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奴らは今日も戦場に立つ

他に連載中の作品もありますがモチベが上がらなくて別の作品を書いてみる事に

良かったら読んで下さい。

 今日も戦場が荒れていた。


「どうした!どうした!!さっさと掛かってこいやー」


 戦場で1人の男が吠えていた。

 

「んーこんなんじゃ駄目ダメダメ…。魔法とは魔力の真髄とはこんなんじゃ無い!どりゃりゃぁぁ!!」


 戦場で1人の女が暴れていた。


「最悪です…。どうして毎回こうなんですか…」


 戦場で1人の女が嘆いていた。



 エルピスルカ王国対ゴルゼビル公国防衛戦の最前線にて派遣されてきた『傭兵』によって戦況が変わって行く。


「オラオラ!!テメーらの犠牲が俺の酒代に変わるんだ!ちゃっちゃか、くたばって肥やしになれやぁ」


 傭兵の男は1人で敵部隊に突っ込んで行く、雨の様に飛んでくる弓や魔法を掻い潜り、力任せに盾役の兵士に斬りかかる。

 普通なら剣は強固な盾に阻まれ、逃げ道は塞がれ、数の暴力にすり潰されて呆気なく終わるだろう。

 だが、その男は違った。

 大の大人を覆い隠す程の巨大な盾、文字通りの鉄壁の布陣の盾兵に傭兵の男が薙ぎ倒して進む。

 一体多数、数の暴力など物ともせずに、傭兵は突き進む。剣が槍があらゆる方向から傭兵へと襲いかかるが、その全てを防ぎ、かわし、受け流し、逆に重装の兵士を切り伏せて行く。

 たった1人の傭兵に洗練された兵士達が蹂躙されて行く。

 その姿は一騎当千の英傑などでは無く、ある種の狂気を孕んだ「人型の何か」の様に見えた。

 更に別の最前線でもエルピスルカ王国にとって由々しき事態が起きていた。


「鋭利なる意識は研ぎ澄まされし鮮明たる魂の形。万物を引き裂きし無空の刃。今解き放たれ我敵を屠れ!『アビションスリッパー』」


 とある傭兵の女から放たれた魔法は目に見えない斬撃を相手にぶつける魔法。

 だが女の傭兵が放ったソレは一般的なアビションスリッパーとは違い、規格外と呼べる範囲と威力を持っていた。

 その目に見えぬ斬撃は鋼の盾を容易に切り刻む。その先の鋼の鎧ごと騎士も縦横無尽に斬り裂いて行った。

 だが同時に味方側の兵士、傭兵をも巻き込んで斬り裂いていた。


「う〜ん。まだ調整に難ありかぁ」


 傭兵の女は味方側を巻き込んだ事、自体は特に感慨は無い様子で自分の放った魔法について考え込んでいる様だった。

 当然味方内から多数の文句が上がるがそんな文句を物ともせず、考えに集中する。

 納得行かない内の1人が傭兵の女に掴みかかろうとするもスルリと避けるとめんどくさそうにバックから“ある物”を取り出し、ポイポイと自分の魔法で傷つけた味方側の兵士、傭兵にぶつけ始めた。

 傷口に塩をぬる様な凶行に味方側が更に騒がしくなるも、ぶつけられた被害者達が何事も無かった様に立ち上がり始めるのを見ると口を噤む事になった。


「コレで問題無いでしょ」


 傭兵の女は更に魔法を放つ、相手に多大な損害を与えるも、どれもコレも味方を巻き込む危険な魔法ばかり、巻き込まれない様に離れても意図しない方向にとんでくる魔法に巻き込まてしまう。

 そして巻き込んだ味方側には回復アイテムを投げつけて強制回復させるを繰り返す。

 その回復量、回復速度も驚くし、相当な高級回復薬をポンポンと繰り出す事も驚いたが、敵味方全員が1番驚いたのは、その回復アイテムの命中率だった。距離や場所を問わず百発百中の命中率でミスが全く無い。確実に命中率させて怪我や傷を無かった事にしていった。

 誰もが思う。何故、魔法の制御は出来ないのかと。


 そんな最前線を遠くから敵将が見据えていた。


「アレが『戦場喰らい』と『小さな混沌』か…」

「はい、アレ等は戦場を渡り歩いては荒らして行く災厄の様な連中です」

「どの傭兵組合にも所属してないフリーの傭兵な故に、どの戦場にも現れ、報酬次第でどちら側にも節操なく組みする狂人共か…今晩渡りを付けて、こちら側につかせろ。あと本日は侵攻は止めだ。これ以上は無駄な犠牲が増えるだけだ」

「はい、了解しました」



 バロロ〜バロロ〜

 敵軍の撤退の合図が鳴り響く。


「なんだぁ。逃げんのが早えーな?」

「ちっ、実験が不充分なんですけど…」


 災厄と呼ばれる2人は敵軍の早期撤退に文句を垂れる。

 両軍兵士、傭兵は厄災と呼ばれる2人を見ながら文句を垂れる。

 敵味方両陣営にとって傭兵2人は厄介者でしか無い。味方の取り分など考えずに全てを総取りにする戦場喰らい。味方ごと相手をぶちのめす小さな混沌。

 自分勝手に暴れるだけの2人は当たり前の様に嫌われていた。

 だが誰も2人を排除する事はできなかった。2人の圧倒的な実力がソレをさせなかった。

 

「さぁ、今日はここまでです。帰りますよ」


 声をかけた女性は傭兵の1人だった。

 ただ、他の傭兵や兵士とは違い2人に普通に話しかけていた。


「えー。まだやり足りないよぉ!!実戦でしか得られないデータっていっぱいあるんだよ!」

「はいはい、そーですね。でもこれ以上暴れても戦場規約違反で報奨金が無くなるばかりか、罰金及び犯罪者扱いになるってのも、毎回伝えてるんだから文句言わない」

「だがなぁ。コレじゃぁよ。稼ぎが少なすぎて旨え酒に有りつけないぜ」

「貴方は飲み過ぎです。ソレに旨い酒の味なんて分かんないでしょ。安酒で充分です」


 2人の厄介者を引きずって帰っていく傭兵の女は、いつからか『管理者』などと呼ばれている事を本人は知らない。



 ゴルゼビル公国、傭兵ギルド待合所兼居酒屋にて今日も今日とて傭兵の男は飲んだくれていた。


「やっぱ安い酒は水っぽいぞ?こんなんじゃ酔えねー」

「うるっさいわね。“ココ”も言ってたけど、アンタ味なんて分かんないでしょ?この前だって高級蒸留酒を安酒と間違えて飲んで大変な事になってたじゃない」

「アレは味が合わなかったんだ!コレは薄いってのは分かるんだよ!薄いと酔えねーだろ?ソレはわかんだ」

「はっ!酔いたいだけなら酒じゃ無くても良くない?何なら私の魔法で酔わせてあげても良いわよ」

「魔法で酔っても気持ちよくねーんだよ。酒じゃなきゃダメなんだよ」

「うーわ。ダメ男の発言だわぁ。キショ!」

「んだとぉ、チビ女がぁ?ガキンチョみたいな見た目のお前だって、充分キショいだろうが」

「うーわ。今度は人を見た目で判断するとか、ホント前時代的ね。そんなんだからどこ言っても嫌われるのよ」

「そりゃテメーも一緒だろうが!」

「“ノロワ”さん、“マジーネ”さん。2人とも落ち着いて、大分うるさいです」

「だがなココ!このチビスケがよぉ!!」

「あぁ?ただデカいだけの木偶の坊が何言っちゃってんのかなぁ?」

「ホント、静かにして…」


 3人の傭兵は非常に注目を集めていた。

 『ノロワ』と呼ばれた男は非常に筋肉質で体格が良く端正な顔立ちをしているが、服装に頓着が無いのか非常に安っぽい格好をしていた。荒々しい言動や戦場喰らいと呼ばれる程の蛮勇からは何となく離れた雰囲気もあり、妙な差異を感じる。

 『マジーネ』と呼ばれた女の見た目はまるで年端も行かない少女の様だった。初めて見た者は大概が12歳前後と見間違う背丈と容姿をしていた。小さな混沌とはよく言ったモノで、大人の中に1人子供が混ざっている様な様子は、違和感が凄い。

 『管理者』などど呼ばれている女の名は『ココ』と言い、この大陸では珍しい黒髪、黒目であり美人だとは思われるが、見た目の系統がこの国の人とは全然違う為に浮いていた。

 良い意味でも悪い意味でも目立つ3人が1つのテーブルで食事をしているなら、否が応でも目立つ。更に大声で怒鳴り散らかしているのであれば尚更だ。


「木偶の坊だぁ?ならテメーはろくすっぽ魔法も制御出来ねー未熟者だろーが!チンチクリンなのは見た目だけにしとけや!」

「チビだ、チンチクリンだの表面的な事しか見れない様な薄っぺらい奴に「良し悪し」なんて分かるわけ無い…。フン!哀れな奴」

「何言ってんだ?魔法が下手くそなのは事実だろ?その癖に投擲は狩人顔負けの精度なんだから、魔法なんざ、すっぱり諦めて投擲一本に絞った方が良いぞ。それくらいの良し悪しはそこら辺を走り回ってるガキでも分りゃあ」

「んだとテメー!『魔力の真髄』を味わいたいみてーだな!」

「おぉ?やるか威力だけのノーコン魔法の真髄見てやろーじゃねーか」

「はぁ。本当うっさい…。勝手に暴れてて下さい」


 黒髪の女は喧嘩に巻き込まれない様に素早くその場から離れ、さっさと自分の分の支払いを済ませて居酒屋を後にした。

 店を出ると宿とは反対方向に進み人目の無さそうな路地に入って立ち止まる。


「何の用ですか?食事中からずっと見てましたよね?」

「成る程、気づかれていましたか。」

「で?要件は何です?」

「戦場喰らいと小さい混沌をエルピスルカに鞍替えしていだきたく」

「はぁ。それを何故、それを私に?」

「貴方ならば、あの2人を説得する事が出来ると聞いておりまして」

「はぁ…。どうして皆さん、その様に思うのでしょうか…」

「ココ=ナタデ様。是非ともあの2人にわた…」


 引き抜き交渉をする為に来た男の首がゴトリと落ちる。


「勝手に人の名前を呼ぶな、気持ち悪い。それに私はあの2人のマネージャーでも何でも無い。迷惑極まりないだ、ホント」


 首を落としたのは高速の斬撃、ナイフの様に研ぎ澄まされた投擲用の武器をそのまま振り抜いて首を掻っ捌く、相手は自分の首が切られた事に気づく事なく死んだ。

 プロの暗殺者の技術、更に死体に特殊な術を施すと跡形もなく消え去った。


「さっさと宿に戻って寝よ」


 女は何事も無かったかの様に歩き出した。



 次の日の朝に厄災とも言われる2人の傭兵はエルピスルカ王国に寝返ること無く、ゴルゼビル公国側の最前線に陣取っていた。

 しかも2人は昨日以上に鬼気迫る迫力が滲み出ていた。

 たった2人の傭兵に両陣営が竦んでしまう程に気圧される。

 相手側は何があったのか分からず困惑し、味方側は昨晩の騒ぎを聞き及んでいる為に気が気では無かった。

 昨晩2人は只の喧嘩と言うには余りにも荒々しい凄惨な騒ぎを起こしていた。

 始まりは居酒屋で良くある喧嘩だった。お互いが貶し合い、最終的に殴り合いや武器を持ち出した一触即発の状態になったりもする。まともな職に有り付けず傭兵になるしか無い様な荒くれ者が集まれば自ずとその手の揉め事は増える。

 だがこの2人のソレは揉め事などでは無かった。

 管理者と呼ばれる黒髪の女傭兵が去ると、タガが外れた様に殺気を撒き散らし、お互いが牽制しあうのかと思いきや同時に攻撃を繰り出していた。

 男は尋常じゃないスピードで女の首に指を食い込ませる形で左右から握り込み喉を潰しつつ直接骨を握りに行く。

 女は無詠唱で男を丸々炎で包み込む程の魔法を放つ。普通の人間ならものの数秒で丸焦げで死に至る威力だった。

 グジュっと首の骨が肉ごとへし折られる音と人の肉がグジュグジュと焼ける音と臭いが辺りに広がる。

 口喧嘩で簡単に一撃必殺の行動を取る。イカれた連中の中で更にイカれた行動に、周りの傭兵達ですら引いていた。

 2人が同時に崩れ落ちる。丸焦げの死体と首が千切れかけた死体が転がった。

 周りの傭兵達が、恐る恐る生死を確認しようと近づくとマジーネの身体が発光し始めた。よく見ると胸元と頭部に当たる部分に魔法陣が浮かび、更には自身を覆うサイズの魔法陣も床に展開された。

 ヒッと息を詰まらせて生死を確認しようとした傭兵が身を引くと、今度は丸焦げで死んだと思われていたノロワがギチギチと炭化した皮膚を擦り合わせる音を響かせながら動き始めた。

 目の前で驚愕の現象が起きていた。

 マジーネは魔法陣が光出すと同時に千切れた首が繋がり、傷が塞がって行く。

 動き出したノロワは炭化した皮膚をボロボロと落としながら何事も無かったかの様に立ち上がる。


「んー、自身を使った無詠唱かつ反射発動の回復魔法による蘇生は成功ね。まぁ、いい結果かな」

「あーあ、服が無くなっちまったじゃねーかよ」


 2人共数秒前に殺しあったとは思えない落ち着いた態度に周りの全員が困惑した。


「混沌のアレは魔法だとして戦場喰らいのアレは何なんだ?“加護”なのか?」

「いや、アレが『呪い』なんだろ」

「あーアレがってああ!」


 ノロワについてガヤガヤ言っていた傭兵達は、そのノロワから睨みつけられてるの事に気がつくと息が出来なく成る程に恐慌し腰が抜けて立っていられなくなる。


「やっぱり死んで無いんだ…。でも無詠唱による即発動の攻撃魔法の人体実験の情報を得られたから、まぁ今回は許してあげる」

「何をほざいてんだ。テメーの魔法程度じゃ俺は殺せないのは分かりきってんだろ?」

「フン、魔力の真髄を極めれば、あんたの呪いごと吹き飛ばしてあげる」

「才能のねーお前に『極める』なんて事出来るとは思えーんだよな」

「あん?もう一回丸焦げになる?それとも今度はバラバラにしてあげましょうか?」

「無駄な事すんな。今のお前じゃ何やっても無駄だ。それより服どうしてくれんだ?あぁ?」

「はーそれなら私の服だって血まみれで台無しなんですけどぉ」


 またもや一触即発の様な雰囲気を醸し出し始めた2人に傭兵ギルドのマスターが泣きそうな声で割って入った。


「もう勘弁してくれ!」

「あん?」

「まだ暴れると言うならウチでの傭兵登録は抹消する!登録を抹消したら戦場でいくら活躍しても賞金は入らんぞ!そっそれでも良いのか…」


 微妙な沈黙が訪れるも

 

「ふん!まぁ良い今日は帰る。おい、ギルマスこのままだと宿に戻れねー。なんか服貸してくれ」

「あーあ、この服は結構気に入ってたんだけどなぁ」


 明らかに納得はしてはいない2人が渋々と居酒屋から出て行った。

 そんな2人の間に割って入ったギルマスは少し老けた様に見えた。



 昨晩の鬱憤を晴らすかの様に「戦場喰らい」と「小さい混沌」が大暴れし戦場は今日もヒッチャカメッチャカだ。


「我が国への鞍替えは失敗か…。仕方ない、各自撤退を…おおお」


 敵将が撤退を宣言しようとした時にノロワが投げた剣が脳天に突き刺さった。

 今回も我先にと敵軍の中に飛び込んでいたノロワは、500メートル以上は離れた場所から力任せに剣を投げ見事に命中させた。


「はっ!今回もサッサと逃げられたらたまんねーからな」


 敵軍ど真ん中で武器を無くした傭兵が1人。だが誰も攻撃を繰り出せずにいた。

 多勢に無勢、やれば殺せるだろう。だが武器を持たずとも戦場喰らいを殺すまでにどれだけの被害がでるか分からない。自軍の将がやられた以上、命を賭けてまで戦う意味を見出す兵はいない様だった。


 バロロ〜バロロ〜

 パッパラーパッパラー

 敵軍撤退の合図と有軍勝利の合図が同時に鳴り響いた。


「はは。今日はうまい酒が飲めそうだぜ」


 ノロワが堂々と歩きだす。周りを囲っていた兵士は無言で道を開けていった。


 戦場喰らいと呼ばれる男は今日も酒を飲み酔い潰れる。そしてまた酒を飲む為に戦場に立つ。

 

 そんなやさぐれた男が世界をどうにかするのかも知れないし、何もしないかもしれない。

 

 そんな物語…。

あんまり確認してないので誤字脱字が多いと思いますがご了承下さい。

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