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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
35/61

第三十三話 まるでーー



 




 ◇◇◇◇





「ふふ、なんで私よりウィルの方がボロボロなの?」


 翌日、俺の見舞いにマナが来た。松葉杖をつき、ヨロヨロと歩きながら。


 俺の容態は悪かった。命に別状はないが、身体の至る部位が傷ついている。特に、腹の風穴を塞ぐために、全身から少しずつ筋肉やら栄養やらを摘出したのが良くなかった。体は全体的に痩せ細り、軽い栄養失調に陥っている状態らしい。治療は内臓だけに留まり、骨を砕かれた右手は三角巾で固定されている。


「階段からこけたんだよ」


「……ごめんね?私のせいで」


 マナは俺がウッドフォードと戦ったことを知っている。ニーナ先生が全て話したのだ。まぁ、別にいいのだが。


「いや、気にしないでくれ。それより、マナの方はどうなんだ?その、足は」


 少し聞きづらいことだが、無視する訳にもいかない。


「多分、ダメだと思う。もう走ることも出来ないって」


「……そうか」


「……ねぇ、ウィル。私、全部無くしちゃったよ。これから、どうしたらいいんだろうね?」


 マナは、泣いていた。それもそうだ。腕を使えなくなり、それでも強く生きてきたのに、足も、そして夢も奪われたのだから。


 考えろ、俺に何が出来る?俺はマナの足を治すことは出来ない。なら、俺の知り合いに治せそうな奴はいるか?……あれ?いるぞ?


「なぁ、マナ。明日、一緒に出掛けないか?」


 とりあえず俺は、マナを誘った。





 ◇◇◇◇





「ねぇ、ウィル。こんな朝にどこ行くの?」


 早朝、俺とマナを乗せた馬車は街道を走っていた。方面は、ランベルツ領。俺が中央に来た時の道をたどっている形だ。


「ん?まぁ、一言で言うなら、森だな」


「森?」


「そう。まぁ、良い場所だよ。楽しみにしててくれ」


 風が冷たい。


「分かった。楽しみにしてる」


 治せるかどうかは分からないが、少しでも気分転換になればそれだけでもいい。


 マナを馬車の中で眠らせ、俺は御者台に座り、夜通し馬車を走らせる。しばらくして、大きな木々が立ち並ぶ森へと入った。背の高い木の隙間からは、月光が差し込む。なんともまぁ、幻想的な光景だ。俺がこれを見るのは、二回目になるのだが。


「やっぱり、綺麗だなぁ」


「そうですか?」


「ああ、何回見ても飽きない光景だ。……久しぶりだな、ドライアド」


 俺はいつの間にか隣に座っていた妖精、ドライアドに言った。彼女もニッコリと笑う。


「ええ。久しぶりですね、ウィル様。一年ぶりですか?」


「だな」


 俺は答えながら馬を止めた。俺の右腕は三角巾で固定されたまま。つまり、一日中片手で馬を操っていたのだ。比較的温厚な馬だったが、それでもかなり疲れた。


「あら、止めちゃうんですか?」


「今回はここが目的地だったからな。ドライアド、頼みがある」


「なんです?なんだかドキドキしますね」


 ああ、もう、可愛いなぁ。


「馬車の中に一人、少女が乗ってる」


「はい、乗ってますね」


「彼女は足に再起不能な怪我を負わされてな、可能ならその治療を頼みたい。もちろん、見返りにドライアドが望む事を何でもする。頼む」


「いいですよ」


 ……軽いな。こっから交渉かな〜って、いくつか策も考えてきたのに。


「とりあえず、その見返りは『借り』って形で置いておきます。いつか、何かしてもらいますからね?」


「分かった」


 借り、か。アルフレッドにも作っちまったし、めんどくさいな。まぁ、仕方ないか。


「では、彼女をお借りしますね」


 いつの間にかマナを宙に浮かしていたドライアドは、そのまま自分もふわりと浮いていく。俺も木を蹴り上がり、付いて行った。


 そうやって辿り着いたのは、蔦で編まれたベッドだった。それは木の上にあり、月明かりをこれでもかというほど浴びている。


 ドライアドはマナのベッドの上に寝かせる。マナは目を覚まさない。なにせ、眠らせたのは俺の魔法なのだから。マナは明日の朝までは起きない。


 ドライアドが何かを呟く。それと同時に、銀色の光がマナを包んだ。その神秘的な光景を、俺は少し離れた木に腰掛けて眺めていた。


「治りましたよ」


 ふわっと、俺の隣に腰掛けたドライアドがあっさりと言った。妖精族、反則過ぎないか?流石に早いだろ。


「彼女、腕の方も怪我しているんですね」


「分かるのか?」


「はい。足は治せました。ですが、腕の方は怪我から時間が経ち過ぎて、私には……」


 そんなに申し訳なさそうにしないでくれ。足を治してくれただけで充分すぎる。


「いいんだ、ありがとう」


「どういたしまして。それにしても、ウィル様は何故彼女を寝かせているのですか?」


「分かってるだろ?ドライアドの姿を見させないためだ」


 俺は学園で人間族の友達が数人できた。全員この森を通ったらしいのだが、誰もドライアドと会っていないらしい。だがら、なにか訳ありかと思ったのだ。


「妖精族は人の害意が読めます。妖精、というだけで良からぬ事を考える輩もいるのが分かるんです。別に、ここを通る人間族の方達が皆そういう訳ではないのですが、私は極力姿を現さないことにしていました。でも、ウィル様はあまりにもそういった感情が無かったので姿を見せたのです。最近は退屈でしたし」


「なるほど」


「恐らく、あの少女も大丈夫だったと思いますけどね。何より、ウィル様のご友人ですし」


 それは買い被り過ぎだ。ドライアドは俺のことを過大評価してないか?


「それよりウィル様。何かありましたか?」


「うん?」


「今のウィル様からは……良くない感じがいます。何か、嫌な事とかありました?」


「……どうだろな。あったけど、マナの足が治ったおかげで解決したと思う」


「そうですか……」


 それっきり、沈黙が訪れた。俺が次にドライアドと話したのは、マナを連れて中央に帰る時だった。





 ◇◇◇◇





「ねぇ、何があったのか教えてくれないの?」


「ああ、それは秘密だ」


 俺は御者台から答える。隣を走るマナに向けて。


「私もちゃんとお礼を言っておきたいんだけど」


「あいつはあんまり気にしないと思うけどな。まぁ、その内会わせるよ」


 マナが目を覚ましたタイミングで、俺は足を治してもらったことを伝えた。マナは最初は信じなかったが、走ってみてすぐに治っていると理解した。今もテンションが上がりまくりで、馬車と並走している。


「お、中央が見えてきたぞ」


「私、先に走って行ってるね!」


 マナは並走をやめ、ぐんぐんとスピードを上げて行ってしまった。馬より速いとか、凄いなぁ。


「……さて」


 俺は馬車を止める。マナが見えなくなった瞬間、急激に気配が強くなったのだ。あの男の。


「よォ、ウィリアム。久しぶりだなァ」


「ああ、俺は会いたくなかったけどな。エルドラド」


「ヘッ、言ってくれるじゃねェか」


 エルドラド・ジニーウォークス。世界最強にして、不本意ながら俺の師匠。


「見てたぜ。テメエが龍人のガキにボコボコにされてたの」


「弟子を助けてやろうとかねえのかよ」


「ああ、無いね」


 知ってたよ。


「で?どうだったんだ?」


「何が?」


「だから、初めて負けてどうだったって」


 ………。


「別に?単に強いな〜って。流石、龍人だなって思ったよ」


 どうせなら、俺も龍人だったら良かったのに。だったら、あいつを倒せたかもしれないのに。


「はっ、なンだァ、へらへらしやがって。悔しくねェのかよ。テメエもその程度だったってことか。とンだ期待ハズレだなァ」


 エルドラドはそう吐き捨てるように言って背中を向けた。もう言いたいことはないのだろう。


 へらへら、か。まぁ確かにへらへらしてんな。てか、へらへらするしかねえし。終わったことを気にするタイプでもないしな。


 悔しくないのか、か。………そんな訳ねえだろうが。


「悔しいに決まってんだろうが!」


 気付けば、俺は叫んでいた。我慢出来なかった。


「悔しくないのかだと?悔しくない訳ないだろうが!悔しい!悔しいさ!悔しいよ!あんな奴に負けたんだぞ!?死ぬほど悔しい!もう、こんな思いは絶対にしたくない!」


 こんな気持ちは初めてだ。悔しくて涙が溢れるなんて。前世でサッカーの全国大会を賭けた試合に負けた時でも、涙なんて出なかった。


 エルドラドは止まらない。俺に背を向けたまま歩いていく。


「だから!俺はもうあいつには負けない!いや、二度と誰にも負けない!もっと強くなって、いつかあんたも超えてやる!」


 涙を流すのはこれで最後だ。もう二度と涙なんて流さない。これは誓いだ。必ず強くなってみせる。全てを守れるぐらい。大切な人も、自分の信念も、守れるぐらい。


「……はっ、俺様に勝つって?やれるもンならやってみやがれ」


 エルドラドは振り返り、そう笑った。


 なってやる。この転生した世界で、最強の存在に。





 ◇◇◇◇





 この日、ウィリアム・ランベルツは一つの誓いを立てた。強く、ただ強くなって、全てを守ると。


 ーーそれはこの先、少しずつ彼を蝕んでいくことになる。まるで、呪いのように。






これで第一章は終わりです!

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