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食肉処理場夜警

作者: 目262

 とある食肉処理場に新人の警備員が赴任してきた。迎えたベテラン警備員は彼に警告した。

「いいか、ここは食肉処理場だ。つまり牛や豚といった家畜をと殺して解体する施設だ。だから夜12時になると出るんだよ。覚悟しておけ」

「出るって、幽霊ですか?」

「そうだ。だがただの幽霊じゃない。家畜たちの幽霊だ。それがたくさん出る」

 果たして、夜中の12時になると警備員詰め所の周りには無数の牛や豚が突然出現した。どれも半ば透き通っていて蹄のあたりがぼんやりかすんでいる。新人は驚いて腰を抜かしたがベテランは表情一つ変えずに懐中電灯をつかんだ。

「だから言っただろう。出るって。何の霊感もない俺たちが見えるんだから相当強い霊なんだろう。俺も最初はびっくりしたさ。でも人間に危害は加えないから大丈夫だ。ほら、見回りの時間だぞ。このためにお前もべらぼうな特別手当をもらっているんだ」

 そう言ってベテランは新人を立たせ、見回りに向かった。

 ベテランの後を新人は恐る恐るついて行った。半透明の家畜たちは彼らに見向きもせずに、地面に生えている草を食べるような仕草をしている。その首筋にはどれも血が滴っていた。と殺された時の傷だろう。

 ベテランは自分の前をさえぎる牛にかまわず進んでいった。彼の体は牛の胴体を突き抜ける。

「元々おとなしい家畜だったから、えさを食べるのに夢中なのさ。ここは古い処理場だから幽霊の数は多いが空気みたいなもんだ。それに建物の中には入ってこない」

 ベテランに倣って新人が牛の体を通り抜けた。彼はようやく安堵の溜息を吐いた。

「なるほど、僕たちには関心がないんですね」

 いくつもの牛や豚の体を通過して二人が処理場の建屋に入ると、嘘のように家畜たちの幽霊はいなくなった。自分が殺された場所に入っていきたくないのだろう。警備員たちは清潔に磨かれた床に靴音を響かせて見回りを続けた。ベテランがつぶやく。

「しかし、いくら俺たちが生きていくためとはいえ、他の動物を手にかけるというのは嫌なことだ。あいつらも人間に食われてしまったことを無念に思って出てきているに違いない」

 しばらくの間、施設内を見回ったが何事も起きず、二人は詰め所に戻った。

「どうってことなかっただろう。これで高給いただけるんだから楽な商売さ。お前も気に入っただろう」

 ベテランの言葉に、しかし新人は声を震わせて答えた。その顔は真っ青になっている。

「すいませんが、今日で辞めさせていただきます……」

「何でだ?牛や豚の幽霊がそんなに恐いか?」

「僕、建屋の中で人の幽霊を見たんです……」

「人の幽霊?俺には見えなかったぞ。お前、霊感が強いんだな。どんな幽霊だ」

「戦時中の国民服っていうんですか、あれを着た痩せた男たちでした……」

「この処理場は戦前からあったから、戦争で亡くなった人たちかもな。そりゃ恐かっただろう。でも、俺が一緒についてるから安心しろ」

 しかし、新人は頭を左右に大きく振りながら強く否定した。

「もし、そうじゃなかったら?僕が怖がっているのは、人の幽霊を見たからじゃないんですよ!」

「何だ、一体何に怯えているんだ?」

 新人は外にいる家畜たちの幽霊を指さして叫んだ。

「さっき、言ったじゃないですか。ここの幽霊は人間に食われたことを無念に思って出てきているって。なら、なんで人間の幽霊がいるんですか?僕が見た男たちは皆、首筋から血が流れていました。家畜の食肉処理場で、なんで首筋から血が流れている人間の幽霊が出るんですか!」

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