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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
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第二話 奇抜で奇妙な旅人







 ◇◇◇◇





 俺が前世の記憶を取り戻してから一年が経った。未だに記憶は虫食い状態だが、しかし成熟した思考を持っているというのはそれだけで便利なものだ。いや、違う世界の常識を引き継いでいるという考え方をすればそうとも言い切れないかもしれない。


 俺はとりあえずこの世界について勉強を始めたが、進行具合は良くない。と言うか悪い。どうやら前世で頭が良かったのは奇跡らしい。全く覚えられない。


 魔法の練習も始めた。しかしこれも上手くいかない。父と母に教わっているが、やはり前世の常識が定着してしまっている分、魔法という存在を信じきれていないのだ。父が巨大な雷を落としても、母が腕の一振りで料理を作っても、毎回夢を見ているのではないかと疑ってしまう。凄いし、自分も使えるようになりたいとは思うのだが、信じきれてないものを自分が使える訳がない。これは唯一、俺が前世を思い出したことによる弊害と言えるだろう。


 意外なことに、体術や剣術の方は才能があるらしい。前世同様、身体能力は高いのだろう。だがもし実戦となった時、俺は相手を傷つけることが出来るのか。それに関しては全く予想が出来ない。


 度々、今の自分と前世の自分を比べることがあるが、自分がウィリアム・ランベルツという自覚はあるし、そこに疑問を抱くことはない。7歳の誕生日ではパーティを開いてもらったし、家族との仲も良好だ。

 しかし時折、鏡に映る自分の姿を見て奇妙な気持ちになることはある。自身の姿が見慣れないわけではない。上手く説明出来ないが、少し変な気持ちになるのだ。その感覚にも大分慣れてきたが。


 俺は父と同じ真っ白な髪をしている。雪のように真っ白な髪だ。顔も悪くはないだろう。少し童顔だが、7歳だから当たり前と言えば当たり前だ。


 まあ、とにかく、俺の第二の人生は完璧ではないが順調だった。まだ7歳だが。





 ◇◇◇◇





「ん?」


 ある日、家族揃って夕食を終えて大きな居間でくつろいでいると屋敷の呼び鈴が鳴った。既に使用人が見に行っているだろうが、こんな時間に貴族の屋敷を訪れるのは珍しいことだ。


「誰でしょう?」


 俺は妹のエルザを膝に乗せ、頰をつつきながら尋ねてみた。エルザは可愛い。超絶可愛い。そんなエルザが妹なのだから、愛でるのは当たり前だろう。

 人形のように整った顔立ち、ふっくらとした唇。母親譲りの赤い髪をツインテールが非常にチャーミングだ。そんな可愛い妹が『兄様、兄様』と慕ってくるのだ。たまらん。


 もちろん、恋愛感情的な可愛いではない。そもそも、俺には好きという感情がよく分からないのだから。それに妹にそんな感情を抱くわけがない。だが、可愛いのは可愛い。それは仕方がない。


「今日は別に来客の予定はなかったはずだ」


 父も不思議そうに眉を顰めている。ちなみに、母は俺を膝に乗せている。母の膝に俺が座り、俺の膝にエルザが座っている状態だ。美女の間に挟まってる俺。なんて素晴らしい。さっきから父が羨ましそうにチラチラ見てくるのが面白い。多分、混ぜて欲しいのだろう。


「レクト様、少しよろしいですか?」


 使用人のハルクは部屋に入ってくると、軽く頭を下げる。


「お客様ですが、どうやら旅人のようです。今晩泊まるところがないので、一晩だけ泊まらせてくれないか、と」


「なるほどな……。よし許可を出そう。エマに空いてる部屋の準備をさせて、ハルクは客人を案内してくれ」


「はっ、承知しました」


 おお、即決。かっけーな。流石パピーだ。


 ハルクが連れてきたのは変な格好の人物だった。だが背はピンと伸びており、なんとなく只者ではない感を醸し出している。旅人というには荷物が少ない気もするが、案外そんなものなのかもしれない。腰には少し短めの剣が差さっている。


「初めまして。私はギルと申します。見聞を広げるため、旅人として世界各地を転々としています。今晩はここに泊まる許可を頂き、ありがとうございます」


 ギルと名乗る旅人はそう言って礼儀正しく頭を下げた。


「初めまして。私はレクト・ランベルツ。このランベルツ領の領主だ。見聞を広めるための旅ならば、今晩だけと言わず、しばらくはここに滞在していくといい。ランベルツ領はあまり広くはないが自然豊かな良い土地だ。是非、満喫していって欲しい」


「それはとてもありがたい申し出ですが、本当にいいのですか?」


「ああ。その代わりと言ってはなんだが、私の息子に君の知識を教えてやって欲しい。どうやらこの世界のことを色々と勉強しているみたいでね。世界を股にかける君の話ならば、とてもいい糧になるだろう」


 おお!それはありがたい。確かに俺もギルの話には興味がある。実体験の話は貴重だしな。


「息子……」


 ギルがチラリとこちらを見る。もちろん、俺は既に母と妹から離れている。一応、貴族だし。


「初めまして、私はウィリアム・ランベルツと申します。よろしければ、ご教授願いたいと思います」


「これはこれは、賢そうなお子様ですね。分かりました。それではお言葉に甘えさせてもらいましょう」


 ギルはニッコリと笑うと、そう言ってもう一度頭を下げた。こうして、ギルのランベルツ領での滞在が決まった。





 ◇◇◇◇





「それでは、ウィリアム様。私が見聞きしてきたことをお話しましょうか」


 ギルが俺たちの屋敷を訪れてから約一週間が経った。これまでギルは毎日ランベルツ領を散策し、俺も特に関わることはなかった。彼は旅人。しばらくは自由に過ごした方がいいかと思ったし、それに底辺とはいえ貴族の屋敷にいるのだ。あまり接しすぎると彼も過ごしにくいだろう。


 そしてある程度慣れたのか、ある晩、ギルはエマに連れられて俺の部屋を訪れた。正直、彼は変わり者だ。


 屋敷に訪れた日も、色とりどりで目がチカチカするような派手な服装に、ひしゃげた灰色の帽子を被っていた。なんとなくそこに触れる雰囲気ではなかったためにスルーしたが、奇抜過ぎる。


「ええ、お願いします。ですがギル様、私のことはウィルと呼んでください。話し方も畏まらなくていいですよ。その方が話しやすいので」


「分かり……分かったよ」


 おお、案外すんなり納得してもらえたな。やっぱり、年上の人に畏まられるのはあまり好きじゃない。エマを含め、屋敷の使用人達には慣れてしまったが。


「じゃあその代わりウィル、君も僕と同じように話してくれないか?もちろん、様も付けずに」


 おっと、そうきたか。……まあいいけど。


「分かった。じゃあ、こちらこそよろしくギル」


「ええ、よろしく」


 ギルは俺が差し出した手を握り返すと、そう言った。刹那、自然と様々な好奇心が湧いてくる。その不可解な好奇心は、しかしこの先の未来を楽しみにさせるには充分過ぎるものだった。




 約半年間、ランベルツ家の屋敷で共に暮らすことになったギル。奇抜で奇妙な旅人である彼はこの後、俺の人生に大きな影響を与え、そして俺が尊敬することになる人物の一人である。






とりあえず今日はここまでです。まだいくつか書き貯めがあるので明日から1日1話か2話投稿しようと思ってます。

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