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(連載版)

短編投稿の設定が難しいので、連載投稿にしました。

更新頻度は今までと変わりませんが、基本1話完結で行けたらと思います。


黒月カイトの朝は早い。

太陽が登るのと同じ時間に目覚め、ミラプリの録画を視聴してから日課をこなす。

黒月家は父ハガネ、妹ミオ、自分の3人世帯である。母は仕事で海外に住んでいる。


「何で朝は老人しかいないんだろ…」

カイトは日課のロードワークの最中、いつも同じような疑問を浮かべる。この街に限ったことではなく、老人は朝が早い。

若者もたまに見かけるが、大半の大人は彼の父の様に日付を超えて帰宅し、出勤時間までの貴重な時間を睡眠に当てているだろう。

カイトはまだ父の苦労を知らないため、休日のトレーニングでも模擬戦やスパーリングの相手を父親にさせていた。

最近は妹のミオが相手を変わってくれることもあり、父への負担は大幅に軽減されたが、妹が生まれるのが後2年遅かったら…


カイトが父の苦労を知るのはまだ先の事である。ロードワークを終えてすぐ、栄養を補給するために某牛丼店へ入った。

「おはようございます。大盛ツユダクひとつ!」

「おっす、カイトくん!

今日も元気だねぇ、サラダはいらんのか?」


高校生なっても野菜は苦手なんだよな。でも、ミラプリのアイちゃんだって、中学2年でほうれん草が食べられない訳だし、むしろ野菜を食べない方がミラプリに近づけるのでは?


「おいおい、育ち盛りが好き嫌いすんな。

俺が出してやるから、ちゃんと食いな。」

「え、でも斎藤さん…」

「食わんとうちの店、出禁にすっぞ。」

「は、はい…。」

店長の斎藤さんは面倒見がよく、俺が毎朝お店に通っていたら向こうから話しかけてきてくれた。


俺という常連が出禁になったら、この店の方が困るんじゃ?と思ったが、俺の健康を気にかけての事なので、素直に野菜を食べる事にしよう。




この店の店長になって3年、カイトくんという少年と知り合った。私が出勤している日は、ほぼ毎日、同じ時間に牛丼を食べにくる。スポーツでもしているようで、今どきの子供にしては珍しく、明るく元気な子だ。

彼がくるとバイトや他の客の雰囲気まで明るくなるような気がして、私達スタッフは毎朝彼がくるのを心待ちにしていた。

今日も彼の来店時間に合わせ、できたての牛丼を提供しようとした矢先、事件は起こった。


早朝で人も少ない店内に、怒声が響いた。

「申し訳ございません、申し訳ございません…。」

スタッフの一人が、見るからに凶暴そうな見た目の男に頭を下げている。

私は鍋の火を止めて、男の前へ進んだ。

「お客様、店長の斎藤でございます。

どうなされましたか?」

「この…セットなんですけど…」

凶暴そうな男は震える声で期間限定のメニュー表を指差した。

「仮面…戦士?」

それは男の子向けヒーローのキャンペーンメニューだった。

「品、切れって、本当、ですか…?」

「こちらのセットは大変好評でして、残念ですが開始初日で終了しました。

よろしければ、販促のポスター差し上げますが、如何でしょう?」

「え……。」

何故不良が朝から牛丼屋で少年向けヒーローのおもちゃを欲しがっているのか見当もつかない。

彼の表情は冷酷な殺人鬼のように冷たくなり、私は殴られる覚悟で目を閉じた。



「そこまでだ。」


「カイトくん?」

「目付きの悪いお前、このお店に手を出す奴は、俺が許さないっ!」

「?」

「斎藤さん、お代は先に置いておきます。

お前、表へ出ろ。」


勇敢な少年の行動によって、この店は救われた。彼は凶暴そうな男の手を取り、体格差があるにも関わらず自分ごと店外へ押し出した。


「ありがとう、カイトくん。」

警報機は店に備えてあるが、実際に鳴らす勇気のあるものはおらず、彼がいなければスタッフの誰かが傷つけられていたかもしれない。


私達は勇敢な少年に感謝するのだった。



人体の重心を一定の力で押すことにより、体重の軽い俺が大柄な男を店内から押し出した。第40話でミライのパパが酔っ払いの外人を店の外に誘導するために使った方法だった。

やはりミラプリは日常生活の色々な場面で役立つ知識を教えてくれる。


「てめぇ、女みたいな細い身体のくせに力はあるんじゃの。」

「おお、よくわかったな。

俺の体重、身長はミラプリブラックの推定体重と同じ50kg、162cm。腕の太さ、腿周り…以下略だ!」

「そのくらいでいい気になるんじゃなかよ。

俺の体重は110kg、身長は205cmで変身後の仮面戦士‘牙‘と同じだ!」

「お前、厳つい見た目の癖に仮面戦士なんてお子様アニメ見てんのかー?ぷーくすくす!」

「ブーメランになっとると、何故気付かん…」



二人が店の外で6時間言い争っている頃、牛丼屋の店内は昼のピークを迎えていた。

「店長ー、あの二人、まだやってますよー。

警察呼ばなくて良いんですか?」

「まてまて、私もさっき様子を見に行ったが、暴力沙汰になるほどの事ではなかった。

それに…」

「「それに…?」」

「あいつらを見てると、若い頃を思い出すんだよ。」


牛丼屋の店員達は、二人の熱い討論に、青春を感じていた。

「あれ、いつの間に空が暗くなったんだ?」


(完食されなかった牛肉たちよ、今こそ闇の力を解放したまえぇぇ)


「うわぁぁー、おれの牛丼の具が、飛んでいく!」

「私の牛肉も吸い込まれてるーー!」


闇のチカラの僕によって、“どんぶり”から手と足の生えた怪人が、店内に出現したのだった。

不運にもレジ打ちのため怪人の近くにいたアルバイトの女子高生が、丼から伸びた手に捕まった。

「はなして、はなしてよぉ!」

「キサマ、ワレノナカマ、ハイキした。」

女の子は手を強く掴まれて、涙を浮かべながらも丼怪人の手を蹴るが、離れる様子はない。

「君、やめなさい。今警報機を押した。

じきに警察が…ぼっ…」

通報した店長の鳩尾に丼怪人のフックが食い込む。


「桃島さんを離せえ!!「ぺちん」うぎゃっ。」

「このやろう「ぼきん」ぐはっ!」

モブ店員達が抵抗を試みるも、丼の焼物の固さに素手では太刀打ちできない。


女子高生の口に怪人は無理やり手を捻じ込み、手の先から液体を流し込んだ。

「オレノツユヲノメェ。サア、サア!」

「んんんん!!んー!ん!」


おそらく怪人はツユダクの牛丼の怨念だったのだろう。ツユダクを頼んだ癖に、丼に残されてしまった汁が、哀しみの連鎖に取り込まれて怪人化したのだ。

その業が深いほど、怪人は大きな恐怖をヒトに与える。


女子高生が汁を飲みきれず、吐き出してしまうと、怪人は激昂した。

「オレノツユヲノメナイトイウノカー!」

ビリビリッ

女子高生はバイト用の前掛を、下に着ていた制服ごと剥ぎ取られてしまった。

「いやーーっ!」

「イヤならノメ!ツユダクのツユをノメ!」



「「いい加減にしろ!!」」

女子高生を拘束していた怪人の手が両断される。

(また邪魔するのか…黒月カイトよ…)

怪人の手が根元から再生する。

カイトは女子高生を庇いつつ、店の奥へ避難させる。


「怪人がこんな事しやがって…

人間なら立派な犯罪です!!」

「ジャマをスルナァアア!」

丼から高速で打ち出されるように伸びた手を、カイトは掌で受け止める。

驚いて固まる怪物の下顎へ、必殺の掌底が入った。


「…ジャマをスルナァ!!」

「やっぱ人外相手だと効きが悪いな。」

それから2-3分の間に何度もカイトが打撃を当てるが、丼怪人は倒れない。


「おい、ちっこいの!」

「てめぇ、危ねえから引っ込んでろって…

「そいつを外に出せ。」

カイトは打ち込みながら数秒考える。

「…やれるのか?」

「てめぇよりはな!」


生意気な男だが、カイトは彼に共感していた。ミラプリと仮面戦士、好きな物が180°違う相手だということしか分からない。だが、この不良が怪人に倒される想像がつかなかった。


丼のパンチを、今度は手首を掴み、伸びた勢いを使って店の外に投げた。

「斎藤さん、ナイス!」

自動ドアは店長の斎藤に開けられており、止める物を失った丼怪人はゴロゴロと外に放り出た。


「店内じゃ、ちーとばかし破片が飛び散るけん。ここなら思いっきり飛ばせるか。」

カイトからは不良が空手の構えをとっている様に見えた。

「ーー破!!」


不良が拳を突き出すと、カイトがどれだけ打ち込んでも破壊できなかった丼怪人の殻が、粉々に砕け散った。




「助けてくれて、ありがとうございました!」

カイトが大丈夫?と声をかけると、アルバイトの女子高生は頬を赤く染めていた。

あまり近くまで寄られると、破れた服の間から下着が見えてしまうので、視線に困る。

「なんやお前、女にモテるんかいな」

不良が茶化す。

「あの、よければ名前と連絡先、教えてください。」

「俺は黒月カイト。怖い目にあったと思うけど、またあんな奴が来たら俺が追い払うからさ、バイト辞めない、でくれる?」

何かを察してチラリと斎藤店長を見ると、感謝の土下座を決めていた。


「よくゆーばい、俺は赤坂士郎。こんな奴より俺の方が頼りになるけん!困った事があったら相談しろや!」

大柄の不良、もとい赤坂くんは近くで見ると中々のワイルド系イケメンだった。体重の割に細マッチョ体型で、声をかけられた女子高生もはいっ!と目をキラキラさせていた。



一件落着したところで、店長が一言。

「黒月くん、赤坂くん、今日は本当にありがとう。これ、無料券だけど良かったら使って。も、もちろん券がなくなっても、いっぱいサービスするから、うちを贔屓にしてね!」

俺と赤坂はやったぜ!と満面の笑みで券を受け取った。


「あ、それからアルバイトちゃん。服が破れて、帰り道大変でしょう。

良かったら、これ、使って。」

そう言って差し出したのは、空の丼2つ。

店長は冗談まじりに、それを自分の胸部にあてて見せた。ボインボインって。



アットホームがウリの店の空気は一気に冷え、その後、店長は禊としてシフトが3倍になったという。



以上

星お願いします!!

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