第八話 チート武器もらった
◇◇◇◇
「ふんふふーん」
「ふんふふーん」
「ふんふんふふんふふーん」
「ふんふんふふんふふーん」
「ふんふん」
「ふんふん」
「ふーんふんふん」
「ふーんふんふん」
「ふふんふふんふんふんふん」
「ふふんふふんふんふんふん」
「やるなぁドライアド。全部ついてこれると思わなかった」
「えへへ、やるでしょう?」
ああああああ!!なんだこの可愛い生き物!!
ドライアドと出会って1日。馬車はまだ森の中を走っている。その間に分かったのだが、ドライアドめちゃくちゃ可愛い。見た目的にも性格的にも。イメージの中では妖精族ってのはプライドが高い種族だと思ってたがそうでもなかった。
「もう少しで森を抜けますね」
「へぇ、やっとか」
思ったよりも広い森だった。ほぼ走りっぱなしで1日以上もかかってしまったのだから。
「私は少し寂しいです……」
ああ、そっか。ドライアドはこの森から出られない。つまりもう少しでドライアドとはお別れだ。あ、俺も寂しいわ。
「こんなに楽しい時間は久しぶりでした」
「まあ、ランベルツ領に帰る時はここを通るんだし、また会えるさ」
「お待ちしてますね」
ドライアドはにっこりと笑った。ま、眩しい。
「あ、あとこれは私からの贈り物です」
そう言って、ドライアドは木製の腕輪を手渡してきた。受け取ったそれは想像以上に軽く、しかしよく視ると魔力が籠っている。俺はそれを左の手首に嵌めた。
「これを持っていて下されば、他の妖精族にも悪いようにはされないはずです」
おお、それはありがたい。これがあれば学園でも妖精族の友達が作れるんじゃないか?
「そして、これも」
ドライアドはどこからともなく一本の刀を取り出した。これは収納魔法だ。 別空間に荷物を保管し、任意のタイミングで取り出せる便利な魔法。
「刀か」
「あら、知っているのですか?これは大変珍しい物なのですが」
前世が日本出身だったからな、刀のことはよく知ってるよ。でも、そうか。この世界では珍しいのか。
「これは遥か昔、異世界より訪れた使者から私が譲り渡された物です。それに、私が長い間力を込めていました。今では神器とほぼ同格と言っても過言ではありません」
……遥か昔ってなんだ?ドライアドって実はめちゃくちゃ年上なのか?それに神器って、作れるもんなの?
「そんな凄いものを、俺なんかに渡してもいいのか?」
「はい、ウィル様がいいのです。なぜか私には確信があります。これはウィル様に渡すべきだと」
「………」
受け取った刀を鞘から抜くと、刀身は真っ白に輝いていた。その神々しさは、刀を握っている俺ですらも寒気を感じる程だ。
「その刀には斬れない物はありません」
斬◯剣かよ。コンニャクは斬れなかったりするのか?
「銘はハク。そのままですが、刀身の白さから取りました」
ハク、か。それにしても、斬れない物はないって随分なチート武器だな。
「ありがとう。本当にありがたいよ」
「それは良かったです」
ほんま、ええ子やで。
「なあ、異世界からの使者ってなんだ?」
さっきの話しの中でも、特にこれが気になった。異世界より訪れた使者。異世界ってのは前世の俺がいた世界なのか、それともまだ別の世界があるのか。
「言葉の通りですよ。魔法、と言うものには無限の可能性があります。出来ないことは無いと言われるほどです。そこで妖精族は昔、召喚魔法を編み出しました。ただの召喚術ではなく、異世界からの召喚術です」
あ、編み出したの妖精族だったのね。だからドライアドは若干誇らしそうな表情を浮かべてるのか。可愛いなぁ。
それにしても、魔法は万能か。良いこと聞いたな。エルドラドはそんなこと教えてくれなかったし。
「ここら辺か」
森の端が見えてきたところで俺は一度馬車を止めた。
「それでは、ここでお別れですね」
「だな。ありがとう。世話になったよ」
「いえ、私こそお世話になりました。また会える日を楽しみにしてますね」
「ああ、俺も楽しみにしてるよ」
1日とちょっとしか一緒にいなかったけど、とても良い時間だった。
◇◇◇◇
旅は順調。街道を走り、たまに屋台に寄って食事を摂る。ご当地グルメ的なものを食べれて中々楽しい。
ドライアドから譲り受けた『ハク』は俺の収納魔法で保管している。少しだけ試し斬りをしてみたが、あれは危険すぎる。岩に触れる程度に当てるだけで真っ二つに割れた時は本気で焦った。あれは切り札になるが、普段から身に付けるべきではないと判断したのだ。こんなものを生み出すなんて、妖精族怖すぎだろ。ドライアドは天使だけど。
それにしても、旅ってのは良いもんだ。ただ中央に向かってるだけなのに既に貴重な経験ができた。思ったよりも平和だし、気が楽だ。
「おい、ガキ。ここを通りたきゃ金目のもん置いていけや」
……そうでもないみたいだ。
「おいおい、どうしただんまりか?痛い目見たくなきゃ大人しく従った方が身のためだぜ?」
馬車の進路を防ぐように立つ3人の男。どうやら、この世界にもカツアゲ文化が存在するらしい。
「はぁ」
俺はため息を吐きつつ馬車を降りた。めんどくさい。が、仕方がない。こいつらには逆に痛い目を見てもらおう。
「お、分かってんじゃねえか。そうそう、大人しくしとけよ?」
なにを勘違いしてるんだか。馬鹿なのか?
とりあえず、1人の男の膝を指差す。そしてゆっくりと横に動かした。同時に、バキリと鈍い音がする。骨が折れた音だ。
「あ?ぎっ、ぎゃああああああああああ!!?」
男が崩れ落ちる。次だ。
「ぅ、うがああああああああああ!!?」
隣にいた男の足を粉々にしてやった。
「なっ、なにしやがったこのガキ!」
まあ、お前らからしたら俺は指を指してるようにしか見えないだろうな。実際、その通りなんだけど。よし、ラスト。
「いっ、ぎいいいいいいいいいいいいいい!!」
この程度か。
とりあえず、3人の四肢を砕いて道の端に捨てて置いた。そのうち役所の人が回収してくれるだろ。
「さて、もう少しで中央だな」
ちょっと緊張してきた。俺、上手く馴染めるかな……。
不安だ。
◇◇◇◇
「……凄え」
中央に着いた。見渡す限り人、人、人。もちろん人間以外の種族もたくさんいる。交通量もさる事ながら、建物が立派だ。建物のほぼ全てが見上げるほど背が高い。
「おい、そこの人間」
「はい?」
中央学園の入り口となる大きな門の前で街を見渡していると、門番らしき獣人に声を掛けられた。犬のような耳が頭についている。軽く感動しながらも、それを押し殺して丁寧に対応することにした。
「お前はここの生徒か?」
「ええ。今年から入学する予定でしたが、少し遅れてしまいました」
「ふん、入学から遅れるなんて良いご身分だな。学生証はあるか?」
嫌味言われたけど反論できねえ。
「学生証です」
素直に学生証を渡すことにした。
「ウィリアム・ランベルツ。ふん、辺境の地の貴族か。その程度のくせに学園に遅れてくるなんて、まさか馬鹿なのか?」
ふんふんうるせえな。それに関してはすいません。
「まあいい、入れ。せいぜい、目をつけられないように過ごすんだな」
おお、案外良い人なのかもしれない。
「ありがとうございます」
さてさて、どんな学園生活が待ってるのかな。