4人の超絶有能王女は、どうしようもなく愚かな末弟王子をコテンパンに叩きのめす。
※一部性的なニュアンスの表現があります。読まれる際には、ご注意・ご了承ください。
婚約破棄系のお話を書いてみたくて頑張ってみました!
拙い文ですが、よろしくお願いします!
2021.06.22
誤字報告ありがとうございました。
修正致しました。
2021.06.23
再度、誤字報告ありがとうございました。
修正致しました。
自身の表現力・確認不足を痛感します…とほほ。
今後も精進していきます。
エドガールは、どうしてこんなことになったのかと混乱していた。
今日は、王国内の成人した貴族令息・令嬢が集まる成人パーティがあり、今はそのパーティの真っ最中である。
エドガールはこの国の王子であり、今年成人の年であり、学園を卒業する年でもある18歳になったので、王族の代表も兼任してこのパーティへ参加した。
エドガールには、10歳の時からの婚約者・ローリジット公爵令嬢がおり、本来ならば、同い年である彼女をエスコートするはずであった。
しかし、学園在学中に、所謂「真実の愛」に出会ってしまったことで、彼はローリジットを嫌忌するようになった。
エドガールの「真実の愛」のお相手は、子爵令嬢のアンジーヌであった。
偶然にも、アンジーヌの落としたハンカチを拾ったことがきっかけだった。
無邪気に笑う顔、食事をするときに美味しそうに食べる顔、時折、生徒会の仕事で疲れた時に、心配そうな顔で「無理しないで」と頬を撫でる仕草…。
アンジーヌのコロコロと変わる表情に、目が離せなくなっていった。
いつしか、婚約者であるローリジットを放ったらかして、学園の至る所で、人目も憚らず逢瀬を楽しむようになった。
ローリジットはどんなことにも優秀だった。しかし、エドガールを凌駕するその優秀さが、何時しか鼻に付くように感じてしまった。
ある日、アンジーヌが泣きながら「ローリジットから王子に近づくなと言われた」とエドガールに訴えたことで、彼の中でローリジットは「愛する彼女に害を成す者」と認識するようになった。
日を追うごとにアンジーヌから聞く被害が深刻化していくことに、エドガールはアンジーヌへの愛を募らせると同時に、ローリジットへの憎悪を募らせた。
それからはローリジットに、何を言われても聞く耳を持たず、「王子である私に文句をつける気か」「アンジーに嫉妬しているから、そんな言い方をするのだろう」と罵った。
そして、卒業をしたらローリジットと結婚をさせられてしまう事実が許せず、真実の愛で結ばれていると信じて疑わないアンジーヌと一緒になれないものかと諦めずにいた。
そして、今日催される成人パーティで、ローリジットの悪事を裁き、真に愛するアンジーヌを妻に迎えると、公言することに決めたのだった。
そして、予定通りローリジットを会場の中央へ引き摺り出し、今まで行った悪事を暴き、婚約破棄を宣言した…はずだった。
「ねえ、エドガール。どうして成人の儀を兼ねたパーティで、こんな愚かなことをしたのかしら?」
説明、してくれるわよね?と、まるでいたずらっ子のしでかした事を聞くように、柔らかい表情で微笑むエドガールの姉_____第一王女・カサンドラが、正座を強いられているエドガールとアンジーヌの正面に立っていた。
エドガールには、4人の姉がいる。
つまり、この国には王女が4人もいるのだ。
カサンドラを始めとする4人の姉は、それぞれ美しいだけでなく、それぞれ得意なことに才能を発揮し、貴族だけでなく民衆からも絶大な支持を得ていた。
「エドガール…よもや貴様、自分のしでかした事の重大さがわからぬとは言うまいな」
ジャキ、と音を立てて、剣をエドガールの喉元に突きつけたまま、剣呑な空気を纏わせている第二王女・フレデリカ。
フレデリカは、女傑と謳われるほどの剣技の持ち主で、王国騎士団の統括副騎士団長を務めている。
「あっははっ!黙り込んだって無駄だよエドガール。黙り込もうとするなら、私手作りの自白薬をその口に押し込んでやるからねえっ!」
エドガールの頭を肘置きにし、ニヤニヤと笑いつつ、それでも抗えない威圧感を発しながら楽しそうに笑う、第三王女・ローゼマリー。
一見王女らしからぬ立ち振る舞いに感じるが、彼女の研究____とりわけ、薬学における功績は、国内だけでなく、国外の医療技術向上へ大いに貢献している。
「嘘は駄目。私の影たちは、全部見てる。今までどんなことがあったのかも」
感情がわかりにくい表情と、抑揚のない声が、より一層怒りを感じさせる雰囲気を醸し出している第四王女・ヴァイオレット。
周りには、黒く小さな蝙蝠のような、小鳥のようなものが何匹も飛び回っていた。
王国随一の膨大な魔力に恵まれた彼女は、全属性の魔法適性があり、その魔法を日々極めようとしている。
国立魔法研究所に在籍しているだけではなく、特に使い魔を召喚・使役する魔法を得意とするので、この王国内の影の機関と言われている諜報機関もヴァイオレットが管轄していた。
「さあ、エドガール。こんな所で貴方の可愛い婚約者であるローリジットを陥れ、その性根の醜い小娘を妻にすると宣った事について、私達が納得できる説明をしてちょうだい」
パチンと手に持っていた扇子を閉じながら話すカサンドラ。優しく微笑む笑顔は聖母のようなのに、醸し出すオーラは誰にも異を唱えさせないものを感じさせる彼女は、現宰相も敵わないほどの圧倒的な頭脳と統治力があり、王位継承順第一位と言われている。
本来ならば、成人パーティに参加する予定ではなかった筈の4人が、突如この会場に現れたことで、事態は一変した。
たとえ参加する予定ではなかったとしても、姿を現したのであれば、周囲の人間には止めるのは勿論、意見を言うこともできない。
もはやこの会場は、この4人の王女達の独壇場となっていた。
補足だが、この国の王族は男女関係なく、それぞれの能力や才能で、誰が王位を継承するか決める。
これは、何代か前の国王が、エドガールのように「真実の愛」を語って、平民の娘を無理やり王妃にした結果、王妃が複数の側近と爛れた関係になった末に、国王が暗殺されるという事件が起きたためである。
当時は、国王亡き後に王位を継承できる王子がおらず、3人の王女がいたことから、王位を継承させる法を変える必要があったためである。
なので、現在の王位継承権はカサンドラ、フレデリカ、ローズマリー、ヴァイオレット、エドガールという、偶然にも生まれた順番になっていた。
「え、エド様…私、怖いです…」
目に涙を溜めながら、エドガールの腕に抱きつくアンジーヌ。
その、娼婦がしなだれかかる様な姿を見て、フレデリカが殺気の篭もった目で睨みつける。
「ヒィッ!」という悲鳴を上げ、エドガールになおも縋り付く姿は滑稽に見えた。
「わ、私はっ!愛するアンジーが、ローリジットに虐げられていることが、許せなかったのです…っ!」
「ふぅ〜ん…アンジーがローリジットに虐げられている、ねぇ…。その証拠、何処にあるの?」
揶揄うように言葉を投げるローズマリー。
その物言いが、馬鹿にされているように感じたエドガールは、グッと歯を食いしばってから叫んだ。
「他ならぬアンジーが!私に泣きながら訴えたのです!証拠など、それで十分でしょう!」
「片方の訴えだけでは、証拠は不十分。双方の意見、周囲の証言を集めて照合させることで、初めて証拠と呼ぶ」
バッサリと切り捨てるヴァイオレット。
普段は寡黙な彼女がこんなにも饒舌に話す姿は滅多に見られない。
「ローリジットはやってないなどと嘘をついたのです!」
「何故、そこの小娘の言葉は信じられて、自分の婚約者の言葉を信じられない!」
「では、アンジーが嘘をついてると言うのですか!?」
勇敢なのか愚かなのか、フレデリカの言葉に噛み付くように答えたエドガール。
それを見たローズマリーは、王女らしからぬ大きな笑い声を上げた。
エドガールは、何故自分とアンジーヌがこんな目に遭わなければならないのか納得ができていなかった。
「今回の一連の出来事については、エドガールやローリジットにずっと付けていた影が全部知ってる。そこの小娘にも付けてた」
「か、影、ですか…?」
「当たり前でしょ〜?私達、王族なんだから、常に影がつけられてるのは常識でしょ?何かあってからじゃ遅いんだから。そんなことも忘れちゃったの〜?」
「わっ…わかっております!」
「じゃあ、影達の証拠、見る?」
ヴァイオレットがそう言って両手を広げると、周りに飛んでいた影たちは周りに広がる。
それぞれの目から光が発せられたかと思うと、影達が今まで見てきた映像が映し出される。
始めに映された、ローリジットについていたであろう影が写し出している映像には、仲良く学友と楽しそうに過ごしているローリジットの姿が映されていた。
アンジーヌを虐げる姿は勿論、アンジーヌに近づこうとする素振りすら映らなかった。
次いで、エドガールについていた影が映した映像は、始めは側近候補の学友やローリジットの姿はあったものの、途中からは、終始アンジーヌと一緒にいる姿が映し出された。
一部、人影の無い部屋や学園の敷地の外れにある東屋に2人で入っていく姿も映し出され、周囲の人間はヒソヒソと囁き、怪訝な表情を見せた。
これには、エドガールも顔を赤くしたり青くしたりと、みっともない表情をするしかできない。
しかし、その後に続いたアンジーヌの映像には、更なるどよめきが起こった。
エドガールとの初めての出会いの場面で、わざと自分でハンカチを落とす姿。
自分で作ったと言っていた、手作りの差し入れのお菓子達を、他の令嬢を脅して巻き上げる姿。
ローリジットに捨てられたと言っていた教科書類を、自分で焼却炉に投げ入れる姿など、数々の自作自演を行なっていた証拠が明らかにされた。
極め付けは、エドガールだけではなく、複数の令息たちと関係を持っていた姿が映っていたことだった。
これには、多くの貴族が顔を顰め、悲鳴を発する者までいたほどだった。
人影の少ない物陰で、外だと言うのにだらしなく嬌声を発する姿に、エドガールは絶句し、アンジーヌは白い顔をしていた。
「…ねえ、お父様、お義母様」
カサンドラは、いつの間にか会場に姿を現していた国王と王妃に語りかける。
カサンドラとフレデリカ、ローズマリーは、病気で儚くなられた前王妃の子であり、ヴァイオレットとエドガールは後妻に当たる現王妃の子である。
一連の出来事を見ていた国王は神妙な表情をし、王妃は顔を青くさせていた。
「冷静な判断もできず、下手すれば、国政を引っくり返す恐れのあるエドガール。そして、そんなエドガールにつけ込んで、いつかの王妃のように、王国を貶めようとするアンジーヌ子爵令嬢…」
どちらも、この国には必要ありませんよね?
にっこりと、残酷なまでに優しい笑みを浮かべて、そう告げた。
国王は、ため息を一つ吐くと、意を決したように言葉を紡いだ。
「…エドガールは王族としての使命を忘れ、色欲に溺れた。過去の歴史を省みない行いは、王族の資格たるやなし。今を以て、王族としての身分を剥奪し、平民として生きていくことを命ずる。子爵令嬢は、国家反逆罪で捕らえよ。子爵一族、そして彼女と関係を持った者達についても、追って沙汰を下す」
フレデリカが顎を動かすと、一斉に騎士達が動き始めた。
あっという間に拘束され、連れていかれるエドガール。
「なんで私が!」「こんなの可笑しいわ!」などと、喚き散らしながら、引きずられていくアンジーヌ。
途中、エドガールに助けを求めたが、当の本人は目を合わせようとはせず、魂が抜けたような顔で静かに姿を消した。
異様な事態に、静まり返る会場。
そんな空気を脱却するかのように、動いた者がいた。
「この度は、成人を祝うめでたい日のこの場に、私事を挟み込んで申し訳ありませんでした」
凛とした声の主は、ローリジットだった。
深々と頭を下げる姿は、責任感の強い彼女の気質を思わせる。
ローリジットの声に続いて、カサンドラも声を発する。
「王族からのお詫びと、成人のお祝いとして、フラーヌ地方のワインを取り寄せています。料理も、王宮の料理人が作ったものを用意いたしました。今あったことはもう飲んで忘れてくださいな」
最高級ワインの名産地と呼ばれるフラーヌ地方のワインと、国内屈指の料理人が集う王宮の料理。
その言葉に、会場にいる誰もが気分を変え、改めて成人を祝うこの会を楽しもうと思い直した。
「滅多に弱音を吐かないローリィが相談してくれたから、私達も思わず張り切っちゃったわ」
ニコリと優雅に紅茶を飲みながら、言葉を零すカサンドラ。
あの一件から1週間が経った今日は、王宮のサロンでお茶会を催していた。
といっても、参加者は4人の王女と、件の中心となっていたローリジットのみだが。
「カサンドラ様、フレデリカ様、ローズマリー様、ヴァイオレット様、この度は本当にありがとうございました」
「気にするな。エドガールのことを嫌っていたわけではないが、不用意な行動で1人の人生を狂わせてしまうという、責任感のないあの態度が許せなかっただけだ」
ハッキリとした口調で答えるフレデリカ。
今日は騎士団の服装ではなく、彼女に似合うシンプルなデザインのドレスを纏っている。
「私はあんまり目立った活躍してないけどねえ。でも、その後のネズミを洗い出したり、自白させたりは頑張ったよ〜」
カラカラと楽しそうに笑うローズマリー。
当日はそこまで目立っていなかったものの、後日アンジーヌとの関係がある人間を洗い出したり、アンジーヌの家族である子爵一家に自白薬を飲ませ、今後王国を傾けさせる因子が他にいないか調べたりなど、影の部分で一役買った。
「エドガールは自業自得。ローリィにきちんと向き合おうともしなかった。どっかで野垂れ死ねばいい」
淡々と物騒なことを言うヴァイオレット。
エドガールと唯一同腹である分、事実を知った彼女の怒りは相当なものだったことがわかる。
「ローリィとは、姉妹になれるとずっと夢見ていたのに、それが叶わなくなっちゃったのが残念ねえ…」
「…と、いいつつ、お姉様はローリィを自分の補佐として働かせる気ですよね」
「え?」
フレデリカから初めて聞いた話に、驚きを隠せないローリジット。
当のカサンドラは、相変わらずニコニコと笑みを浮かべてお茶を嗜んでいる。
「だって、あと1年もしたら次の代の女王になっちゃうんだもん。私とアルヴィンだけじゃ、国は動かせないわ」
アルヴィンとは、カサンドラの夫である。
隣国の第2王子だったが、意外な事にカサンドラが一目惚れし、その頭脳を以てして外堀を埋めたことで、この国に入婿としてやってきた。
尤も、この2人の相思相愛っぷりは有名なので、なんら問題はないが。
「ま、お父様も、よくぞ思い切ったねえ」
「元々、母様を止められなかったのは父様の責任」
父様も自業自得、と呟いたヴァイオレットは、ゆっくりとお茶を流し込んだ。
後妻であった王妃は、自分の唯一の息子であるエドガールを王にするべく、彼への偏った教育から4人の王女への数々の嫌がらせまで、あらゆる悪事に手を染めていた。
もしかすると、前王妃が儚くなった原因も、現王妃が何か薬を仕込んだのではないかと、ローズマリーとヴァイオレットはそう睨んでいる。
国王は、今回の一件において、エドガールや現王妃を止められなかった責任を感じ、1年後にはカサンドラへと王位を継承すると発表した。
「そういえば、エドガールは必死に頑張っているみたいだな」
フレデリカの部下である、監視役の騎士の話によれば、事件後に北の辺境伯領へ送られたエドガールは、辺境伯の元で毎日必死に働いているらしい。
辺境伯領は作物もあまり育たず、寒さの厳しい環境の地なので、弱音を吐かずにどこまで頑張れるか見ものだとのことだ。
アンジーヌは国家反逆罪で処刑された。
アンジーヌの実家の子爵夫婦は、元々自身の私欲のため、1人娘のアンジーヌに高位の貴族令息を取り込んでくるよう唆していた。
子爵夫婦もアンジーヌと共に処刑された。
「頑張ってるって言っても、性根は変わんないよ。騎士達が絆されないように指導は入れたほうがいいと思うよ〜」
「無論だ。その点については、団長でもあるダニエルと毎晩話をしている」
ダニエルはフレデリカの夫だ。
フレデリカの強さに惚れ、その隣にいたいと功績を上げ、侯爵までのし上がった強者だ。
ダニエルが団長なのは、そののし上がった根性と、上に立つ天性の素質を、フレデリカが見出したからである。
最強夫婦がトップに君臨する王国騎士団には、最早怖いものはないのだ。
ちなみに、ローズマリーは国立薬学研究所の所長と、ヴァイオレットは国立魔法研究所の所長と婚約している。
「…皆様、幸せそうでとっても素敵です。私も、いつか皆様のような幸せを手に入れたいですが…まだしばらくは難しいですね」
「ローリィ…」
悲しそうに笑ういじらしい姿のローリジットを見て、4人の王女は今後もより一層ローリジットを可愛がろうと決意した。
性別が性別なら、今ここで大変な諍いが生まれていたかもしれない。
「とりあえず、せっかくだから、暫くは私の元で働かない?元々、エドガールの妻になる予定だったから、相応の教育を受けてるあなたがいてくれるとありがたいわ」
「そうですね…折角ですから、そのお話、お受けいたします」
「よろしくお願いいたします」と、頭を下げるローリジット。
その言葉に、カサンドラの笑みが柔らかく深まっていった。
まるで、心からの笑顔を浮かべているというように。
「じゃ、時間ができたら、たまにはお茶しましょ。おいしいお菓子を用意してもらうわ」
「ふふっ、楽しみです」
「あ!いいなあ〜!私も誘って〜!」
「カサンドラ姉様、私も」
「あら、勿論よ。ねえ、フレデリカ」
「はあ…警備は多めにつけなきゃいけないな…」
美しい令嬢達の笑い声が、サロンに響き渡った。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!