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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
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第七話 中央へ



 





 ◇◇◇◇





「兄様〜!!!」


「おっふ!?」


 エルザがどこからともなく現れて俺に抱きついてきたのは、父と母の抱擁から解放された後だった。


「いっ、いつの間に?」


「兄様が帰ってきた気がしたので!」


 気がした!?なんでそんなの分かんの!?


「兄様兄様ぁ〜」


 エルザは俺の胸元に顔をぐりぐりと擦り付ける。よく見ると目元が濡れている。やっぱり、心配をかけたんだな。


 俺は優しくエルザの頭を撫でた。


「ただいま、エルザ。約束守れなくてごめんな」


「いいんです!兄様が無事ならそれで」


 ……成長したなぁ。エルザももう11歳か。可愛さの中に美しさが出てきてる。将来は確実に母似の美人になるだろな。ただ、その不釣り合いに大きい胸を押し付けるのはやめて欲しい。父の目がちょっと怖い。


「あ〜それでだな、ウィル。感動の再会のあとに言うのもなんだが……」


 父が少し気まずそうに口を開いた。


「なんです?」


「お前、攫われたからどれだけ経ったか細かくは把握しているのか?」


 ……してないな。修行中、日にちを確認することはなかった。


「いえ、してませんが?」


「だろうなぁ。あのな、本当に言いにくいんだが、もう中央学園の入学式まで1週間もないぞ?」


 ……やべえ。


 ランベルツ領は人間族の国であるシーシェルの南端に位置する。中央までは急いで1週間で着くかどうか。と言うか着かない。つまり、俺は入学式に間に合わないのだ。


 ふっ、だからどうした。


「どどどどどどどどどどどうしましょう!?」


 ダメだ、やっぱりテンパるわ。


「落ち着け!少し程度なら遅れても大丈夫だ。領内で一番速い馬を明日出すから、明日までに準備をすればいい」


 忙しい。4年ぶりに帰ってきたのにもう出発か。でも、パピーは偉大だな。普通ならここで俺が中央に行く手段を考える親はそうはいないはずだ。もっと再会を喜んで、もっと一緒にいたいと言うだろう。

 だが、レクト・ランベルツは違った。父は俺が中央に行くための手配をすると言う。それはきっと、俺の想いを理解しているからだろう。偉大だ。偉大すぎる。


「……ありがとうございます」


 だから俺も素直に礼を言う。正直、かなり寂しいが、そうは言ってられない。俺は中央で見聞を広めたいんだ。


 母も頷いている。エルザも泣きそうになりながらも黙っていた。本当に良い家族だ。だからこそ俺も、誤魔化しはしない、


「父上、母上、そしてエルザ。実は俺からも大事な話があります」


「……なんだい?」


 父はあくまで穏やかに聞いた。もしかしたら、俺がなんて言うか分かってるのかもしれない。


「俺は……この領を継ぎません。領主になるつもりはありません。俺は中央学園を卒業したら旅に出たいと思ってます。色々な人と交流して、見聞を広めて、自由に生きたいんです」


「……ウィル」


「兄様……」


 母とエルザは驚いた顔で俺を見ていた。そりゃそうだろう。貴族の長男が領を継がないと言っているのだ。ヘタしたらこのランベルツ領は次の代で終わってしまうかもしれない。


 父はただ目を瞑っている。あくまで穏やかな表情で。


「分かった。許可する」


 そして父はそう答えた。すんなりと、あっさりと。


「その代わり条件がある」


「……なんです?」


 勘当か?それでもおかしくないだろうな。


「たまにはここに帰ってきなさい。ウィルがどれだけ成長しても、俺とオリヴィアの子であることには変わらないからな。やっぱり、心配なんだ」


 ……ダメだ。だから、こういう家族愛的なのには弱いんだよ。ほんとに。

 あ〜あ、ほら、なんか流れてきた。涙なんて流したのはいつぶりだ?


「ウィルの涙なんて凄いレアだな。良い物が見れたよ」


 その父の言葉にまた、涙を流してしまった。俺もまだまだ子供なんだなぁ。





 ◇◇◇◇





「ウィル。お前がこの領を継がないことは理解したが、それでも周りからは貴族として見られる。体裁をお前に押し付けるのはあまり気が進まないが、それでもある程度の自覚は持って欲しい」


「分かってますよ」


 翌日。俺が中央に出発する日。俺は既に荷物を馬車に詰め込み、従者が座る席に俺が座っている。中央には一人で行くからだ。当然みんなには反対されたが、そこは押し切った。自惚れかもしれないが、俺はエルドラドの元で修行したんだ。むしろ一人のほうが安全だ。


「あと、当たり前だが中央には他種族が多くいる。ウィルも国際情勢を理解しているだろうから、気を付けてくれ。あの学園での問題は基本的には自国には持ち込まれないが、例外もある。上位貴族が通っていることもあるからな」


「分かりました」


「ウィル。気を付けてね。何かあったらすぐに帰ってくるのよ?定期的に手紙を送ってね」


「ええ、それも分かってますよ。だからそんなに心配しないでください」


 母の心配のしようが凄い。こっちが心配になるレベルだ。


「兄様……」


 エルザがまた泣きそうになりながら俺の足元に寄ってきた。ほんと、勘弁して欲しい。エルザにこんな表情されるとちょっとだけ決心が揺らぐ。


 俺はまたエルザの頭を撫でた。


「じゃ、行ってきます」


 昨夜、家族とはたくさん話をした。だからもう多くは話さなくていい。


 俺は手を振る家族と屋敷の使用人達、そして領民のみんなに見送られながら馬を走らせた。





 ◇◇◇◇





「ふんふふーん」


 風が気持ち良い。この馬は本当に足が速いみたいだ。まあ、俺の方が数倍は速いけど。ぶっちゃけ俺が本気で走ったら1日ちょっとで中央に着くんだよな〜。まあ、もう遅れる覚悟は決めたからいいや。


 腹減ってきたな。


「……あ」


 しまった。俺、料理できねえ。保存食で食いつなぐか。


「それにしても、この森広いなぁ〜」


 背の高い木々が立ち並び、木が密集しているにも関わらず太陽の光が差し込んでいる。そのため森の中は明るくて景色が綺麗だ。


「いいな、この森」


「そうですか?」


「ああ。凄くいい」


「具体的にはどのようなところが?」


「森の中なのに光が差し込んでて、なんか神秘的なところかな……っておおい!!誰だ!?」


 いつの間にか、一人の女が隣に座っていた。全く気付かなかった。


「あら、失礼していますね」


 嘘だろ?この俺が全く気付かなかったぞ?


「私はこの森の妖精、ドライアド。あなた様が随分と気持ち良さそうにこの森を走っているので、つい出てきてしまいました」


「……まさか、妖精族の方ですか?」


「ええ」


 妖精族は全種族の中で最も数が少ない。その妖精族に出会えるなんて奇跡みたいなもんだ。

 って言うかこの妖精、めちゃくちゃ美人だな。薄緑色の髪の毛がこの森によく映えてる。心臓がドキドキしちゃうよ。


「私に敬語は不要ですよ?それより、あなた様のお名前を聞いても?」


「え、あ、ああ。俺はウィリアム・ランベルツ。ウィルでいい。それで……ドライアド、さん?様?はこの森に住んでるのか?」


「私のことはドライアドでよろしいですよ。それでウィル様は今からどこへ?」


「中央学園に入学するんだよ。っても、今からじゃちょっと遅れるんだけどな」


「いいのですか?」


「うん。もういいかなって。遅れるって言っても1日か2日だろうし、走ったら間に合うけど疲れるしな」


「……自分で走ったら間に合うのですか?」


「ああ。こう見えて、意外とできるんだよ俺」


「見下す訳ではないですが、人間族にそんなことができるとは到底思えません。それこそ、エルドラド・ジニーウォークスとかではないと」


「あ〜俺、一応エルドラドの弟子なんだよ。強制的に弟子にならされなんだけどな」


「まあ、なるほど。それならウィル様が言っていることも嘘ではないのでしょうね」


 ……凄いなエルドラド。妖精族にも知られてるのか。まあ、当たり前か。


「私達妖精族は基本的に神聖な土地に住み着きます。私の場合はこの森ですね。だから、ウィル様がこの森を抜けるまでは一緒にいてもいいですか?」


「断る理由はないな」


 こうして珍しい客を迎えた馬車は、光を浴びながらガタガタと森を走っていった。







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