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ノーフェイス・スラッガー  作者: 遊木昌
5/10

取締の仮面Ⅴ 『道化役者』


 ―思い返せば、可笑しな事が多過ぎて笑えてくる。


 ―何故、もっと早く気が付かなかったのだろう。


 ―何日もの間も連絡も寄越さずに、どこかへ消えていた隊長が不意に帰って来たと思ったら、居なくなるまえより雰囲気が変わっていた事。


 ―普段なら、徹夜している者が溢れる諜報部隊の依頼が日に日に数が減り、本部からの依頼が無くなった事。


 ―情報収集していた仲間の連絡がやたら雑に扱われていた事。


 ―それが、諜報部隊が消える前兆だと知っていれば、もっと早くに手を打っていれば仲間の数人は助けられた。




 真昼は東が淹れてくれたコーヒーを片手に昔について、少し語り合った。

 「まさか、あんたが師匠の実の弟とはねぇ…。それに、後輩ちゃんの上司だとは、世界は狭いな」

 「まったくだ。兄貴の自慢話に出て来たあのガキが、桜隊員だとはな。……兄貴は今でも、桜達弟姉(きょうだい)を探してる。お前の他に、諜報部隊出身のお前を知ってる奴はいるのか?」

 「…まず、親父と母親だな。何より口が硬いし、俺が隠れて反仮面の諜報部隊に入ってたのを見抜いた人達だ。本当に一般人が疑うよ」

 真昼はコーヒーのカップを机に置き、懐にしまっていた端末を東に渡す。

 中には帳簿と顔写真が入っており、今どこで働いているか家族構成などの詳しい情報が詰まっていた。

 その帳簿を数分間見詰めていた東は次第に笑みを浮かべ始める。

 「……なるほど。つまり、桜の設立した『反仮面の舞踏会(マスカレード)』はその名の通り、大半が元反仮面の諜報部隊出身何だな?」

 「まぁ…俺を含めて賢治と京谷は部隊の中で新人だったから先輩達が逃がしてくれた。他の数人も逃げれた人達も、少なからず舞踏会に所属している。あと…姉さんは元からクソ強いから、くたばってはいないだろ。でも、可能なら情報は欲しい」

 真昼は東に目線を送り、それに応えるように東が部屋の扉を少し開け外を確認する。

 周囲に人影が居ない事を確認してから、部屋に鍵を掛け電気を消し、ライトスタンドの明かりを付ける。

 ノートパソコンを起動し、スーツの内ポケットから取り出したメモリーカードをパソコンに差し込む。

 数分間の沈黙が続き、真昼が恐る恐る東のパソコンを覗き込む。

 そこには、数多の写真と様々な資料のデータが現れては消えるを繰り返していた。

 数分後に資料の処理を終えた東が、真昼にパソコンの画面を見せる。

 幾つもの人物が写された写真と、細かな情報が載った資料を順々に目を通す真昼は、次第に頬を吊り上げ始める。


 「なるほど…確かに姉さんだな。それに、姉さんと親しい人じゃねぇとこんなの気付かねぇよ。東は、この情報を誰から仕入れたんだ?」

 「東って……まぁ良いか…。情報屋を頼りたくは無かったが、部下達からは何でも『すぐに情報が手に入って、他と違い細かな情報まで手に入る』って評判の『ピエロ』って情報屋だ」

 「それ……京谷達。元諜報部隊の奴らが作った情報屋だ」

 真昼はその場で頭を抱えてしまう。

 まさか、自分と同じように反仮面の関係を持とうと独自で彼らが動いていたのだから。

 ――考える事は、皆同じ――らしい。


 「桜の言う事が本当なら……これ以上『ピエロ』から情報を仕入れるのは得策じゃ無いな。王の耳に入ったら、俺達25区の反仮面部隊は抹消されるかもしれん」

 「この話は、俺とあんたの二人だけの話にしておこう。もしも万が一にも王の耳に知れたら意味がねぇ」

 真昼は侵入してきた窓枠に、脚を掛け窓から身を乗り出す。

 懐から取り出した葉巻に火を付け、煙を大量に吐き出す東は振り返らずに真昼が去るのをただ静かに待つ。

 東の心には、ただ1つ――昔懐かしき兄の愛弟子との再会を懐かしんでいるのか。

 更なる修羅の道を進む彼らの無事を祈る事しか出来ない立場の自分を憂えているのか。

 それらは、定かではないが東の目に写る真昼の背は過去に自分自身が目標にしていた者と似ている背中をしていた。




 真昼は、反仮面の舞踏会(マスカレード)を率いるリーダーの的存在である。

 しかし、そんな真昼に重くのし掛かる悩みの種が存在していた。


 「だーかーらー、こっちにら情報屋としてのプライドってのがあんだよ。簡単には自分の動きを悟られねぇよ」

 「京谷…別に動くなとは真昼は言って無いだろ? 表だって行動するなってことだよ」

 「何だ? 賢治は俺が王達に見付かるとでも思ってんのか?」

 「違う。あまり大胆に動くと、俺達と反仮面との接点でバレやすくなり…こちらの動きを予測されやすいってことだ!」

 真昼が東の所属している反仮面部隊駐屯所から、アジトへと帰って来た矢先の喧嘩。

 二人は、かれこれ一時間近く同じ内容を同じ様に復唱しているかのように、二人の口喧嘩が一向に終わる気配がしない。


 「真昼さん。そろそろ止めた方が良いのでは?」

 「空もそう思うか? だったら、二人を止める簡単な方法を教えてくれ…」

 真昼はソファーの上で寝転がり、二人の口喧嘩を止める気が無いことを行動で示す。

 ソファーで丸くなる真昼に溜め息を溢しつつ、隣で笑みを浮かべながら二人の喧嘩の一部始終を一生懸命カメラに納めようと奮闘する芽依と、その様子をデジカメに納める姉の麻衣の自由っぷりに再度溜め息を溢す。

 そんな事に成っていると知らずに、アジトの扉を開けた南と隼の二人も賢治と京谷の口喧嘩に苦笑いを浮かべる。

 しかし、思いもよらない人間がその口喧嘩に終止符を付ける。


 「止めねぇか! 先から、ギャアギャア騒ぎやがって…最も冷静になってから話し合え」

 蓮の拳が賢治と京谷の頭蓋骨を揺らす、鈍い音がアジト内で響き渡り二人の意識は蓮の拳1つで薄れていく。

 空と南が意識を失った二人の側へと寄り、芽依と麻衣がアジトを提供してくれたバーの店長から水とタオルを貰うために、バーへの階段を走って登る。

 喧嘩の方は、蓮のお陰で一段落着いたが根本的な所は解決されていない。

 賢治と京谷の二人が意識を取り戻すのを待ち、真昼は根本的な問題解決の為に話し合いを行った。



 「まず、京谷達『ピエロ』はこれまで以上に行動を抑えろ。これは、お前が王に見付かる確率が減る増えるじゃねぇ。王達にお前ら情報屋が嗅ぎ回ってる何て知れたら、それこそ妥当(キング)っていう目的が一瞬で頓挫する。『情報屋としてのプライド』が邪魔してるなら……死ぬぞ?」

 真昼の真剣な表情に京谷は口をへの字に曲げ、不機嫌そうにソファーに座る。

 真昼が賢治に「京谷の言い分も分かる」と話題を京谷の目線で話そうとしたが、賢治は首を横に振る。

 「確かに、俺は京谷の情報屋としての考えを聞いてなかった。常に真昼の背後に立っていた俺だからこそ、真昼の目的に有効な物だけを取り入れていた」

 賢治はソファーにもたれ掛かり、京谷に目線だけ合わせる。

 「信じて良いんだな? ()()()()()()()()()()?」

 賢治は笑みを浮かべ、それに続いて京谷も同様に笑みを浮かべる。

 二人の話に付いて行けなくなった真昼は、勝手に問題を解決した二人を睨む。

 「わーってる。簡単にまとめれば、()()()()()()()()()()んだよ」

 賢治の提案に真昼は、間髪入れずにその提案を却下する。

 「専属に仕立てるって、王達の手の中に入るんだぞ? (キング)なら比較的に諜報は楽だが、それでもレベルが高過ぎる。もしも、専属に密告がバレてもしてみろ…その場に女王(クイーン)が居合わせたら京谷の気配を探知されて逃げ場すら無いんだぞ!」

 真昼は、ソファーから立ち上がり賢治の胸ぐらを掴み上げる。

 だが、賢治は真昼の手を振り払い真昼を納得させる魔法の言葉を溢す。


 「――王の道化師(キング・ピエロ)って……誰か分かるか?」

 「ッ…! 本当…お前らに情報が回るの早いな。どこで知った?」

 賢治と京谷は、真昼がアジトに遅れてきた理由を尋ねると真昼は溜め息を溢し、二人を見詰める。

 「……知ってたんだな。俺が反仮面(ノーフェイス)と関係を持とうとしてたの…」

 「まぁ、元々の計画が反仮面を利用して、同士討ちしている間に王を叩くって戦法だったのを真昼が勝手に変えて、共に協力関係でいるって計画に変わっただけだろ? それを俺だけでも協力しようと思って、情報の提供をして『反仮面の舞踏会(マスカレード)』に貢献してた訳よ」

 京谷は数枚の写真と『ピエロ』の誰かが執筆してレポートを取りだし、真昼はレポートを読み出す。

 そして、ある事に気付き頭を抱える。


 「そうじゃん、京谷って『ピエロ』の人間じゃん。最初っからバレてるじゃん……」

 真昼が姉の情報を知ったのは反仮面の東から、東が真昼の姉の情報を仕入れたのは『ピエロ』であり、京谷が情報提供元。

 真昼が知っている姉の情報を京谷は当然知っており、その出所も当然知っている。

 そして、何故真昼の姉が今回の京谷が王側への潜入を行う上で重要なのかは、真昼の持っていたレポートに隠されていた。

 溜め息を溢しつつ、賢治は昔懐かしき真昼の姉『桜 朝陽(さくら あさひ)』の事を思い出す。

 「何々そのしりょー、エロいやつですか? ならば、拙者にも」

 鼻息を荒くした芽依とその後ろで溜め息を溢す姉の麻衣が階段を降りてきた。

 「話は終わったの? 3人だけの話し合いって大分珍しいよね? 空ちゃん」

 「そうですね。反仮面の舞踏会(マスカレード)が設立されてから、今回で2回目でしたよね?」

 南と空の二人も、芽依と麻衣に続くように階段を降り蓮と隼の姿も見える。

 舞踏会(マスカレード)の言わば幹部職の者達が集まり、真昼達の前に散らかるレポートやつですか?資料を手に取り読み初める。

 そして、そこに書かれていた内容に、約半分の仲間が目を丸くする。

 「…嘘ですよね? …迷信と言わている幻の『(キング)』が実在してて、それが真昼さんのお姉さんだった何て…」

 「本当驚きだよー…麻衣ちゃん。分からないなら、頷かなくても良いんだよ…」

 空と芽依の驚きを理解していない麻衣が合わせるように頷いている。

 「どう言うこと? 全く理解出来無いんだけど」

 「僕もだよ。蓮は分った?」

 「あぁ…意外と有名だったからな、『王の道化師(キング・ピエロ)』って名前は」

 南と隼がこの中で最も話に付いて行けそうにない人だと思っていた蓮が話を理解していた事に驚愕する。

 「意外と…難しい話じゃないとか、この話」

 南が真昼に尋ねると、真昼は少し難しい顔をする。


 「なんだろう…分かりやすくすると、現在の王と女王クラスの仮面能力者は12人存在する。その中で、最も力と兵力を兼ね揃えた二人の王と女王が存在した。まず、王が『王を越えし獅子(キング・レオ)』他者の精神を支配する力を持つ獅子の仮面能力者。んで、の女王が『静かなる黒山羊(キング・カプリコーン)』実物と見間違うほどの幻と視界を奪う力を持つ山羊の仮面能力者。この二人が現王達で最も目を付けられたくない奴らで、京谷はそこに潜入しようとしている。見付かればまず間違いなく京谷は無事じゃない」


 何枚もの写真とレポートを片手に京谷が話に挙げた潜入の件も含めて真昼が話を続ける。

 しかし、その真昼が持つ資料と先ほどの話に挙がっていた京谷の潜入作戦を行う上で重要な物なのか南と隼は頭を悩ませる。

 「そして、この資料にある人物。『桜 朝陽』は俺の実の姉で…資料通りなら、王の情報を手にしようと近付いている」

 その話を受けて、南は何故真昼の姉に当たる朝陽の情報が京谷の作戦で重要視されるのかを理解した。


「危険と隣り合わせの王達の潜入作戦を今なお行っている朝陽さんって何者?」

 「桜朝陽は、俺が諜報部隊に入るきっかけで元々気配を消したり足音を無くすように歩いたり、影を薄くしたりと諜報に待ってこいと言わんばかりの才能を持ってた人だ。尚且つ…諜報活動中に目覚めた仮面能力が王と同等な力を持っていた」

 南と隼は前のめりになって真昼の話に耳を傾ける。

 空や蓮も興味深く真昼の話を聞き入り、真昼は今回の潜入作戦で最低限必要になる()()()()に付いて語る。


 「諜報部隊の第一線で活躍してた姉…『王の道化師(キング・ピエロ)』の専属になった俺のもう1つの仮面能力が…コレだ」 

 真昼が自分の顔の前を軽く扇ぎ、黒色の炎が真昼の顔全体に伸びていき、長く尖った耳には瑠璃色の耳飾り。

 茶髪の髪と真っ黒な仮面には青紫色の模様が入っており、眼球部分は真っ赤に発光している。

 口は頬までつり上がり、歯と言うよりも牙に近い歯が印象的な仮面を真昼は装着する。


 「コレが、姉の専属になった事によって発現した第2の仮面能力だ。そして、それを今から俺経由で京谷と賢治にも渡す」

 つまり、幻と言われていた13人目の王の証明と専属が現れた事を意味していた。



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