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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
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第四話 意外と強かった







 ◇◇◇◇





「さて、じゃあやるよ?」


 ギルはそう言って、短めの剣を縦に振った。いや、正確に言えば振った後に理解したのだが、とにかくギルは剣を縦に振った。


 そして、それだけでは終わらなかった。


 剣を振ったことに気付かなかったのは早かったからではない。強い閃光が走ったからだ。そしてその閃光は徐々に消え、残ったのは真っ二つに裂けた大木だった。まるでそれが当たり前かのように、巨大な木はそのど真ん中に割れ目を作っていたのだ。


「お……お前……!」


「ふふん、なんだい?」


 ギルは得意げな表情でこちらを見ている。褒めて欲しいのか?


「お前!うちの領の自然を破壊するんじゃねえ!!」


「ええ!そっち!?」


 ああ、違ったか。びっくりし過ぎて反応を間違えた。気を取り直して、テイク2。


「お前!実は強かったりするのか!?」


「そう!僕も実は強かったりするんだよ!って言いたいんだけど、実際これぐらいは当たり前って感じなんだ。多分、君の両親もこれぐらい余裕で出来ると思うよ?」


「当たり前……?」


 これが?嘘だろ?


「僕みたいな旅人には常に危険が伴う。多少は戦えないとすぐに死んじゃうからね」


 ギルはそう言って剣を鞘に納めた。


「ウィル。君に足りないのは経験だ。経験が圧倒的に足りない。経験っていうのは聞くことじゃないよ?自分の目で見て、心で感じることだ」


 いつになく真剣な目で、ギルは俺の目を見た。まるで心を見透かすような目に、無意識に息を呑む。


「だからウィル。君が本当にこの世界を知りたいなら、いつか旅をするといい」


「俺が旅を?」


「そうさ。中央のでかい学校に通いたいって言っていただろ?あそこは良いところだ。多種族の生徒がいるからね。だからあそこに通って卒業して、そしたら世界中を旅するんだ」


 いやいや、確かにこの世界について知りたいって言ったけど、別に旅してまで知ろうとは思わない。世界を知るのはあくまで過程であって、ある程度幸せな人生を送れたらそれでいいんだから。


「旅はいいぞ!たくさんの出会いがあるんだ!嫌な奴もいるけど、それ以上に良い出会いがたくさんあるんだ!新しい発見もあるし、なにより自由だ!自由なことに時間を使えるし、自分の人生がより満たされるんだ!」


 ……うず。


「中央学園は5年制だ!卒業時は17歳。それまで知識を、力を蓄えて旅に出るんだ!どうだ?楽しそうだろ?」


 ……うずうず。


「君はきっと大きな存在になる。根拠はないけれど、なぜかそんな予感がするんだ」


 ……大きくはなれなくていいけど、でも旅か。なんか楽しそうだな。て言うか、めちゃくちゃ楽しそうだな。


「……まだ決めたわけじゃないけど、まあ、気が向いたらいつか旅に出てみるよ。そこで見聞を広めて自分を見つめ直して、良い人生を謳歌したい」


「はは、ウィルはまだ7歳だってのに、もう人生について考えてるのか?」


 ギルはどこか嬉しそうに笑って俺の頭を撫でた。俺が旅をするのがそんなに嬉しいのか?まだ確定じゃないぞ?


 結局、ギルは何が嬉しかったのか分からなかったが、その次の週に彼は再び旅に出てしまった。案外、あっさりとした別れだった。





 ◇◇◇◇





「兄様〜!兄様はいつか、学校に行ってしまうのですか?」


 ギルがランベルツ領を去ってからしばらくしたある日、妹であるエルザが俺の部屋に突撃してきた。黒を基調としたゴスロリのような衣服がよく似合ってる。可愛いなぁ。


「ああ、12歳になったらだけどな。中央の学園に通わせてもらうことになってるよ」


 中央とは文字通り、この世界のど真ん中に位置する地だ。"国"ではない。この世界には様々な人種が存在する。種族同士は必ずしも仲が良いと言うわけではなく、戦争中の種族だってある。そんな殺伐とした国間の対立関係も、無条件で一時停戦を強いられる場所がある。それが中央だ。


 これは昔、どこかの誰かさんが世界平和を願って作ったらしく、その勇敢な姿と崇高な思想を讃えてこのルールが作られたらしい。そこに、全種族が集まる中央学園があるのだ。見聞を広めるためにも、是非その学園に行きたい。既に父と母には話を通しており、許可も貰っている。あとは時が来るのを待つだけだ。


「うう〜そんなぁ」


 なっ!エルザが涙目になってる!?


「嫌です兄様ぁ!兄様と別れたくありません!」


 やっぱり中央学園行くのやめちゃおっかなぁ!!


 っと、ダメだダメだ。これも全ては将来のため。俺は今度の人生こそ、少しでも幸せにしたいんだ。すまない、エルザよ。


「エルザ。俺にはな、目標があるんだよ。あまり詳しくは話せないけど、もう後悔はしたくないんだ。だから俺は行くよ」


 とは言っても、まだ数年はここにいるけどな。


「ぐすっ、じゃあエルザも一緒に行きます!」


 おお、そうきたか。そりゃあ俺も一緒に行けるもんなら行きたいけどさ、年齢が違うからなぁ。


「エルザは俺より1歳年下だろ?一緒には行けないよ」


「なら年齢詐称でゴリ押しです!」


「おい!どこでそんな言葉覚えたんだ!?」


 年齢詐称って、こっちの世界にもそんな言葉あるのか。そこにびっくりだよ。


「エルザだって1年遅れで通わせてもらえばいいだろ?」


「そうですが……エルザは兄様と違って優秀ではないので……」


 さっきまで行く気満々だったのに、もう弱気なのか?って言うか、エルザは充分賢いと思うけどな。


「別に大丈夫だよ。なんなら俺が教えてやってもいい」


「お願いします!」


 おおう、凄い食いつきだな。可愛い奴め。


「じゃあまずは父上と母上に頼みに行くか。エルザも中央学園に通えるように」


「はいっ!」


 エルザは俺の腕にしがみつくと嬉しそうに返事をした。可愛いなぁ。





 ◇◇◇◇





 結論から言うと、交渉は一瞬で終わった。エルザが頼んでからコンマ1秒も経つ前に許可が出たのだ。まあ、分かってたことだけどな。俺とエルザを溺愛している父と母が断るわけがない。


 そしてこの日から、俺は本を読んだり、ギルから聞いて得た知識をエルザにも教え始めた。やはりエルザは賢い。俺が教えたことをすぐに覚えてしまう。ぶっちゃけ、俺よりも賢い。


 今、俺は7歳。もうすぐで8歳になる。中央に行くまではあと4年だ。この時間は約束通り、エルザに使おう。


 そう、思っていた。







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