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転生した世界で  作者: 剣玉
第二章 お前は俺で
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第三十九話 疑念



 




 ◆◆◆◆





「ふざけるなっ!!」


 広い部屋に、激昂したサムの声が響き渡る。俺はそれを黙って見ていた。


 ついさっき、トラブルがあったらしいとここに集められた俺達に伝えられたのは、蓮と葵の死。突然現れた黒い"ナニカ"に襲われ、殺されたらしい。従者はそこから命からがら逃げ出してきた。


 それを聞いたサムは激怒した。なぜ、二人を見捨てたのか。なぜ、二人を連れて逃げなかったのか。あの二人は勇者の力があるとは言え、戦闘訓練を受けていない素人。そんな二人に戦わせるなんておかしい、と。


 それに対する従者の言い訳は分かりやすかった。見捨ててなんていない。二人が勝手に戦って、勝手に死んだ。自分は悪くない。


 それを聞いたサムは更に怒鳴った。


 俺は……うん、落ち着けてる。話を聞いた時はブチ切れて従者を殺したい衝動に駆られたが、サムが怒ってくれたおかげで冷静になれた。いや、冷静でいられるように努めている。少しでも気を抜けば、俺は従者を殺してしまうかもしれない。


 俺は周りを見る。他の国の連中は悲しそうな表情を浮かべている。リリィは静かに目を瞑っていた。悼んでいるのか?ベルクは力無く座り込み、頭を抱えている。花畑を勧めた自分を責めているのだろう。


 俺は頭を回転させる。今するべき事を考えるために。


 サムがついに腰の剣に手をかけた。俺はサムの腕を掴み、それを止める。


「ナギト……!」


「そこまでだ、サム」


「っ、お前は!何とも思わないのか!?あいつらは元の世界に帰りたがってたんだぞ!なのに!こんな事で帰れなくなって!」


「落ち着け。……俺が本当に、何とも思ってないと思うのか?」


 サムは俺の顔を見てハッとする。ああ、やっぱりひどい顔をしてるのか。


「……悪い」


「いや、お前は正しい。ただ、今はまだ何が事実か分からない。全ては、それを明らかにしてからだ」


 俺は従者を睨みつける。従者は怯えたように、体を震わせた。


「そうね、ナギトの言う通りよ。少し落ち着きましょう」


「ああ、一度俺達だけで話し合おう」


 その場はそれで解散となった。その後、勇者(俺達)はサムの部屋に集まった。





 ◆◆◆◆





「さっきは助かった。あのままじゃ、俺はあいつを……」


「いや、むしろ礼を言いたい。お前が怒ってくれなかったら、俺は冷静になれなかった」


「それは皮肉ってるのか?」


「かもな」


 俺とサムは軽口を交わす。しかし、その表情は暗い。


「あいつら……本当に死んじまったのかな?」


「どうなんでしょうね」


「……俺は、まだそれは断言出来ないと思う」


 俺の言葉に、サムとリリィはこっちを見る。俺は続けた。


「よく考えれば、この状況は少しおかしい。従者(あいつ)は蓮と葵が勝手に戦ったと言ってたが、あの二人が本当にそんな事をすると思うか?特に、蓮なんかは逃げる事を提案するはずだ」


「戦わざるを得ない状況だったんじゃないの?」


「あの従者の馬車を見たか?あいつは慌てていたが、馬車には傷一つなかった」


「なるほど……」


 リリィが少し考え込む。


「でもよ、アオイが戦ったらレンも戦うんじゃないのか?あいつは確かに臆病だったけど、やる時はやる男だと思ったぜ?俺は」


 今度はサムが尋ねる。意外と蓮を高く評価していたらしい。それに関しては同感だ。だが、


「葵の最優先は蓮だ。それは分かるだろ?」


「ああ、だろうな」


「もしも葵が戦うなら、それは蓮がピンチになった時だろう」


「その蓮がピンチってことは、あの従者も、少なくとも馬車ごとピンチって事か」


「そういうことだ。もちろん、これはただの推測に過ぎない。ただ、さっきサムも言っていただろ?あいつらは勇者の力はあるが、戦闘訓練は受けてないって。逆に、勇者の力はあるんだ。その二人が、馬車が逃げ切れる程度の敵から逃げれないと思うか?」


「確かに」


 勇者の力を持つ俺達だからこそ分かる。それは有り得ない。つまり、なにか不測の事態が起こったのだ。それとも、あの従者が何か隠しているのか。


「気付くのが遅れたが、最初からこの国はおかしかったんだ。俺達を召喚したのは帝国からの協力要請があったからだと言っていたが、本当にそうなのか?この国の軍事力が本当に低いとして、帝国はそんな国に協力を要請するのか?」


 そう、その前提からおかしかった。俺達が召喚された理由。俺達が召喚されて、既に一月以上が経つ。まだ一ヶ月だが、それでもどの兵士よりも強い。なのに、参戦する指示はでない。本当にここにいるのが王国の全兵力か?本当は別にあるんじゃないのか?


「とにかく、この国は俺達に何かを隠してる。それは確かだ」


 俺は断言した。この国は、俺達を何かに利用しようとしている。


「納得したわ。確かに、私達は何かに利用されるかもしれないし、もしかしたら既に利用されてるかもしれない」


 リリィが呟き、その目に冷たさを宿した。


「殺す?」


「誰を?」


「組織を潰すには、頭を消すのが一番効率が良いわ」


 考え方が怖いな。


「私なら、絶対にバレずに殺せるわよ」


「……随分自信があるんだな」


「ええ。私、あの世界では殺し屋をしてたもの。暗殺専門の」


 リリィがウインクする。言ってることは物騒だが、召喚なんてものがあり得たんだ。嘘とは思えない。


「確かに、リリィって気配を消すのが一番上手いよな」


 サムの呟きに、内心同意する。確かに、リリィは身のこなしが元から超越していた。それも勇者の力の影響かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


「でも、やめておいた方がいい。確証もないのに、一国の王を殺してどうする?リリィとはバレなくても、俺達が疑われるのは確実だぞ?」


 証拠がなくても、動機があるのは俺達だけだ。


「……そうね。じゃあ、どうするつもり?」


「泣き寝入りするつもりじゃないだろうな?」


 リリィとサムが俺を見る。なんで今後の方針を俺に聞く流れになってるんだよ。


「そんなわけないだろ」


 考えろ。王国の本当の狙いを暴き、そしてそれを完膚なきまでに潰せる方法を。


 蓮と葵の消息をはっきりさせるのは必須だ。もちろん、あの従者が言っていることが本当の可能性もある。だが、証拠もなしに信じてやる義理はない。


 王国の狙いは、多分そう簡単には知れない。一国の秘密だからな。だから、俺達のことを信用させる必要がある。じっくりと、時間をかけて。じわじわと根を張って、いつか真実を暴けばいい。


 あとは、力だ。真実を知った時、全てをぶっ壊すための力。今の力では全然足りない。もっと強くなる必要がある。


「……しばらくは、今まで通りに過ごす。少しでも強くなるために鍛錬をする。信用させるために従順になる。いつか、全てを知る時のために」


 今は耐え時だ。耐えて耐えて、いつか反逆の狼煙を上げるんだ。そして俺達を利用しようとした事を、心の底から後悔させてやる。


 俺は、コキリと首を鳴らした。






あと一話でこの章は終わりです!


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