帰りの夜空
「外を眺めていたのですか?」
「そう、だな」
僕はうなずきながら考えた。
海菜は、波菜があそこにいたことに気づいたのだろうか。
気づいてなさそうな気もする。
とりあえず会話を進めないとな。
「どうして、電車に?」
僕は尋ねた。
「お買い物、してました」
水色のランドセルを背負った海菜は答えた。
最近の小学生は電車で買い物に行くのか。行動範囲が広いな。
僕は通学路の駄菓子屋にしか行ったことがなかったぞ。
と、感心している僕に、海菜は続けた。
「ほんとはお姉ちゃんと、お買い物に行く予定だったんです」
「波菜と?」
「そうです。でもお姉ちゃんは彼氏とデートに行きました。彼氏も高一らしいです」
行ってましたねえ……。
妹との買い物の約束があるんだったら別の日にしろよデートは。
「……何を買ったの?」
「マンガを買いました。あとポーチを買いました」
「なるほど。マンガか、なんのマンガか興味ある」
「えーと……悠太さん知ってますかね」
海菜はカバンの中からビニールに包まれたマンガを取り出した。
少女マンガっぽかった。知らないやつだったけど面白そうではある。
だいたいのマンガを面白いと思って読めるのが僕の数少ない取り柄だし。
「知らないけど……なんとなくめっちゃ人間関係複雑そうだな」
「そうなんです。すごい複雑です」
海菜はうなずいた。
電車は駅に止まった。
僕と海菜の最寄駅だ。
僕と海菜はホームに降りた。
「もう普通に暗いな」
「ですね。お母さんにはお姉ちゃんと行ってるってことにしてるので、バレたら怒られるかもしれません」
たしかに小学生が一人で歩き回るのにはもう遅い時間だ。
まあ僕が海菜の家の前を通って帰れば、海菜が一人になることはないから大丈夫か。
駅の北口から僕と海菜は改札を出た。
南口はこれまたイルミネーションがやたらあるけど、北口は畑と家しかない。
僕と海菜はそんな道を歩いて、家に向かう。
歩いていると、スマホが鳴った。僕のじゃなくて海菜の。
「あ、もしもし? え、もう駅から家向かってるよ。え、あ、あ、悠太さんと会ってそれで一緒。はいじゃーね」
電話を切ると海菜は少しぷっくりした。
「どうした?」
「お姉ちゃんから電話。一人じゃ危ないから駅で待ち合わせよとか言ってさ。そもそも彼氏とのデート優先してるくせに」
「まあそれはちょっとくせにだな」
「そーですよ。悠太さんからも言ってください」
「まあ……機会があれば」
僕はそう返して空を眺めた。
星が結構見える。
自然のきらきらはいいねえ。イルミネーションみたいにむやみやらたら光ってる気がしない。