ゲームスタート
そんな温かい大好きな日常が、緊急用のサイレンによって突然引き裂かれた。
「な、何…?」
_____ザザッ
スピーカーがマイクが入ったことを報せたすぐ後
_____ゲーム、スタートだ。
低い、男の人の声でただ一言。
それだけが告げられた。
「?どういう…」
勇輝の疑問が全て言葉になる前に、白と黒が庭の前をすごいスピードで通り過ぎる。
「っ、なんだ…?」
一樹が確かめるように白と黒の行き先を確認するのを追いかけ私も確認する。
その白黒は吉野おばあちゃんの真後ろで止まって、やっとその姿が確認できた。
「「パンダ…?」」
なんだか拍子抜けして呟いた言葉に私たちの後ろにいた加奈子たちも一目見ようと身を乗り出す。
吉野おばあちゃんはまだ気づいていないようで、なんだか少しだけ胸騒ぎがして声をあげる。
「おばあちゃん、うし、ろ…」
私の言葉がおばあちゃんに届く前。
パンダの右手がまたも素早く動く。
「…え?」
おばあちゃんの首が、おばあちゃんの足元に転がる。
さっき綺麗だと思った着物が赤く染まる。
首が坂を転げ落ちて、体がドシャっという音を立てて倒れる。
全部がスローモーションのようで、上手に息ができない。
ゆっくりパンダが振り返る。
動かなければ。
私の本能がそう警告するのに、体が動かない。
焦る気持ちに荒くなる息。
早く、早く、早く!!
「いやぁぁあぁああ!!」
「っ!」
響き渡る結奈ちゃんの声に、金縛りが解かれたように体が動く。
「澪っ」
「っ、一樹」
とりあえずパンダから離れなければ。
一樹が伸ばす手を掴んで、ただその一心で足を動かす。
それほど走っていないのに体から汗がふき出す。
怖い、怖い、怖い、怖い。
走っている振動とは別に、ガチガチと口が震える。
今私の手を引いて走るこの手の温かさだけが、唯一私が存在していることを証明しているみたいで、縋るようにぎゅっと、強く手を握った。