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転生した世界で  作者: 剣玉
第二章 お前は俺で
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第三十五話 方針



 




 ◆◆◆◆





「はぁぁぁぁぁ」


 僕は割り当てられた部屋にあったベッドに倒れ込んだ。疲れた。異常に疲れた。


「……帰りたい」


 今すぐに。でも、それは叶わない。


「……ん?」


 扉がノックされた。もう夕食の準備が出来たのか?


「蓮?」


「ああ、葵か」


 僕は扉を開き、訪ねてきた葵を部屋に入れようとした。だが、


「あ、違うの。なんか、リリィさんがみんなを呼んできてって。今後の方針を固めましょうって言ってた」


 なるほど、僕達だけでの話し合いか。それはありがたいかもしれない。


 僕は葵について行き、リリィさんの部屋へと入る。そこには既に、凪斗さんとサムさんもいた。


「突然悪いわね。呼び出しちゃったりして。でも、今後どうするか。話し合っておいた方がいいと思ったの。合わせるにせよ、合わせないにせよ」


 なるほど。確かにそうかもしれない。やっぱりリリィさんは落ち着いてるなぁ。


「俺は協力するつもりだ」


 凪斗さんが躊躇うことなく答えた。考えていたのかな?


「おいおい、正気か?あんた、あの話を信じるって?」


 サムさんがすぐに噛み付く。


「確かに力は強くなってるけど、そんなの薬やらなんやらかもしれないだろう?俺達が騙されてる可能性もまだゼロじゃないんだぞ?」


「確かにそうだが、ここが元の世界ではないというのは嘘じゃない」


「はぁ?根拠はあんのか?」


「言語だ。俺と蓮、葵は日本人だ。だが、サムとリリィは明らかに違う。なのに、言葉は通じてる。最初はお前らが日本語を喋っているのかと思ったが、口の動きを見る限りは違う。どうだ?サム。お前には俺の言葉が母国語で届いているんじゃないか?」


「確かに、そうねぇ。私もそこに関しては嘘ではないと思うわ。でも、だからって協力する必要はないんじゃないかしら?」


「そうか?」


「ええ。元の世界に帰りたいなら、無駄に命を危険に晒さなくてもいいと思うんだけど」


「元の世界に帰りたいなんて、全く思っていない」


「……なるほど。あなたも(・・・・)ワケありなのね」


「別に、大したもんじゃないけどな」


 そんな会話を聞きながら、僕はどうするかずっと考えていた。あまりに急な出来事過ぎて、頭の中がごちゃごちゃだ。


「俺は元の世界に未練はない。だからこの世界で生きていってもいい。だが、あのじいさんの話を聞いた感じだと、この世界はある程度強くないと生きづらそうだ。なら、せっかくの力を活かさない手はない」


 凪斗さんの話は筋が通ってる。前提として、元の世界に帰らないのなら。……いや、帰るためにも、生き残る必要がある、か。


「あまり暴力は好きじゃないが、仕方ない」


「なら、私も凪斗について行こうかしら。凪斗と同じで、あの世界には大した未練はないし」


「は?いや、なんで俺について来るんだよ?」


「冷たい男はモテないわよ?」


「……勝手にしろ」


 凪斗さんとリリィさんの方針は固まったらしい。僕は……どうしよう?


「俺も、そうする」


 サムさんが答えた。ため息を吐きながら。


「僕は……やめときます。僕は早く帰りたい。帰らないといけない。母さんが待ってるんです。だから僕は……帰る手段が手に入るまで、待ちます」


「そう……そうね。それも一つの選択だと思うわ。葵、あなたは?」


「私は蓮について行きます。蓮を一人には出来ませんから」


 即答!?……いや、一人は怖いし安心するけど。


「じゃあ、それを明日あのじいさんに伝えよう。恐らく、あまり良い顔はしないだろうが、お前たちは気にするなよ?」


 凪斗さんの言葉に、頷く。当たり前だ。力を貸してもらうつもりで召喚した勇者が、こんな腰抜けだったら。


「勇者様方、夕食の準備が出来ました」


 そこで使いの人が来た。僕たちは一度だけ顔を見合わせて、再び広間へ向かった。





 ◆◆◆◆





「……そうですか、レン様とアオイ様は戦わない、と」


「はい」


 翌日、僕たちは王様にそれぞれの方針を伝えた。そして案の定、僕と葵の答えに少し顔を顰めた。周囲にいるお偉いさん達は、もっと露骨に態度を出しているが。


「はっ、臆病者め」


「腰抜けが」


 などと聞こえてくる。確かにそれは事実だ。でも、葵は違う。葵は僕に合わせてくれただけだ。


 そう、反論したかった。でも、僕如きがそんな事を言い返せる訳がない。そんな勇気なんて、ない。


「残念ですが、仕方ありません。勇者様方にとっても突然の召喚ですし、いきなり戦えと言われても困るでしょう。またいつか、お気持ちが変われば言ってください」


 と、王様はそう言って凪斗さん達と今後の予定を話し始めた。僕はただ、俯いて黙っているだけだった。


「蓮、大丈夫だよ。私はちゃんと分かってるから」


 そんな僕に、葵は言う。分かってる?何を?僕ですら自分が分からないのに、葵に何が分かるんだよ。


「……ありがとう」


 そんな事、言えるはずもない。とりあえず僕は、無難に礼を言っておいた。


 その後の事は、とんとん拍子に決まった。凪斗さん達には教官役として王国軍の隊長さんが紹介され、僕と葵には世話係としてベルクさんが紹介された。


 凪斗さん、リリィさん、サムさんはすぐに訓練へ向かい、僕たちは一応この世界についての勉強を始めた。特にやることもないから。そうやって、時間はあっという間に過ぎていく。


「レン様!アオイ様!今日は何をしましょうか!」


 ベルクさんは僕たちより少し年上で、とても優しい。いつまニコニコしていて、戦う事を拒んだ僕たちによく気を使ってくれる。この王宮では既に僕と葵の評判は悪く、そういった文句もちょこちょこ聞こえてくる。それでもベルクさんは気にせず、いつも通り接してくれるのだ。本当にありがたい。


「リリィさん達の訓練を見てみない?」


 葵の提案に賛成し、僕たちは闘技場へ向かう。そこで見たのは、圧倒的な力を見せる三人の勇者だった。無数の兵士を相手に、次々と組手を行なっていく凪斗さんとリリィさん。そして木剣を握り、相手を次々と倒していくサムさん。


「まさか、ここまでとは。流石に予想外でした」


 ベルクさんは言う。勇者には特別な力が与えられているとは言え、言わば素人。日々鍛えている兵士には敵わないと考えていたらしい。なのにいざ見てみると、結果は勇者の圧勝。


「……これがチートってやつだね」


 葵が呟くが、まったくもってその通りだと思う。これじゃあ、今まで頑張ってきた兵士がかわいそうだ。そう思うのは僕だけなのだろうか。


「レン様とアオイ様も、戦ってみたらこんなに強いんでしょうか?」


「葵は多分強いだろうけど、僕はそんな事ないと思いますよ」


 葵はかつて、剣道の世界大会で優勝している。つまり、勇者の力がなくても充分強いのだ。そこに勇者の力も足されるのだから、強くない訳がない。


「……レン様は、いつも自信がなさそうですね」


 自信とか、そんなんじゃない。これが僕そのもので、僕の"答え"なのだから。


「そうだよ。蓮はもっと自分に自信を持たないと」


 葵まで、やめてくれよ。僕は自分のどこに自信を持てばいいんだ。


 この日はそうやって、だらだらと一日を過ごした。闘技場で見た凪斗さん達の姿は、しばらく僕の脳裏から離れる事はなかった。






ほんと、この章は短いです。ほんとです。

あと三話か四話でこの章終わりですもん。短いでしょ?

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