家を追放された俺は超絶お金持ち美少女に拾われる
お久しぶりです
「お前をこの家から追放する!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…
おれを追い出したら、家事はどうするんだ?
ご飯だってたまに作るし、洗濯機のボタンは毎日押してるじゃないか!」
「そんなの妹のミオにやらせる」
「お兄ちゃん、自分が家事に貢献してると思ってたんだ…」
こうして俺、黒月カイトは実家を追い出された。
おかしい…心当たりなんて何も思い浮かばない。
やっぱり17歳にもなって日曜朝のアニメ枠を見ていることが原因だろうか…
どうしていきなり、今まで家族で仲良く観ていたじやないか!
妹のミオは俺が自作したアニメの衣装を毎日100着試着して、リアリティを求めた衣装作りに協力してくれた。
父は朝4時に起きて、来る(予定)悪の怪人との戦闘訓練に付き合ってくれた。肋骨が疲労骨折でバキバキに折れても…
俺はミラプリを布教し、自ら体現するために最善の努力を続けている。家族に迷惑などかけていないはずだ。
たとえ誰に反対されようと俺は断固としてミラプリを愛する事をやめない。
家族と別れるのは辛いが、何とか1人で生き抜く。そして、週末の朝、ミラプリをリアタイで視聴する。
まず、第一に電源の確保である。
幸い俺のスマホには民放アプリがあるため、TVが無くても番組を視聴することができる。
スマホの充電は学校でできるな!解決!
第二に住む場所を見つけること。
高校生が夜中に1人でいたら間違いなく補導されてしまう。隠れる場所を見つけなければいけない。
物語だと、運良くお金持ちのお嬢様に拾ってもらう…なんて事、あるけれど。
俺は家から持ち出した最低限の荷物を駅のロッカーに預け、金持ちが集まりそうな(個人の意見)某コーヒー店にやってきた。
作戦はこうだ。
1.お店でそれとなくお金がなくて可哀想なアピールをして、声を掛けてもらう。
2.ご厚意に甘えて家に寄生する。
かなり大雑把な気がするけど、金もツテもない学生の俺が実行するには、シンプルに考えてその方法しか無い。
カウンターでよく分からない名前のメニューを頼み、財布から小銭を探すふりをすること5分…
「すみません、他のお客様がいらっしゃるので…後ろに並んで頂けますか?」
店員のお姉さんが困っている。
「あれれー?300円足りないなぁ!
さっきは入ってたのになあ!」
スタ○の美人店員さんが切羽詰まって涙目になっているが、俺は覚悟で演技を続ける。
生活がかかっているから!
後ろのお客さんの舌打ちが聞こえる。
でもレジの前は譲らない。
「あのー…よろしかったら、私のお金をお使いください…」
お金を出してくれたのは見るからにお金持ちそうな、同い年ぐらいの女の子だった。
救世主の登場とばかりに喜ぶ俺とスタ○の店員さん。無事に会計を終わらせ、お嬢様(仮)と相席に着く。俺にとって、これからが交渉の本番である。
「黒月カイトです。お金を貸していただき、ありがとうございます。必ずお返しさせて頂きます」
「いえいえ、気になさらないでください。あと、かしこまらなくて結構ですよ。」
「じゃあお言葉に甘えて、あー慣れない言葉遣いで疲れた!」
「うふふ」
お嬢様は品のある笑い方で微笑んだ。
それから俺は家を追い出された事を話した。
「まあ、お若いのに大変でしたね。
それでしたら、しばらくの間私の家に来ますか?」
「ありがたき幸せ!」
「じゃあ、早速向かいましょうか。」
…
「り、立派なお家だね!」
「お世辞はいいですよ、私、困っている人を見ると放って置けないんです。」
リムジンが迎えにきたと思ったら、お城のような家に連れて来られた。
これ!これだよ!アニメで良くあるお約束!執事やメイドを生まれて初めて見た。
現在、お嬢様の部屋で休憩している。
「タダで居候するのは悪いから、何か手伝わせてよ」
「優しいんですね、でも今日は大丈夫です。まずはゆっくり座っててください。」
そういうと彼女は立ち上がり、ケトルから高級感溢れるティーポットへお湯を注ぐ。
「いや、お茶まで淹れてもらうのは流石に…」そこまで言って俺も手伝おうとする。
「え、あ、危ないっ!」
立ち上がった弾みで彼女とぶつかり、お茶をこぼしてしまった。
「大丈夫ですか?」
幸い、お湯は彼女でなく俺にかかったようで、彼女は心配して覗き込んで来る。
「全然熱くないし、平気だよ。」
ミラプリではヒロインが熱湯をかけられることが多々あるので、無論俺も熱への耐性は修行で獲得している。
立ち上がって濡れたズボンを拭こうとする。
「たいへん!履き物が汚れてる!」
「このくらい、すぐ乾くから大丈夫だよ。」
「万が一火傷していたら、そのままにしては手遅れになります、失礼ですけど、脱がせますね!」
そう言うが早く、「ちょまっ、」彼女は俺のズボンを下ろそうとして、、、
勢い余って下着までずり下ろした。
俺は、出会って間もないお嬢様の部屋で、変身タクトを晒してしまったのだ。
彼女の顔が股間に近付いていたのと、勢いよくパンツを下ろされた反動で、俺の変身タクトが彼女の頭上に鎮座する。
まるで世界の時が止まったかのように、俺たちは数秒の間、静止した。
その後は彼女の叫び声に集まった使用人に捕まり、本日2度目の家を追い出されることになった。
仕方ないので、最初のプランは諦め、夜間の人の目を掻い潜るため、プランB『学校に潜伏する』ことにした。
濡れたままのズボンを履いて、高校へ向かう。
日曜日なのに大勢の人が出入りしていた。
(対抗戦か何かかな?それにしてはお年寄りが多いような…)
この人だかりがいつ解消するかも分からず、潜伏するのに適さないため、近くの中学校に行くことにした。
その中学には妹のミオが通っている。
中学校の裏には大きな沼がある。
そこに『そいつ』は居た。
『はっはっは!地震を起こしてここに住む人を皆んな家から追い出してやる!
この土地は本日を持って、悪の秘密結社の物だ!」
上半身がナマズの半魚人の様なものが誰に向かっているのかわからないが、叫んでいた。
中学校に近づくにつれて揺れが強くなっている。
高校に集まった人々は、この地区から避難してきたと考えれば、彼が原因で間違いなさそうだ。
歩いて近づいた俺は、沼を囲むフェンスを飛び越え、正面からナマズ怪人と対峙する。
「お前が地震を起こしているのか?」
『そうだ、坊主も逃げたければ逃げるが良い』
「ここは妹の通う学校だ。頼むからやるなら他所でやってくれ。」
『ふん、我に意見する勇気は認めてやる。だが断る!力尽くで追い出してみろ!」
そう言われたので、ナマズ怪人の長いヒゲを掴み、合気道の要領で数度地面に叩きつけた。
痙攣して動かなくなったので、丸めて海の方角へ「えいっ」と投げた。
(魚は海に帰らないとね!あれ、ナマズって淡水魚だっけ…?まあいいか。)
任務でわざわざ陸まで上がって来たのに、俺に海へ追い返されたナマズ怪人。まるで、家を追い出された今朝の俺みたいじゃないか。
「そうか、自分が迷惑じゃないと思っても、他人にとっては迷惑と感じる事かもしれない…。
だから俺は家を追い出されたんだな。」
2度目のハプニングは除いて、だ。
家に帰った俺は、父さんとミオに謝った。そして、自分が間違っていた事を反省し、父さんに説明した。
父さんは快く許してくれた。
ミオにもスタバのお土産を渡したら超喜んでた。
「家を出ていってくれないか…」
翌日、感謝の気持ちを込めて、家中にミラプリ特大ポスターを貼った。
寝ている父さんとミオに気づかれずに、全部の部屋をポスターで埋め尽くすのは戦闘よりも大変だった。
家を出る俺を、ミオが呼び止めた。
「お兄ちゃん、今日友だちが遊びに来るから、ポスター剥がして行って。」
昨日ナマズ怪人を追い返さず、空き家と化した家に住めばよかったと思った。