取締の仮面Ⅳ 『真昼』
――真昼は今世紀最大のピンチに陥り、とても面倒な事に巻き込まれている。
「昨日起きた。仮面事件に…真昼先輩も関与してますよね?」
どういう訳か、目の前で鬼気迫る後輩女子の玲奈に尋問されている。
私立公明学園に向かうバスを降り、真っ直ぐ自分のクラスへと普段通りに向かう。
真昼のクラス『高等部2年C組』の前に、現在真昼を尋問している『桜華 玲奈』が立っていた。
そこを普段通りに、親しげな友人の様に挨拶した所を掴まれ、一年校舎の階段で尋問されていると言う訳だ。
そして、昨日起きたと言う『事件』に付いて、順を追って話していこう。
「――そして、彼らは歴史的な大偉業を成し遂げた。と言う事です…それでは、質問を受け付けますよ。先生もしっかり予習しましたから、皆さんの疑問思った事は答えられますよ?」
ここ、私立公明学園に通う真昼はあくびを我慢しつつ、窓の景色を眺める。
現在は、4限目の『歴史』である。
真昼達クラスの担任である『鈴崎 未琴』の担当科目に当たり教科書に載っている事をより詳しく説明している。
鈴崎先生の歴史授業は面白く、分かりやすいと評判であった。
新人の教師がここまで、生徒に好かれると言うのは大分珍しい。
高校生ともなれば中学と続き反抗的な態度が目立ち、先生と生徒の対立が頻繁に起こる物だと真昼は思っていた。
ここ公明学園は、そこまで悪い噂も事件も起きていない。
比較的優等生もあまり集まらず、学園の倍率それほど高くない。
長い付き合いの『宮本 賢治』と同じここ公明を進学しないかと言う話になり、進学する。
適当に試験や授業も受け流しつつ、時々サボりや遅刻をしても比較的問題無い学園生活を満喫する計画であった。
しかし、その計画は途端に崩れ落ちていち、その原因として挙げられるのものが1つ存在する。
それは、真昼達と同じく入学した新入生の約半分が優等生ばかりだった事、他の学園では普通な成績の賢治と真昼も、他の生徒を基準に見られ印象は悪かった。
それから一年の月日が立ち、真昼と賢治の二人が仲良く教務室からの放送で呼ばれる事が日常茶飯事になりつつあった。
自称『平和を愛する男』の『桜 真昼』は、争い事が嫌いである。
先々月と続いて起きた『コンテナ格納庫』と『スーパー』での二つの事件に手を突っ込んだのも自分達が反仮面の標的にされると分かっていても助けずにはいられなかった。
正直に言うと、一件目のコンテナは自分達の仲間が回りに居たので、特別自分や仲間が危険人物と見なされる可能性は低い。
しかし、二件目のスーパーは心底判断を誤ったと思った。
しかし、目の前で罪の無い人間が死ぬと言う可能性が捨てきれないと決断したのは誤りではないと思う。
自分が動いたからこそ、その可能性が極めて低くくなったのも事実。
最初に述べた通り、真昼は『平和』を愛している。
その為に、多くの仲間と助け合いながら平和の為ならば、手段を選ばない。
賢治や京谷からは、『矛盾してるよな?』『平和を愛する男って言っときながら、平和の為に争うのか?』
真昼にとって、自分に関係の無い者達が幾ら争おうと全くどうでもいい。
いつしか、その争いが大きく成りそうであれば問答無用で叩き潰せば済む。
――しかし、意図的に争いを生む者達を一番嫌う。
ちょっとしたいざこざでの言い争いや、意見の食い違いから来る喧嘩などは誰かが止めれば自然と止まり、決着も直ぐに着く。
それに比べて、第三者が火種となった争いは落ち着く所か次第に広がり、手が付けられない状態になる。
そして……争い事を片っ端から潰している真昼は、直ぐに調子に乗る人間であった。
朝から、先日の事件に付いて朝のワイドショーや新聞などの一面に飾られている。
そんな記事を見て、京谷と賢治が真昼に冷たい目を向ける。
それは、『スーパーで仮面能力者同士の喧嘩』『王の専属に喧嘩を売った仮面能力者がスーパーを破壊した』との一面であった。
「コレで…俺達は晴れて、王達に楯突いた犯罪者かな?」
「まぁ、子供とか助けたんだ。平和への一歩しょっ?」
賢治と京谷が先日のスーパーでの事件で、真昼とが取った行動によって怪我人は少なく被害も最小限に抑えられた。
だがしかし、後に反仮面に逮捕された能力者が王の専属に当たる者とのけんかいにより、反仮面は男を釈放し。
真昼を『虎の仮面能力者』を王に楯突いたと見なされる結果となる。
しかし、真昼だと判明されておらず、『虎の仮面能力者』と見分けられているのが唯一の救いであった。
真昼達が住む25区は、物流を支える『農民』階級の人達が賑わう場所。
賑わう人だかりの間を抜け、市場の近くにひっそりと存在するバーの看板には『青少年の入店を禁ずる』と大きな文字が書かれている。
しかし、真昼達は関係無しとバーに足を踏み入れ、刺青だらけの無口な店長と天真爛漫な五月蝿い看板娘が案内されるように、地下のアジトへと向かう。
アジトはあまり広くなく、端に置かれているデスクに一人のメガネ少女が棒つきキャンディーをバリバリ食べている。
「…飴ちゃんって、なめながら食べる物だろ?」
「うっせぇ……真昼はいちいち細かい」
少女は椅子の上でクルクル回りながら、ノートパソコンのキーボードを叩く。
丸メガネが特徴の『志垣 芽衣』は真昼達の協力者であり、ネットワークを駆使して真昼達に協力している。
「芽衣は、飴ちゃんの本当の食べ方を知らない。とても、姉として悲しいよ…」
棒つきキャンディーを口にくわえ、芽衣の姉を名乗った『志垣 麻衣』
妹の芽衣とは違って、ネットワークでの協力は妹に任せ力仕事を担っている。
すると、アジトの扉が開き4名の男女がアジトに大量の荷物を抱えて現れる。
「今度は、ジャンケン以外での人選方法を望みます…」
袋の中には、缶ジュースや多くの食材が袋に詰まっていた。
「良かったっすよ。ビニール製の袋だったら、破れて終わりでしたよ。…にししッ」
「3人共。マイバックと言うのを買い物に持って行かないのですか?」
委員長風なオーラを漂わせた真昼と同じ公明学園の制服を着て、髪を後ろにまとめたポニーテールが特徴の女『七条 空』
その隣で七条のマイバック二つを抱え、オールバックの髪型に腰に着いたヒヨコのストラップが特徴の男『柿元 隼』が笑みを浮かべながら、テーブルにバックを置く。
「空ちゃんが買い出しに来てくれてたすかったよー…この二人と私だけだったら……楽しい筈の鍋パーティーが不可思議だらけの闇鍋パーティーに成るところだったよ…」
「何が闇鍋だよ…人の好物入れちゃいけねぇ鍋が悪い」
「どうゆう理屈だよッ!」
二人の男女が言い争いを始める。
女性の方は男よりも背が低いが、公明学園の制服とやや危なく際どい位置を保っているミニスカートが特徴の女『森 南』とサングラスにムキムキな二の腕と着崩した公明学園制服を羽織った男『柏木 蓮』
彼らは4名は、真昼の仲間であり共に平和な世界のために仮面能力を駆使して、目的の邪魔をする者達の排除を手伝って貰っている。
隼と京谷以外の者達は、全員が私立公明学園の生徒であり、中には真昼の先輩や後輩も存在する。
テーブルに置かれたカセットコンロと店長が持ってきてくれた巨大な鍋に先ほど、空や南が中心に買い出ししてきた食材を詰める。
ただ黙々と鍋を見詰める真昼達が、テーブルよ横に置かれている腕時計を恐る恐る確認する。
短針がゆっくりと12時を示すと、空が鍋の蓋を開き部屋中に広がる鍋の香りに全身酔いしれる。
「「「いただきまーすッ!」」」
真昼を後方へ突き飛ばした京谷と賢治が鍋に向かって前のめりになって肉や野菜を喰らう。
それに続いて、蓮と隼が空達の分をよそって渡す。
南と空が鍋を美味しそうに食べ、麻衣と芽衣が鍋の具材を選びながらよそい、姉妹仲良く箸を進める。
女性陣は女性どうしでの会話が弾み、男子達は黙々と鍋を突っつく。
全員が仲良さそうに鍋を囲んでいる所を、1人冷めた目で見詰める者が存在した。
「…俺の分は?」
空しく真昼がお腹に手を当てる。
玲奈が所属する25区の反仮面部隊では、様々な区の隊員が一同に集い。
25区で起きたある事件に付いて、会議が行われていた。
「今週と先週に続いて、25区に大きな反仮面組織が出入りしているとの報告を受けた。そこで、密偵を組織内部に送った所……25区に巨大な『対反仮面』組織が完成間近との報告が深夜2時頃来た。そこで、我々は他区の仲間を集め、区を越えた共同作戦を現時点を持って、開始する!」
10区に構える反仮面本部から、上役が数名この会議に参加し、25区の危険仮面能力者達を一網打尽にせる計画を立てた。
玲奈は心の奥底で、コンテナ格納庫で初めて接触した危険仮面能力者の事を考えていた。
(彼らも、組織の一員なのでしょうか? ……もしも組織の者であれば…私は互角に戦えるのでしょうか)
玲奈は会議後に、ブラックのコーヒーが入ったカップを数分見詰める。
同僚の女性隊員が、コーヒーを見詰め続けている玲奈を心配そうに影から見詰める。
「ねぇ…誰か話し掛けた方が良くない?」
「むりむり、今時の子って何考えてるか分からないし……玲奈ちゃん、相当思い詰めてるよね?」
「慰めようにも、逆効果だったらどうする?」
3人の女性が壁から顔を出して、玲奈の様子を見守る。
そして、数分もの間見詰めていたコーヒーを一口で飲み干し、自分で頼んだ筈のブラックに「コレッ…ブラックじゃん……」と顔をしかめる。
会議後に再度集められた25区の部隊には、情報部隊と密偵の情報通りであれば浮遊している25区を降り目的の地域に、組織のアジトがあるとの報告であった。
しかし、そこは上から見ても、農業を行う為だけの農業地域があるだけであった。
目的の座標に無事着地した玲奈達、25区の部隊は辺りを捜索する。
その周辺地域には、現在『農民』階級の者達が廃材置き場として利用しれている場所が多数存在していた。
機材の修理や害獣対策として、壁や柵に使う事を想定して多く置かれている廃料。
元々どこかの市街地だったそこには、未だ昔の面影を残す幾つもの廃ビルや廃病院などが点在し、その施設を利用している組織の一部がいる。
玲奈の所属する反仮面部隊は、組織攻略の為の足掛かりとして、まず組織に対して発言権などが無いであろう。
小組織を気付かれないように制圧するのが、今回の任務である。
組織の全貌は判明しないが、兵隊の数が予想を遥かに越えているため組織の全貌は予想以上に強大だと判明する。
サイレンサー付きの拳銃を両手で握り、壁を背にしてゆっくりと最初の目的である廃ビルへと向かう。
物静かな階段を足音と気配を出来る限り消し、ゆっくりと一歩一歩進む。
肩に着けた無線機から、別ビルと病院を捜索する部隊の報告を受ける。
『こちら、B地点。異常無し……目標の姿は確認出来ず』
『こちら、A地点。同様に異常と目標の確認出来ず……』
残る玲奈達、C地点の部隊が無線機のマイクを『オン』に切り替え、壁から顔を出す。
目の前で暖を取りながら、数名の若者の姿を確認する。
「こちら…C地点。目標を確認した。数は手前に5…奥に3………更に奥に扉が開いてる為、それ以上の仲間がいる可能性もある」
扉の反対側に瞬時に移動すし突撃する隊員と、別ルートから進行し逃げ道を無くす隊員とで二手に別れる。
玲奈は自分の顔を軽く扇ぎ、狐の面を装着する。
狐の面には紫色の模様が浮かび上がり、腰から2本の尻尾が現れる。
玲奈の後ろで待機していた自分の隊員の顔を突如襲う獣の尻尾に玲奈は顔を赤く染め、女性隊員に頭を下げる。
別部隊からの通信が玲奈達を率いる隊長の無線に入り、ハンドサインで作戦を伝える。
仮面能力者である玲奈を中央に置き、両サイドからゴム弾で目標の足止めと隙を作り。
玲奈が一網打尽で、制圧する作戦で制圧が始まる。
玲奈が扉の先に飛び出し、両サイドから一斉になだれ込んだ隊員達の一斉射撃に犯罪君達はあわてふためく。
玲奈が姿勢を低くしたまま目の前の犯罪者の懐に潜り込み、5本まで増やした狐の尾で目の前の犯罪者を薙ぎ倒し一掃する。
しかし、1人のフードを被った男性が玲奈の尾を片手で受け止め、同じくフードを被り男の背に隠れていた女性がポケットに手を入れて立っていた。
「やっぱり…裏切り者がいたのか」
「どうりで、こんな末端の兵士達を襲う訳だね。あんたら、ウチらを舐めてんの?」
男性が玲奈の尾を片手で掴んだまま離さない。
咄嗟に尾を解除しようとする玲奈だが、ある異変に気付く。
その隙を突かれてしまい、防御する事すら出来ずに女性が懐に潜り込み窓際まで蹴り飛ばす。
窓際に置かれていたゴミや瓦礫に衝撃が吸収されたとは言え、その威力は絶大であった。
能力者は仮面を身に付ける事で、その仮面が持つ『固有』能力とその使用者の持つ『個人』能力の主な2つの力に分けられる。
玲奈が身を持って確信した女性が持つ、能力の1つに玲奈は自身との相性の悪さに舌打ちする。
「……まさか、あんたの能力って遠距離系なの? なら、ゴメーン。私の個人能力って、バリバリの近距離系なのッ!」
フードを被った女性の顔には、赤色の模様が浮かび上がっている豹の面を装着していた。
次の瞬間、玲奈が女から逃げようとその場から走り出すが、玲奈の体はその場で足が動くだけであった。
「……クソッ!」
そして、その場から動けない玲奈の背を女の強烈な横蹴りが襲う。
何とか床を転がり、勢いを殺し壁に激突する事は防いだが背中の激痛に玲奈は苦悶の表情を浮かべる。
「アハハハハハッ――! まさか、理解してない訳無いよね? ウチの能力が『対象の固定』だって気付いてるよね? アハハハハハッ――!」
女はフードを取り、その豹の仮面を隊員や玲奈に見せ付ける。
「ウチの個人能力はさっき言った『対象の固定』で、固有能力は『迅速化』この固有能力がマジで強いんだー…」
女は腰を落とし、玲奈がその場から立ち上がり、広い空間を利用して女から距離を取る。
だが、女の固有能力である『迅速化』はただ速いだけではない。
玲奈が気付いた時には、女は玲奈の背後に回り拳を玲奈の背中に叩き込む。
倒れ込んだ玲奈に追い討ちとばかりに足を降り下ろし、床が砕ける。
間一髪で女の足を躱わした玲奈だが、玲奈の反応速度を上回る速度で再度背後に回る女は、何度も玲奈の背を蹴る。
背後に回る度、攻撃を繰り出す度に女の速度はより俊敏になり、攻撃の鋭さも桁違いの速さと正確さで繰り出される。
玲奈の防弾装備がいつの間にか、切り刻まれ玲奈の背から滑り落ちる。
足や腕から血が流れ、玲奈の視界がボヤける。
背後には、もう1人の男の出す空気の膜のような物を破壊しようと全力で銃のトリガーを引いている仲間の姿が見える。
完全に孤立した玲奈は、逃げ道すら無く加勢に来ようとした別ルートの隊員達も男が貼る空気の膜に邪魔をされて中に入ることすら出来ない。
玲奈は絶体絶命のピンチに陥れられ無惨にもされるがまま、女に殴られている。
窓枠から侵入しようとした隊員達も空気の膜がその一帯を覆い被さり、どこからも侵入を許さない状況であった。
「アハハハハハッ…! ヤベッ…チョー楽しいッ!」
女は玲奈の髪を掴み挙げ、鼻や口から血を流す玲奈の顔に拳を叩き込む。
すると、女の右脇腹と左肩を撃ち抜く銃声に、男と女が目を丸くする。
それもその筈先ほどまで、目の前に倒れていたのは血だらけの非力な女性隊員。
年も自分よりも低い、中学生3年ぐらいの年頃で身長もさほど大きくはない。
しかし、目の前の少女は殺気に満ちた眼力で正面の女を睨み付け、自身の身の丈を遥かに越えるほどの巨大な狐の尾が少女の背後から現れる。
狐の色の七本の尾が、一本一本まるで意志があるかのようにうねり動く。
「ちッ…たかが見てくれが変わっただけで…ウチに勝てると思うなよッ―――!」
女が固有能力である『迅速化』で数秒前よりも速度を上乗せし、既に常人では視界に捕らえる事が不可能な次元に到達する。
そして、個人能力である『対象の固定』を発動させ、玲奈の身動きを止めさせる。
――その直後、女の真横から放たれた強力な殴打に壁に叩き付けられた女が瓦礫から這い出て、口元から流れる血を拭う。
「…なッ……何で…動いてるんだよ。お前は、その場に固定させた筈だろが――ッ!」
女は凄まじい悲鳴に似た声を挙げ、玲奈へと飛びかかる。
そこを、狙っていたかのように玲奈は体を捻り、右足を軸に左足の回し蹴りが女の顔面を襲う。
蹴りの威力によって、空中で半回転する女の顔は流血し装着していた豹の仮面が粉々に砕け、模様と同じ赤色の炎が仮面を包む。
「…邪魔……」
玲奈は朦朧とする意識の中で、硬直する男へと手を伸ばす。
男はフードを取り、装着していた青色の模様が浮かんだ鷲の仮面を取り外す。
「…こ…降参だ…だから、命だけはッ――!」
紫色の模様が浮かんでいた狐の仮面が、次第に模様の範囲が広がり首近くから始まっていた模様が徐々に青紫色へと変化していく。
朦朧としていた一色が途切れ、その場で倒れ込む玲奈を抱き抱えたのは、黄色の模様が浮かび上がった猫の仮面を着けた男が立っていた。
「オイオイ…反仮面に紫級の仮面能力者がいるのは知ってたけど、青紫級に進化するとはな…コレは恩を売っといて得したかな?」
男が発動していた空気の膜が解かれ、部隊隊員がゾロゾロと現れ鷲の男を手錠で拘束すると、直ぐ様玲奈をお姫様抱っこしている男に銃口が向けられる。
その数は数える気すら起きないほどの量が四方八方から向けられ、男の身動きを止める。
「この状況で、手を挙げたら…この女の子が落ちるぜ?」
二人ほど前に現れた女性隊員に玲奈を渡すと、透かさず玲奈が装着していた青紫色に成り掛けていた狐の面を引き剥がす。
引き剥がされた狐の仮面は玲奈の顔から離れた所から、紫色の炎へと変わっていく。
「貴様ッ! 私の大事な隊員に何をしたッ!」
「仮面犯罪者を捕まえる事を目的としている組織『反仮面』仮面関連の専門家なら、仮面の危険性もご存知の筈だが?」
男は猫の仮面を黄色の炎へと変え、その代わりに青紫色の模様をした狐の仮面を装着する。
男が玲奈から剥がした仮面と瓜二つな仮面に、隊員達はたじろぐ。
「貴様…なぜ、一度に2つの仮面を脱着できる。能力者の装着出来る仮面は基本的。1つだけと決まっている筈だ。1つ以上の仮面を身に付けれるのは、王または女王級の仮面能力だけの筈だ!」
隊長と思われる男は、銃口を男の仮面に突き付け更に尋ねる。
「しかし、貴様は…黒でも白でも無い。何者何だ貴様はッ!」
男は隊長の銃口に額を擦り付ける。
「撃ちたきゃ撃ちな。俺…いや。俺達――『反仮面の舞踏会』を敵に回して良いならな」
「何? 『反仮面の舞踏会』だと? 知らんな、何が目的だ!」
隊長突き付けた銃口により、男の仮面が砕かれその素顔が露になる。
「良かった。後輩が起きてると、後々面倒だからな」
隊長の目の前に素顔を晒したのは、桜華から話にあった男子生徒であった。
転入して数日後に起きた、学園に現れた集団仮面者をたった二人で倒したと言っており。
詳しく調べてもただの学生と言う事しか判明しなかった男が目の前に立っている。
黄色の模様の猫と玲奈が装着していた狐の仮面の二種を扱う目の前の青年『桜 真昼』に対して隊長が唾を飲む。
「そんなに緊張しないでくれ、別に不干渉とかが目的じゃない。ただ認めれば良いだけだ」
真昼は一枚の真っ白な名刺を隊長の足下に向けて投げ渡す。
その名刺には文字は書かれておらず、ただ真っ白な名刺中央に右半分が黒色の骸骨と左半分に笑ったピエロの顔がデカデカと記されていた。
隊長が名刺を拾うと、骸骨の眼球が赤く光りを放ち名刺が真っ赤に染まる。
「その名刺に刻まれている番号に電話してくれ、俺達は仲間じゃ無いが…協力関係ではある」
真昼は狐の仮面を再度付け直し、蜃気楼のように真昼の体が歪み始めると瞬く間に姿を消した。
多くの場所で確保された組織の兵隊達は、情報を聞き出す為に数日間掛けての聴取が行われた。
しかし、何十人と確保した者達は兵隊ではあったが、そのほとんどが末端の末端で使える情報など一切手に入らなかった。
「…また、一から組織の情報を集めるのか……」
「弱音は吐くな。それだけで、余計にやる気を失うぞ」
資料のまとめ頼んでいた新人が隊長室から立ち去る。
1人残った隊長室では、パソコンのキーボードを叩きながら、隊員達の数倍働く男がいるのみ。
そして、その後ろの窓を開いてある人物が隊長室に侵入する。
隊長が懐にしまいこんでいたピストルを背後の人影に向けて構える。
そこには、素顔を晒したままの真昼が立っていた。
「不法侵入で…牢に放り込むぞ?」
「出来ねぇ事を言うもんじゃ無いぜ? それに、その気がねぇ事も知ってるぜ。『東 惣一郎』」
「流石は、元反仮面諜報部隊所属の君だな。桜隊員」
真昼は公明学園の制服に身を包んだ服装だが、その懐には小さな拳銃と通信機が見えた。
それら全ては、反仮面の中で最低限支給されているホルスターまでもが真昼の懐に存在した。
「…確か、諜報部隊は抹消された筈だが? 過度な情報捜査と行き過ぎた潜入調査で『王』達の気に触れ、そよ存在を抹消された部隊」
東が拳を固く握り、真昼に目線だけ向ける。
「あんたの思ってる事は大体予想が付く。俺達諜報部隊は、表だって行動する鎮圧部隊とは違って情報を集めたり、暗殺したりと影のお仕事だった」
真昼は窓枠に腰を下ろし、隊長室に飾られた歴代隊長達の写真を見詰める。
それの全てが『遺影』であり、真昼の恩師に当たる写真も飾られている。
「諜報部隊は、いつだって『平和の為に』を心情に働いた。不正を暴き、多くの摘発者や標的を殺してきた。世界の人達が、背後に蠢く影に怯えることなく日の下を歩める様な世界を造るため……なのにさぁ…何で俺達は世界に裏切られたのかな?」
真昼は背中を擦るように流れる風に身を投じる。