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転生した世界で  作者: 剣玉
第二章 お前は俺で
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第三十六話 恐怖



 




 ◆◆◆◆





「お二人って、本当に仲が良いですよね?」


 ベルクさんが唐突に言ってきた。


「一応、幼馴染ですから」


「なるほど、昔からの仲というわけですか」


「はい!」


 ベルクさんに葵が嬉しそうに答える。僕はそのやり取りを、ぼんやりと眺めていた。


 既に、この世界に来て一月が経っている。僕は相変わらず何もせずにダラダラしていた。流石に、罪悪感を覚える。でも、望んでもないのに勝手に召喚されたんだ。これぐらい許してもらってもいいだろう。


「そんなお二人に、これをあげましょう!」


 ベルクさんがくれたのは、腕輪型の魔道具。お互いの位置や状況がある程度分かるらしい。正直、いらない。


「わぁ!ありがとう!ベルクさん!」


 しかし葵は過剰に喜んだ。いらないとは言えない雰囲気だ。とりあえず僕は、その場に合わせて礼を言った。こんなの、いつ使うんだよ。

 

「今日は僕は用事があるんで一緒には行けませんが、今日は少し遠くまで出てみてはいかがですか?本当に綺麗な花畑があるんですよ」


「花畑かぁ。ちょっと見てみたいかも。ね、蓮」


「いや、僕は別に……」


「え〜行こうよ〜」


 結局、僕が折れたことは言うまでもない。





 ◆◆◆◆





「あ、ベルクだっけ?」


「ええ、そうですよ。覚えていて下さって光栄です、ナギト様」


 俺の呼びかけに、ベルクは過剰気味に反応する。ここの連中は皆らこんな反応だ。正直、居心地は良くない。それでも俺達のために色々としてくれているのは分かるから、文句を言ったりはしないけどな。


「蓮と葵は?今日は見てないんだが」


「あのお二人なら、馬車に乗って少し離れにある花畑を見に行きましたよ。僕は仕事があって行けなかったんですが、ナギト様も行ってみますか?」


「ん〜花畑か。俺は別にいいや」


 俺とベルクは並んで歩く。庭園に差し掛かった。綺麗な庭だ。


「ここの庭も充分綺麗だと思うけどな」


 幻想的な、そんな雰囲気を感じる。嫌いじゃない。少なくとも、あの世界(地球)では何かに対してこんな感情を抱くことはなかっただろう。


「……ん?」


 蠢く白い何かが視界の端に入った。俺はそこへ近付く。そこには、小さな白い生き物がいた。これまた小さい羽を生やしている。


「こいつは……?」


 俺がその生物に近付くと、そいつはビクリと体を震わせた。……ちょっと可愛い。


「ナ、ナギト様!それからお離れ下さい!」


 ベルクが急に慌て出した。何にそんな怯えているんだか。


「そいつは龍種の子供です!しかも、上位種の白龍ホワイトドラゴン!」


 龍種。確か、この世界の最強生物だっけか?


「そんな危険には見えないけどな。まだ子供だし。ほら、こっち来いよ」


 俺が手招きをすると、龍種の子はよちよちと歩いてきた。これはやばい。可愛すぎる。そして元まで来ると、差し出した手に頬擦りをしてきた。


「……決めた」


「え?」


「俺、こいつ、飼う」


 もうダメだ。俺、ハートを掴まれちゃったよ。


「……信じられない。子供とは言え、龍種を手懐けてしまうなんて……!これが、勇者……?」


「いやいや、大したことないって。ほら、ベルク。お前もこっち来てみろよ」


 俺はベルクを強引に近づけ、龍種の子を抱き上げて近付けてみた。ベルクは恐る恐る手を伸ばす。そして、少しだけ触れた。


「凄い、初めて龍種に触った!」


 ベルクは何やらテンションが上がり始めた。一人で賑やかな奴だなぁ。


 さて、飼うからには名前を付けないといけない。とは言っても、こいつの名前は付けやすそうだな。真っ白だし……ハク?


「いや、シロだな。お前は今日からシロだ」


 ちょっとそのまま過ぎるかな?でも、悪くないだろう。変に捻った名前を付けるよりかは、こいつも幸せなはずだ。多分。きっと。


「キュイ!」


 おお、鳴いた!めちゃくちゃ可愛い!


「それにしてもナギト様。本当にその龍の子を飼うんですか?」


「シロ」


「え?」


「龍の子じゃなくて、シロ」


「……その、シロを飼うんですか?」


「ああ。飼うよ。俺が責任を持って育てる」


「……分かりました。ですが、恐らくこの事は秘密にしておいた方がいいでしょう。まだ子供とは言え、危険種であることに変わりはないので」


「はいはい」


 危険種、ねぇ。こんなちっこいのが、ほんとに危ないのか?


「シロは危なくなんてないよな?」


「キュイ!」


 シロはよじよじと俺の体を登って、頭の上に乗った。俺が勇者の力を持っているからか、重さはほとんど感じない。


「……勇者、か」


 何一つ叶えられなかった俺が、最終的に勇者に就職。国を守るために戦うのか。


 はは、笑えねぇ。





 ◆◆◆◆





「……葵。あれって、何?」


 僕達が乗っている馬車の前に、黒い"ナニカ"が立っていた。人のような形をしているソレは、僕達の方を見て微動だにしない。


「なんだろ……?魔物?」


 葵はそう言い、託されていた一本の剣を握った。


「………、……め、……のため」


 御者台に座っている従者さんが、何やらブツブツと呟いている。どこか、様子がおかしい。怯えているのか?


「引き返しましょう、従者さん。なにか、嫌な予感がします」


 これは、恐怖だ。言葉に出来ない恐怖。体の底から湧いてくるような、そんな恐怖。


「従者さん?」


 従者さんは何も答えない。ただ、ブツブツと何かを呟いているだけだ。


「あ……」


「え?」


「ああああああああああ!!!」


「うわっ!」


「きゃっ!」


 従者さんは奇声をあげ、僕と葵を馬車から突き飛ばした。突然のことに、反応出来ない。そして、従者さんは馬を走らせ、全力で逃げて行った。


「……え?」


 え?なにが起きたんだ?なんで?なんで置いて行かれたんだ?


「れ、蓮……」


「ーーーーーーー!!」


 葵が僕に呼びかけた時、黒い"ナニカ"が悍ましい叫び声をあげた。まるで、この瞬間を待っていたかのように。咄嗟に耳を塞ぐ。それなのに、叫び声ははっきりと聞こえた。


「なんだよ!なんだよ!なんなんだよ!?」


 怖い。訳が分からない。どうしてこうなった?


 ベルクさんに花畑を勧められた。葵に行こうと押し切られた。馬車で目的地に向かった。そして、コレに出会った。


 なんで従者さんは僕達を突き飛ばしたんだ?自分が逃げるための囮?……いや、


『……王国のため』


 従者さんは何かに怯えながら、そう呟いていた。王国のため?なにが?なにが王国のためなんだ?


「蓮っ!!」


 葵の声に、ハッとする。いつの間にか、黒いナニカは僕の眼前まで迫っていた。そして、輪郭もあやふやなその腕を振り下ろす。僕はただ、それを見ているだけだった。


「っ!」


「葵!?」


 その腕は僕に届かなかった。僕を庇う形で飛び出した葵が、握り締めた剣で受け止めたからだ。


「はぁっ!」


 葵はナニカの腕を弾き、胴を袈裟懸けに斬る。ナニカは叫びながら、少し距離をとった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 既に葵は息を荒げている。怖いんだろう。僕もそうだ。


 女の子だけに戦わせて良いのか?良いわけがない。ましてや、葵だ。葵だけに、戦わせるわけにはいかない。


 怖い。でも、戦え、僕。戦え。戦え。戦え。戦え!


「蓮!逃げて!」


 葵のその声を聞いた僕は、剣を握りーー





 敵に背を向けて、全力で逃げ出した。







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