないかと思う程に、部屋中に、雨音だけが広がっている。

「……」

 朝からずっとこんな調子の天気なものだから。

 どうも、引っ張られて、よくない。

 なんだか今日は、やけにやる気がない。

 いやまぁ、いつもないと言えばそれまでなのだけど。今日は一段と気力が沸かない。

「……」

 今日はせっかくの休みだから。

 いつもよりちょっといい朝食を取って、たまりにたまった本を読んで、ちょっとゆっくりして、いつもよりのんびり過ごそうと思っていたのに。

 いつもは仕事に追われて、休むどころじゃないから、休みぐらいはと思って、いたのに。

「……」

 朝、目が覚めて。

 最初に、天井が目の前に広がって。

 やけに重たい思考が、ずるりと頭をもたげて。

 少しの沈黙が、耳を通り過ぎて。

「………ぁ……」

 ――たい。

「……」

 一瞬で、そんな思考に、支配されてしまって。

 もう、そこから立ち上がる気力が、あるわけなく。

 なんとなく、今すぐに動くのはよくないなぁと思いいたって。

 色々が落ち着くまで、ぼぅっと天井を眺めていた。

「……」

 それから、どれぐらいたったかは知らないが。

 窓を叩く雨音が聞こえてきて。

 今日は雨なのかと思って。

 ようやく視界をぐるりと動かして、頭ごと窓の方に向ける。

 まぁ、カーテンがかかっているから、外の様子なんてのは分からないけど。薄い色のカーテンなので、なんとなく、外が明るいか暗いかぐらいは分かる。

「……」

 雨の音がするから、もちろん暗いのだけど。

 部屋の中もまだ電気をつけていないから、暗いくらい。

 ―でも灯りをつけようと思わないあたり。思えないあたり。

「……」

 視界にはカーテンを写したままに、未だ巡る思考に、また引きずられる。

 落ち着いたと思ったところで、再度繰り返してしまうから、よくないんだろうなぁ…。

 もうなんだか、自分でも手におえない。

「……」

 目覚めてすぐに、頭をもたげた、暗い思考。

 その思考回路は、ゆっくりと、でも確実にめぐっていく。

 ぬるりと、ずるりと。

 そのうち、ぎちりと、喉を絞める。

「……」

 今年の4月から、新卒新入社員として、働きだしたこの身だが。

 アルバイトの経験なんてものがなく、仕事をする、という行為そのものが初めてだった。

 自分の何十歳も年が上の人に囲まれながら、且つ、同い年の人間と切磋琢磨しながら、日々仕事に明け暮れていた。

 ―正確に言うと、しがみ付いていた。

「……」

 それでまぁ、1か月半も経ってしまうと、なんとなく力量の差というものが現れてきてしまう。研修期間というやつではあるのだが、それでも。

 その中で、力の差とか、経験の差とか、技術の差とか、どうやったって。

 格差が生まれてくる。

「……」

 自分はどうも、何もかもが上手くいかないでいた。

 必死にやってはいるが、実らない努力もあるということだろう。

 それでもと、しがみ付いてはいるが、無駄な足掻きというやつに見えるんだろうか。

「……」

 ―あの子はもうできているのに、あなたはどうしてできないの?まだ覚えていないの?メモは取っている?私の教え方がよくないの?

 ―きみは、何をしにここに来たんだい?あの時の言葉は嘘だったの?きみはどうして、ここに居るの?

「……」

 なんででしょうね。こっちが聞きたいぐらいなんだけど。必死にやっているのに、どうしてできないんだろう。分かっているはずなのだけど、どうしてもできないでいるのは何でしょう。何ができていて、何ができないのかもわからないんですよ。あぁ、全部できないんですね。だからそんな風に思われてしまうんでしょうね。これでも頑張っているんですよ。まだ慣れてもないのに、正確さとスピードをいきなり求めてくるのもどうかと思いますけど。それはまだ両立不可能ですよ。あぁ、でもあの子は出来ているんですね、できて当たり前なのかな。できない方がおかしいのか。

「……」

 何をしたいのか分からなくなってますって言ったら聞いてくれますか。やりたいと思って入ったはずなのに出来ないと現実を突きつけられている今どうしたらいいでしょうか。助けてくれないくせに聞かないでくださいよ。あの時の言葉は本音のはずでしたけどもうわたしはわたしがわかりません。そう言ったら助けてくれるんですか。手を差し伸べてくれるんですか。

「……?」

 わたし―?

「……」

 わたしって。

 なんですか?

「……」

 何のためにここにいるんですか。

「……」

 必要ですか?わたしって。

「……」

 いなくてもいいんじゃないですか。

「……」

 わたしが―――。

「……」

 わたしは―――。

「……」

 わたしって――――――――――

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」




 わたしって。

 生きている意味。

 ありますか。





 お題:あなた・わたし・きみ

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