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第16話 その参謀は泰然と(1)

 フィアを加えたことによりエース級パイロットが二人に増えた解放戦線は、再び、帝国軍と対等に渡り合い始めた。だがフィアを加えてもなお、例の不気味な量産機たちを撃破するのは困難だった。いつもあと少しのところで、夜闇に紛れて取り逃してしまうのである。


 フィアはその働きで徐々にメンバーからの信頼を取り戻してゆきつつあったが、解放戦線全体に漂う雰囲気は、じわじわと閉塞感に包まれつつあった。



 *****



 じりじりと日々暑さの増している、ある夏の日の昼食終わりのことだった。格納庫にいるハンスに声をかけたのは、リーダーのクラウスである。


「今少し、時間をもらえるかな? 相談したいことがあるんだが」


「大丈夫です」


 クラウスはそのままフィアやカスパルを始めとした操縦師たちにも声をかけ、格納庫隅のテーブルへと移動する。そんな彼の持ってきた相談とは、ユーゲルヴァルト帝国軍の持つ基地のうち一つに、こちらから襲撃を掛けたいというものだった。


 その基地は(くだん)の不気味な量産型巨人兵たちの帰還先だということなのだが、それらはなぜか、夜にしか出撃しないのである。だが夜間戦闘が得意な相手の夜襲を待ってばかりでは、こちらとしてもジリ貧なのだ。そのため昼間のうちに、こちらから打って出たいということらしい。


「ただ、その巨人兵たちも、別に昼間に動けないということではないようだなんだ。基地を攻撃する前に、なぜあちらが夜襲中心に方針転換したのかをきちんと知っておけば、攻略の糸口になりそうなんだが……。ハンス、何か心当たりはないかい?」


 急に話題を振られたハンスは、だがその問いを予想していたかのように、よどみなく話し始めた。


「心あたりは、ふたつあります。まず、このところの気温が影響しているのではないかと」


「気温が? 一体どう影響するのかな」


「集めてもらった敵機の情報を分析してみましたが、(くだん)の特殊な巨人兵たちは、見た目だけでなく基本性能も一般兵と同じ量産機をそのまま使っているようです。つまり操縦師の技能は高いですが、その機体の方には主席級の操縦師による酷使に長時間耐え切れるほどの堅牢性(けんろうせい)は、ありません。それが過加熱を起こしやすい真夏の陽光下であれば、なおさらです」


「なるほど……」


「次に暗闇に隠れた人間を見つけ出せるという話によると、おそらく何らかの暗視技術を実装したのでしょう。暗視のできない我々はそれだけで不利になりますから、夜襲を好むのも不思議ではありません」


「ふむ……ではハンス、君ならどう攻めるかい?」


 クラウスの問いに、ハンスはわずかに考えた後。慎重に口を開いた。


「自分なら……単純に、天気の良い昼下がりに遠距離から基地を狙撃し、巨人兵を誘い出します。その先はあえて細かい動きの増える白兵戦(はくへいせん)を仕掛けて翻弄(ほんろう)し、相手の過加熱による機能停止を誘います。軍の量産機とこちらの機体にそれだけの性能差があることは、自負しています」


「なるほど、良い案だ」


 うなずくクラウスに、だがハンスは(かぶり)を振って見せる。


「ただ……件の特殊な巨人兵を確実に誘い出せる保証はありませんが」


「確かに、それは課題だ。しかしながら暗視技術とは、一体どうなっているのだろうな」


 自問するように言うクラウスを見て、フィアがお仕事仕様の……かつて軍にいた『人形』を彷彿とさせる表情で、口を開いた。


「それについては……合成獣(キメラ)かもしれません」


 耳慣れない単語に、クラウスはさらに問う。


「キメラとは? 人間ではないのかな?」


「複数の動物をツギハギにして、それらの能力を併せ持つ生物を作り出すという分野が、錬金術にあるんです。お父……ベルツ博士はそれの基材に人間を使う研究を進めていて、合成獣(キメラ)兵と呼んでいました。暗視能力、正確には熱感知能力の付与は、確かヘビ由来のものだったと思います」


 一部のヘビはその顔面に、目や鼻以外にピット器官という感覚器官を持っている。それは赤外線の受信器になっていて、まるでサーモグラフィーのように熱源を感知できるのだ。


 それを使いヘビは陰にひそむ獲物を見付けるのだが、気温のごく高いところではその真価を発揮するのが難しい。本来、ピット器官の熱探知は、昼間であっても物陰に隠れた対象の発見に役立つものである。だが真夏の昼については、動物と静物の表面温度差があまり無くなってしまうのだ。そのため今この季節に有効なのは、やはり夜なのである。


「そのキメラ兵に付与されようとしていた能力なんだが、他には何か心当たりはないかな?」


 クラウスの問いに、フィアはわずかに記憶を巡らせる。そしてふと思い出したように、顔を上げた。


「他の感覚器官には、確か遠くの獲物を見つける猛禽の目などがあったと思います。あとは単純に筋力や瞬発力など、基礎の運動能力を上げるものでしょうか」


「猛禽か……ならば昼間でも、その点は警戒が必要かもしれないな」


 クラウスはひとつうなずくと、周りのメンバーを見渡して、言った。


「さて面子も揃っていることだし、もう具体的な作戦をここで詰めてしまおうか」


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