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第23話 その変貌に愕然と

 ハンスたち技術班が司令部と合流した、その直後。かの三体のキメラ兵を先頭に十数体の量産機からなる帝国兵たちが、フィア機を中心とした部隊に襲いかかった。


 だがそれは、まさにこちらが想定した通りの動きである。じっと伏して待っていたカスパル機が、長い待機の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように……その突然の登場に反応の遅れた一般兵たちを、次々と打ち倒してゆく。一方のフィアは敵のキメラ兵たちをその繊細な操作で翻弄し、やがてまとめて二体をオーバーヒートからの行動不能へと追い込んだ。


 戦闘はあっけないほど有利に進み、とうとう敵はキメラ兵一機を残すのみである。味方の機体も半数近くが後退し、さすがのフィアやカスパルも限界が近づきつつあった。だがそれでも、圧倒的に多勢に無勢な状態である。


 あとはこれ以上の援軍が届く前に、粘る一体を確実に片付けてやるだけでいい――皆が勝利を確信した、その時。突如として、通信石からありえない声が響き渡った。


『ハンス、おい、ハァァァァンス!! そこにイるんだろぉぉぉぉ』


 それは、解放戦線メンバーの、誰の声でもなかった。強い魔力波が味方の通信帯域を浸食し、干渉を起こしていたのである。


『返事くれぇ、すゥぐにできねぇのかああああ? だいたいテメェは昔っからよぉぉ、返事がちっさくてぇえ、ぜんっぜん聞きとれねぇんだよぉぉぉオ!!』


 通信石から響く狂ったような叫び声の主に思い当たって、ハンスは戦慄した。とっさに何も応えられないでいると、さらに声は続く。


『んでそこの巨人兵はぁぁ、さてはふぃあてぷっぺだなぁぁああ!? オマエが逃げたせいでぇえ、オレぁ散々な目にあわされてんだよぉぉおお!』


 そうしてひときわ大きな、咆哮(ほうこう)が響き渡った。


『オマエたちのせぇでぇぇええ、オレはああああああああ!!』


「まさかこの声……オットー、なのか!?」


 ようやくハンスが口を開くと、通信石から上がったのは場違いな歓びの声である。


『ヒヒッ、やぁぁっぱりイやがった!! 待ってろよぉ、今ぶっコロしにイってヤるからなぁぁぁあ!!』


 そこから先、かのキメラ兵の動きは神がかったものだった。残りただ一機の彼は、倒れたカスパル機の上を駆け、立ちはだかるフィア機の脇をくぐり抜け――あっという間に、ハンスのいる司令部へと迫ったのである。


 そうしてとうとう、司令部を隠していた緑の壁を掻き分けて……ハンスたちの目の前に、キメラの操る量産型巨人兵が、その大きな顔をのぞかせた。


『みぃぃイつけた』


 巨人の口がガパっと大きく開くと、その喉の奥にはチラチラと赤い炎がせり上がっている。それが火炎砲の発射準備だとようやく気付いたクラウスは、我に返ったように通信石へと向かい、叫んだ。


「しまった! 総員……」


 だがその言葉がみなまで言い終えられることはなく――フィア機の低いタックルが、間一髪でキメラ兵の横っ腹に突き刺さる。巨大な金属同士が激しくぶつかり合う音が(とどろ)くと、辺りの空気をびりびりと震わせた。


 組み付いた状態のまま、なんとか身を起こした二体の巨人兵は……そのまま一進一退の押し合いを始めた。最大出力のまま押し合う二体の原動機には、それぞれ今ごろ恐ろしい高負荷がかかっていることだろう。だがスクラム勝負であれば、分があるのはこちらの機体の方なのだ。


 ――もらった。この勝負、こっちの勝ちだ!!


 キメラ兵の両の腕が、とうとう動力を失ったようにだらりと垂れる。ハンスたち解放戦線のメンバーが、皆、この戦いの終わりを確信した。


 そのとき――


『うわっ、なんだ、あちイぃぃッ! あちイよおおお!!』


 一転して切羽詰まったような声が届いて、ハンスは顔をしかめた。


 ――クソッ、あっちの操縦席、冷却装置がイカれちまったようだな。


「フィア、聞こえるか!? すぐにハッチをひっぺがして、オットーを出してやってくれ!!」


 ハンスは通信石を握りしめると、越権覚悟でフィアに指示を飛ばした。過加熱を起した機体の中に冷却もなしに閉じ込められたままでは、中の人間はすぐに地獄のような蒸し焼き状態になってしまうだろう。


『了解!』


 例え自分を職場から追い出した張本人だったとしても……ハンスにとって、オットーはかつて同じ宿舎の釜の飯を食った、兄弟子だったのだ。


 ――このまま死なれたら、寝覚めが(わり)ぃ。フィア、頼む!!


 思わず現場へと駆け出したハンスはそう心の中で祈ったが、オットーが敵兵最後の一機であったことが、幸いしたのだろうか。ハンス達の動向を様子見しているらしいクラウスから、その指示について静止の声がかかることはなく……ただ作戦の成功と、速やかな帰還を指示する簡素な命令だけが、通信石から響き渡った。


 味方が次々と撤退準備を始める中で、フィア機は急いで沈黙した敵機を地面に横たえると、ハッチの隙間にその鋼の指をかけた。地道に強化しておいた握力、そして腕力が功を奏して、胸の装甲がメキメキと引き剥がされてゆく。ようやく操縦席が剥き出しになったのは、ハンスがちょうどその場に到着した頃だった。


 自らも巨人兵から飛び出したフィアと合流し、敵機の内部を覗き込むと。


 中から出てきた操縦師は、すでに人ではなくなっていた。


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