表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した世界で  作者: 剣玉
第三章 帝国動乱篇
47/61

第四十六話 ちょっと迷った



 




 ◇◇◇◇





「君、私の婿になるか?」


「……へ?」


 静まり返った広間に、俺の間抜けな声が響く。


 婿?つまり、皇帝の旦那?なんだ?どういうことだ?今、俺はプロポーズされたのか?


 いやいや、揶揄ってるだけだろ。うん。


「へ、へへへ陛下、お戯れを。俺なんかと……いや違うな。僕?私?如きが陛下と釣り合うはずがありません」


 あ、ダメだ。やっぱ俺動揺してるわ。


「ふふ、そんな事はない。たった今見せた通り君は強いし、それに顔立ちも悪くない。それどころか実に私好みだ。どうだ?本当に私のものになってみないか?」


「えーっと……」


 仮に、皇帝のこの誘いが本気だとしよう。もちろん、それでも俺は断る。だが、問題は断っていいのか、という事だ。


 俺が断った瞬間、


『この無礼者!!』


 とか言って叩っ斬られるかもしれない。どうしよう。まぁ、ここまでの流れを見る限り、多少の無礼は許されそうな気もするけど。


 俺は改めて皇帝を見る。すらりとした長身、眩しい程の金色の長髪、そして、それこそルチアにも引けを取らない美貌。しかも、身体のメリハリも非常に素晴らしい。身体のラインを主張するような真っ赤なドレスがよく似合っている。


 おっと、見惚れてしまった。俺今、皇帝と結婚も悪くないとか思ったな。とりあえず、この場は断らなければ。


「その申し出は大変魅力的ですが、僕はそれに応えることができません」


「そうか。ふむ、突然のことでもあったしな。まぁいい。だがその気になれば、いつでも声をかけてくれ」


「ありがとうございます」


 なんとかこの場は凌げたみたいだ。


「っ!?」


 と思ったが、そう簡単にはいかないらしい。俺は突然向けられた殺気に反応し、咄嗟に顔を逸らした。さっきまでとは違う、本気の回避だ。しかしそれでも、頰から血が垂れた。


 襲撃者は俺の顔を目掛けた上段の蹴りを放った。俺は左腕でガードしたが、勢いを受け止めきることが出来ず、地面を転がされる。思ったよりも衝撃は強く、俺の体はすぐに壁まで到達した。それを、体を回すことで衝撃を消し、そのまま壁を駆け上がる。足裏に魔力を集めて壁に吸着し、地面に平行な状態のまま襲撃者を視界に入れた。


 果たして、襲撃者は俺の知っている人物だった。ボサボサの黒髪、死人のように冷たく濁った目。『帝国序列一位』ランドルフ・クレムハートだ。その手には、俺の頰を裂いた細剣が握られている。


「……不意打ちのつもりだったんだがな」


「ええ、死ぬかと思いました」


 俺は頰の血を拭いながら答える。俺はこの二年で、リミッターを常に70パーセントまで緩めることが出来るようになった。つまり、今まで以上に身体は鍛えられているのだ。それでも自分の全力には耐えられないが、これも大きな成長だろう。


 その70パーセントの状態で、俺は本気で回避した。それなのに避けきれなかった。


「久しいな、ウィリアム・ランベルツ」


「ええ、二年ぶりですね」


「やはり、お前は実力を隠していたのか」


「やっぱり、バレてました?」


「まぁ、あくまで推測だったがな」


 未だに剣を握る男と、壁に立ったまま話す少年。さぞや奇妙な光景だろう。俺もそう思う。


「不意打ちを仕掛けたことは謝ろう。この件、半端な実力者では務まらないからな。試させてもらった」


 ランドルフはそう言って、剣を鞘に収めた。無駄のない、流れるような手際だった。


「だが……正直、想像以上だ。ウィリアム・ランドルフ。どうだ?良かったら俺の部隊に入らないか?」


 その誘いに、またも広間は静まり返る。当然だろう。中央の人間を、この帝国最強の第一軍隊に誘ったのだから。


「申し訳ないですが、それも断らせてもらいます。ここにはあくまで、依頼で訪れただけですから」


 俺は地面に降り立って答える。俺の答えに少し不満気な奴もいるが、無視だ。知ったことではない。


「そうか。残念だ」


 ……全然残念そうじゃないんだけど。


「ウィリアム。これを」


 皇帝が指を鳴らすと、帝国の軍服を持った兵士が寄ってきた。どうやら、この国にいる間はこれを着ていて欲しいらしい。確かに、騎士団のローブは目立つ。俺は素直に軍服を受け取っておいた。


「遅れたが、私の名前はネロ・ローレン。まあ、好きに呼んでくれていい」


 いやいや、好きに呼べるわけないだろ。


「本題に入ろう」


 皇帝はそう言い、ドレスの裾を直しながら玉座に座った。俺はその間に指を鳴らす。刹那、俺を囲むように暴風が渦を巻いた。周りから俺の姿が見えなくなる。俺はその隙に軍服に着替えた。やっぱり、こんな場所て着替える瞬間を見られるのは恥ずかしいしな。


「ふふ、よく似合っているぞ。ますます君が欲しくなった」


 ほんとに、そんなに直球で褒められるとまじで照れるんだけど。勘弁してくれ。


「少し前、この国に伝わる"宝玉"が盗まれた」


「宝玉?」


「ああ。アレはこの国の動力になっていてな、あらゆる機関はその宝玉の力を源に稼働している」


 そう言えばと、俺はふと天井を見上げる。この広間には電球に似たようなものが光源として置かれている。この世界には電力という概念はないし、どうやって使ってるのか疑問だったがそういうことか。


「今はまだ、宝玉の力が余力として残っている。だが、それもじきになくなる。そうすれば、帝国は終わりだ」


 終わり。皇帝はそう断言した。そこまで重要な物なのか。


「帝国はな、地下空間が際限なく広がっている。そこには化け物も飼っているのだがな、それさえも宝玉の力で制御していた。あの化け物共が解き放たれれば、この国はすぐに蹂躙されるだろう。壊滅とまではいかないだろうがな。だが、産業は機能しなくなり、化け物に国は荒らされる。この、リグゼルと戦争中の時期にだ。結果的に帝国が滅びるのは確実だろう」


 まあ、確かに。


「その宝玉は、どこに保管されていたのですか?」


「悪いが、それは言えない。それを知っているのは歴代の皇帝と、それを守る指名を背負っている歴代の『帝国序列一位』だけだ。つまり、今代は私とランドルフだけになる」


 ふむふむ、なるほど。


「盗まれたことにはすぐに気付けた。そういうシステムになっているからだ。だから、すぐにアランブルクの通行を規制した。外に出さず、外から入れないために。故に恐らく、下手人はまだこのアランブルクにいる。君にはその捜索を頼みたい」


 その程度のことで、俺を呼んだのか……?いや、違うか。帝国は今、戦争中だ。捜索に回せる人員が足りないのだろう。それに、皇帝と『帝国序列一位』しか保管場所を知らない宝玉を盗み出し、更には未だに逃亡を続けている。かなりの手練れの可能性もあるし、この国の関係者の可能性も高い。


「今のところ、容疑者は一人もいない。一人もだ。言ってしまえば、捜査はまったく進んでいないな」


 ……ん?容疑者が一人もいない?


「君の身柄はルチアに預ける形とする」


 皇帝の言葉に、広間がざわめき出した。……まぁ、ルチアを狙ってる連中からすれば不服なんだろうな。視線でなんとなく分かる。


「『帝国序列三位』のルチア・クレムハートだ。彼女は頼りになる。連携して捜索に当たってくれ」


 帝国序列三位!?てか、クレムハート!?まさか、ランドルフの娘か?


 俺がルチアの方を振り返ると、彼女はなぜか視線を逸らした。なんでだ?


 次にランドルフを見る。しかし、彼は無関心な表情を貫いていた。少し腹が立った。だがまぁ、俺は部外者だしな。黙っていよう。


「では、失礼します」


 俺は皇帝に頭を下げ、そして周りのギャラリー共にも頭を下げた。そう言えばこいつら、俺にナイフを投げてきたんだった。皇帝の指示だったんだろうし、ナイフは全て収納魔法で我が物にしたから別にいいのだが、やはり多少は腹が立つ。


「ウィリアム・ランベルツ」


 玉座に背を向けた時、皇帝から声をかけられた。俺は振り返る。


「君の好きなようにすればいい」


「………」


 その言葉の意味は分からない。とにかく俺は、皇帝に無言で頭を下げた。


「行こう」


 そして俺はルチアに声をかけ、様々な視線を全て無視して広間を出た。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ