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転生した世界で  作者: 剣玉
第三章 帝国動乱篇
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第五十話 最善手



 




 ◇◇◇◇





「おお、ウィル。昨日はなんで帰ってこなかったんだ?」


「あ〜………。ちょっと地下で迷ってな」


 ティグの最もな問いに、少しだけ淀んでから答えた。


 俺が『影の猟犬(アンダーウォーカー)』のアジトに戻ったのは翌日の昼だった。もちろん、迷ってなんていない。ただ歩き回って自分を落ち着けていただけだ。


「ガキかよ」


「うるせぇ」


 ハイルにすぐ言い返したが、よく考えれば今の俺は14歳。ガキで間違いない。


「昨日は大変だったんだよ?第一軍隊の詰め所が何者かに破壊されて、(かしら)もそれで忙しいみたい」


「……何者か、か」


 どういう事だ?なぜ俺だとバレていない?ランドルフは全てを知っているはずだ。あいつが証言をすれば、誰もがそれを信じる。

 なのに、なんで黙っているんだ?


 詰め所を破壊したのが俺だとは思っていないのか?

 いや、それはないか。ランドルフの目の前で魔法を使ったんだ。分からない訳がない。


 俺が消えることで何か不具合が起きる?もしそうだとしても、それによるメリットが分からない。

 現状だけを見れば、ランドルフは自ら後手に回った。ここで俺がランドルフを告発すれば、少なくとも捜査の手は入る。

 その前にあいつは俺を消すべきだ。


 ……いや、俺がこの事を告発出来ないと見透かしたのか?まさか……。


 俺は、この件に関して誰にも報告するつもりはない。

 強いて言うなら、皇帝ぐらいだろう。それも、黙秘を約束させてから。


 ランドルフは、ルチアの父親。親子としての関わりがなくても、血の繋がった唯一の肉親。

 ルチアは、あいつは、ランドルフと親子として接したいと思っている。否定していたが、あの時の顔は忘れない。


 それを知っている俺が、どうして真実を話せる?ランドルフが宝玉を盗み出した犯人と知れば、ルチアはきっとあいつと対峙する。

 そんな事、させるわけにはいかない。全部俺の手で決着をつける。あとでルチアに恨まれるのは当たり前だ。どんな罰も甘んじて受け入れる。

 それでも今は、誰にも譲れない。


 親を親として頼れない孤独は、俺もよく知っているから。


「それで、第一軍隊の出陣は先延ばしになったらしい」


 ロイドが続けた言葉に、俺は思考の海から回帰する。まさか、最初からそれが狙いだったのか?

 出陣が先延ばしになれば、ランドルフはこのアランブルクで宝玉を使った"何か"を続けることができる。……くそっ、全然分かんねぇ!

 だが、あいつはまだアランブルクのどこかにいる。それだけは分かった。


「おい、ウィル?大丈夫か?」


「ん、ああ。大丈夫だ」


 レイに手を振り、今後どう展開していくか考える。まずは各々の特技だな。


「なぁ?お前らはそれぞれ何が得意なんだ?」


「今更だな。一応、私らにも二つ名はあるんだぜ?私は『飛影(とかげ)』。影から影に移動したり、影を操れたりする。まぁ、夜なら誰にも負ける気はしないな」


 ハイルが答えた。チートじゃねえか。


「俺は『怪力』。そのままの意味だ。全力を出せば、一撃でアランブルクを半壊させれる。反動で数日は動けないがな」


 ティグが答えた。チートじゃねえか。


「僕は『水帝』。水ならどんなようにも操れる。もちろん、人体の水分もね」


 ロイドが答えた。チートじゃねえか。


「俺は『守人』。俺の盾魔法はどんな攻撃も防げるぜ」


 レイが答えた。チートじゃねえか。


「まぁ、俺の怪力ならレイの盾も壊せるけどな」


「ああ?やんのか?」


「おお?やるか?」


 ティグとレイがまた喧嘩を始めた。無視だ。


 それにしても、思ったよりも優秀だな。その気になれば全員、『帝国序列』に入れるんじゃないのか?っていうか、入れるだろ。


 ティグの怪力は、シンプルだがその分強力だ。俺なら本気でやれば一撃でアランブルクを全壊させられるが、その反動は数日動けないどころじゃない。下手したら死ぬ。


 ロイドの能力も厄介だ。人体の水分まで操られたら、俺も含めて生物なら致命傷は必至だ。だがこれは、少し参考になるな。


 凄いのはハイルとレイだ。ハイルの影を操る能力は、本人も言っていたが夜になれば無敵だ。

 それこそ、エルドラドとかの化け物でも相手でない限り。あとは相手が光魔法の使い手でもない限り、か。


 それに、レイの言っていた盾魔法。これは超希少な魔法だ。防御魔法の一つ上に位置する高位魔法。

 これを使えるのなんて、ほんの一握りだ。人間で限定すればレイだけなんじゃないか?


 ティグとロイドのは特技。だが、ハイルとレイのは固有能力だ。


 俺がどれだけ頑張っても"影"という概念には干渉出来ないし、防御魔法を盾魔法に昇華することも出来ない。

 これらは全て、先天的な能力による。より正確に言えば、親のどちらかが使えることが前提になる、遺伝的なもの。

 たまに、本当にたまにだが後天的に覚醒することもあるが。


 ……これ、俺対四人なら負けるかもな。


 ちなみにだが、俺にも固有の能力はある。転移魔法だ。これはその、稀な後天的な能力になる。

 多分、エルドラドに(しご)かれすぎて覚醒したのだろう。あいつから逃げたいと思う気持ちが強すぎて、転移魔法が使えるようになったに違いない。

 それでも逃げれなかったけど。


 この右腕の『赤紋』もそれに近いだろうが、これは外的要因によるものなので固有能力とは言えない。

 しかも正確に言うならば、これは魔法ではなく呪いだ。そもそもの種類が違う。


「ハイル。お前の能力で例の空間は探れないのか?」


「もうやった」


 そう言って、ハイルは大きな地図を取り出した。本当に大きい。大人が五人は横になれそうだ。しかも、それが数枚。


「これは帝国の地下の地図だ。先に結論から言うと、私の能力でも空間の正確な場所は分からなかった」


「そうか……。正確な?」


「そう。代わりに、だいたいの場所は探れた」


 ハイルはそう言って赤いペンを取り出し、地図に丸を描いた。その数、五個。


「この五つの場所で、変な違和感を覚えた。それ以上のことは私には分からなかったけど、ここに何かがあるのは確かなはずだ」


 五ヶ所もあるのか。だが、宝玉は一つ。恐らくこの中の四ヶ所はダミーだ。いや、もしくは全てか?


「分かった、助かる。俺は明日この五ヶ所を探ってみるから、お前らはまた引き続き調査を頼む」


 この中のどこかに、少なくとも手掛かりはあるはずだ。


「おいおい、何言ってるんだ?」


 ティグが首を傾げる。俺も首を傾げた。何がだ?


「五ヶ所あるんだろ?俺らもちょうど五人。それぞれ一ヶ所ずつ回れば効率良いじゃねえか」


「ダメだ。俺が一人で行く」


「あ?なんでだよ?」


 もしもこいつらが回った場所にランドルフがいれば、ほぼ確実に殺される。もしも殺されなければ、情報がルチアに漏れる。どっちもダメだ。


「………」


 だが、それは言えない。俺は黙ることしか出来なかった。


「なんだ?まさか、俺たちが信用できないのか?」


「違う」


 ティグにすぐ言い返すが、その先が続かない。どうすればいい?真実を話すか?

 だが、こいつらが忠誠を誓うのはルチアだ。隠すなんて不可能に近い。


 ……いや、ルチアに忠誠を誓うからこそ、ルチアのために隠すか?俺が全てを話せば、こいつらはルチアのために俺に従うか?


 分からない。俺はどうすればいい?どうすれば間違えない?


「……はぁ。分かったよ。各々で一ヶ所ずつ担当しよう。もし、何かを見つけても無理はしないようにな」


「何仕切ってんだよ」


 ハイルは文句を言ってきたが、結局頷いた。なんだこいつ。あれか?ツンデレか?なかなかデレてくれないけど。





 ◇◇◇◇





「よく考えたら、あいつらは謎の空間を見つけられるのか?」


 ハイルが影を渡り歩いて探しても、空間の曖昧な場所しか分からなかったんだ。

 それを、一人で見つけ出せるのか?


「あいつら馬鹿なのか?いや、それに気付かなかったっていう点では俺も同類か」


 俺はカツカツと音を響かせながら歩く。だだっ広い、真っ白な空間を。


「ここまでの規模の空間を隠せるなんて、相手はかなりの使い手。だよな?」


 俺は目の前にいる男に聞いてみた。だが、答えてくれない。


「そうもそうか」


 金髪の男。それなりの相手だろう。


「ほんと、帝国の地下って広いのな。地図があったのに迷ったよ。まぁ、この空間自体はすぐに見つけたゆだが」


「………」


「それで?お前は第一軍隊のどのポジションなんだ?ランドルフはどこにいる?」


「……第一軍隊、参謀。隊長の居場所は私達にも知らされていない」


「あっそ」


 嘘かどうかは、こいつをぶっ飛ばしてから聞けばいい。第一軍隊の参謀か。ぼちぼち、かな。


 俺は今まで、どこか驕っていたのだろう。エルドラドの元で修行した事で、自分は周りの奴らよりも強いのだと。

 俺自身は自分を強いとも弱いとも思ってなかったが、無意識に驕っていたに違いない。


 実際、俺はそこらの奴らよりも強い。だが、それは俺が本気で戦った場合の話だ。油断せずに戦った場合の話だ。


 俺は確かに、常に本気で戦うことができない。自分の体の成長が、自分の力に追いついていないからだ。

 それでも、それと油断するしないは話が別だ。油断せずに戦って、その中で見極めて多少無理をして全力を出す。

 それが、恐らく今の俺のベストだ。


 ウッドフォードと戦った時も、ランドルフと戦った時も、油断していたと言い訳はしない。

 だがそれでも、もっと最善があったはずだ。俺はそれをせずに、悔しがるだけ悔しがっていた。

 馬鹿そのものじゃねえか。


「……悪いが、すぐに終わらせてもらうぞ」


 俺は首の骨を鳴らし、指の骨も鳴らす。とりあえず、こいつはすぐに終わらせよう。


 俺は右腕の赤紋に力を流し込んだ。







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