スタンプ
綿原とは、放課後駅で待ち合わせた。
駅前の喫茶店に入っておしゃべりをする。それだけ。
「普通に放送部の部室で喋ってるのと、あんまり変わらなくない?」
「そうだな」
僕はうなずいた。
でも普段通り喋るだけで時間は過ぎゆく。部活の話、お互いの幼馴染の話。中学の時の話。
そして今はもう、あっという間に暗くなる時期だ。
外を見ると、すでにイルミネーションが光っていた。
「そろそろ行くか」
「そうだね」
外に出ると、イルミネーションがやたら明るかった。
「でも、なんだかんだで、話してて楽しかったな」
「私も」
僕と綿原は気を遣って会話を進めることなく、でもときどき話しながら、イルミネーションの通りを抜けた。
途中で綿原の家の前を通ってから僕は自分の家に向かうつもりだ。
昨日と同じ。
だから僕と綿原は、駅の北側に行った。
「星が綺麗」
綿原は空を見上げていた。
僕も昨日同じことを思ったなあと、空を見上げる。
たしかにイルミネーションも綺麗なのかも知らないけど、ここにきて星を見上げるのが、とても自然な感じがやっぱりした。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。また行こう」
「うん」
綿原の家の前で、僕と綿原は別れた。
家に帰ってスマホを見ると、メッセージが来ていた。
海菜から。
『今日悠太さんが可愛い女の子とお出かけしているのを見てしまいました! 頑張ってください!』
見られてたのかよ……。中途半端に小さいけど人はいる駅って、見つかりがち。
『私恋愛マンガでお勉強してるので、なんでも聞いてください!』
小学生に相談かあ。でも、ほんとに小学生に相談しようと思うくらい、恋愛経験がない。
女子と二人でどこかに行ったのでさえ、波菜以外とは今日が初めてかもしれない。
『まあ……相談するかも』
僕はそう送った。
綿原とは今は親しい部活友達って感じだ。
けど、いつか、誰かに本気で恋することがあれば。
その時は、イルミネーションがやたら明るくて無駄だとは感じないかもしれない。
すごい綺麗で、ロマンチックだと思うかもしれない。
個人的には、その時に、星はもっと綺麗に感じられたらいいなと思う。
そんなことを考えながら、僕は新たなメッセージに気づいた。
綿原からだった。
『今日はありがとう。で、今度の放送劇の台本送るね』
添付ファイルが一件。
ほぼほぼ、いつも通りの放送部員同士のやりとりだ。
僕はそれに安心して、
『ありがと』
と返して添付ファイルを開こうとした。
するとその前に綿原からスタンプが来た。初めてスタンプなんか来た。
すごい可愛いスタンプ使うんだな。なんか真面目であっさりしてるイメージあったけど。
僕は少しだけ笑顔になって、ぴょこぴょこ動いている猫のスタンプを見てから、添付ファイルを開いた。
お読みいただきありがとうございました。迷走してしまった結果予想よりもさらに短めになってしまいました。ごめんなさい。
いつもあっさりしている同じ部活の女の子から可愛いスタンプが送られてきたりしたい人生でした。