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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
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第二十六話 なんだかんだですぐ行事



 




 ◇◇◇◇





「……寒い」


 朝、寝巻きから学生服に着替え、更にその上からコートを羽織り、マフラーを巻く。もちろん、手袋は忘れない。龍種の皮で作った丈夫な手袋だ。同じく、龍種の皮で作った丈夫なコートもあるのだが、流石に普段から着るわけにもいかない。収納魔法でしまってある。


 季節は冬。中央の冬は寒い。カーテンを開けて外を見ると、白い雪が降っている。俺がここに来てもうすぐで一年だ。


 俺は前世から、一年前の今頃は〜〜と考えることがよくある。今回の場合、一年前の今頃はエルドラドに虐めらていたなぁ。……思い出さなきゃ良かった。


「行くかぁ」


 俺、寒いの苦手なんだよ。結構ガチで冬眠したい。





 ◇◇◇◇





「ウィリアム君おはよ〜!」


「おっす、ウィリアムおはよう!」


 この一年で、クラスメイトから挨拶される程度には馴染むことができた。俺にしては成長したと思う。


 教室はざわめいていた。近々、学内トーナメントが開催されるからだ。参加は全て有志。場合によっては死者すらも出ると言われる物騒な行事だが、中央学園の生徒の大半は参加するらしい。

 なぜなら、このトーナメントは絶好のアピールの場となるからだ。少しでも活躍すれば各国からスカウトがあり、生徒は皆これを狙っている。そのために中央学園へ通う者もいるぐらいだ。


「……で、マナも参加するのか?」


「うん!テルキアの王家直属部隊から声かけられたりしないかな〜」


 テルキアは獣人族の国だ。その中でも王家直属部隊と言えばエリート中のエリート。流石マナさん。お目が高い。


「あ、でも、シーシェルの帝国とかもいいかも。第一軍隊とか。ほら、帝国の第一軍隊も龍種を討伐したことあるんでしょ?」


 シーシェルとは人間族の国である。少し複雑だが、シーシェルの中には更に2つの国が存在する。昔から人間同士の争いが絶えなかった影響だ。ふっ、人間とは罪深い生き物だな……。


 とか言う戯言は放っといて、帝国はその中でも最大規模の国だ。マナの言う第一軍隊とは、『帝国序列一位』の人物が率いるシーシェル最強の軍隊で、少し前に龍種の討伐に成功している。多大な犠牲を払ったが、中央騎士団とは違い兵器を使わずに倒したらしい。それも、『帝国序列一位』の活躍があったからだとか。


 ちなみにだが、近年では中央以外でも他種族を迎え入れる動きが目立っている。もちろん、友好関係などではなく、少しでも優秀な兵が欲しいからなのだが。


「マナは軍隊に入りたいのか?」


「そうだね。私の家族も全員そうだし」


「へぇ……」


 マナの家族か。やっぱり全員ウサギなのかな?


「ウィルは参加しないんでしょ?学内トーナメント」


「ああ」


「もったいないなぁ。ウィルならどこにでも入れるのに」


「俺は軍隊に入るつもりはないよ。もっと自由に生きたいし」


「まぁ、それはそれでウィルらしくていいと思うけどね」


 おお、理解者がいるってのは結構嬉しいもんだな。


「ありがとう。俺はマナの応援でもしとくよ。ウーガも参加しないって言ってたし」


「あ〜、ウーガは臆病だからねぇ。あの性格さえどうにかなったら、もっと強くなれると思うんだけど」


 親か。


「そういえば、ウーガはどこにいるんだ?姿が見えないけど」


「さあ?また花壇でも見に行ってるんじゃない?」


 あいつ、いっつも花壇のとこにいるな。





 ◇◇◇◇





 結論から言うと、ウーガは花壇にいた。が、その肝心の花壇が荒らされている。ウーガの目の前には魔人族が2人いた。目が六つの魔人と、腕が四つの魔人。恐らく上回生だ。腕が四つの魔人はウーガの兄か?なにかあったのか?


「だからさぁ、困るんだよ、お前が人間族なんかと仲良くしてたら」


 ……なるほど、だいたい察した。


「どうしました?」


「ウィ、ウィル君……」


 俺は出来るだけ怒りを押し殺して、ウーガの隣までいく。


「あぁ?お前があれか、ウーガと仲良くしてる人間か?」


「そうですが?」


「お前、頭おかしいのか?」


 ふむ、その言葉、そのままお前に返してやろうじゃないか。


俺たち(魔人族)お前ら(人間族)は戦争中だろうが。ってのに、なに関係ないみたいな顔して仲良くしてるんだよ。あぁ?」


 戦争中。確かに、その言葉に間違いはない。ただ、魔人族と戦争しているのは帝国であって、人間族のもう一つの国である王国は交戦していない。そして、俺の故郷であるランベルツ領は王国に所属している。つまり、俺は関係ないのだ。


 と、説明してみたが、


「こっちには関係ねえよ。問題は、俺らが魔人で、お前らが人間だってことだ」


「それは問題になりませんよ」


「あぁ?」


 さっきから頻繁に凄んでくるが、全く怖くない。エルドラドの元にいたからかな?


「ここがどこか知っていますか?中央ですよ?中央では種族間の問題の持ち込みは禁止されています。むしろ、戦争をしているからと人間族と対立することの方が問題になります」


「うるせえな、非力な人間の分際で、調子に乗ってんじゃねえぞ」


 正論攻めでも無駄か。ちくしょう、なんでこんな奴らが中央に来てるんだよ。


「ぼ、僕とウィル君は友達です!だから、仲良くするのに問題はないです!」


 ウーガ、よく言ってくれた。それでこそ俺の友達だ。でも多分、感情論は一番効き目がないやつだぞ?


「お前は黙ってろ!この、売国奴が!」


 ほらな。これ、どーすっかなぁ。


「黙らない!」


 おお?珍しくウーガが怒ってるぞ?


「それに、なんでウィル君が僕なんかと一緒に育ててくれた花壇を潰したんですか!?これは関係ないじゃないですか!」


 ……そうだ、花壇荒らされてんの忘れてた。やっぱり、こいつらがやったのか。


「あぁ?はは、なんだ、怒ってんのか?お前が人間なんかと花を愛でてんのが悪いんだろうが。違うか?」


「……なぁ」


「あぁ?」


 俺の声に、凄みで反応する。こいつ『あぁ?』って言い過ぎだろ。


「あんたらが、花壇をこんなにしたのか……?」


「あ、ああ。だったらなんだよ?」


「その目ん玉、全部抉り取るぞ?」


「ヒッ!?」


 おっと、殺気が漏れてしまった。この程度でビビんなよ。


「……ウーガが」


「え!?」


 急に自分に振られたウーガが驚く。悪い、勢いで言っちまった。もう戻れねえわ。


「学内トーナメント。そこにウーガは出る。あんたらはどうなんだ?」


「で、出るが?」


「じゃあ、そこで戦ったらいい。あんたらが勝てば、俺は今後一切ウーガとは関わらない。ウーガが勝てば、あんならにはウーガに頭を下げてもらう。どうだ?」


「なっ、なんでトーナメント戦で決めるんだよ!関係ねえだろうが!それに、組み合わせだってランダムなんだぞ!?」


 全くもってその通りだ。正論で返された。でも、めんどくさいもん。


「争い事は、めんどくさくなったら喧嘩で決めるもんだろ?それに、トーナメントの結果で決めたらいいしゃないか。それとも、今ここで決着つけとくか?」


 俺は骨を鳴らしながら聞いた。ぶっちゃけ、その方が楽だ。でも、さっきマナと話したことも気になる。ウーガの優しすぎる性格だ。もしかしたらこの件で、そこは改善できるかもしれない。


「……ウーガ。お前は本当にトーナメントに参加するのか?」


 ここで初めて、腕が四つの魔人が声を発した。やはり、ウーガに似ている。


「ぼ、僕は……」


 ウーガは情けない声を出して俺を見た。俺は目をつむる。そこはウーガに任せよう。強要するべきではないしな。ウーガが出ないと言うのなら、俺が出る。


「僕は……学内トーナメントに参加する。そこで決着をつけよう」


「そうか。なら、受けて立とう。行くぞ、ラコバ」


 六つ目はラコバというらしい。彼らは背を向けてどこかへ行ってしまった。なんか若干かっこいいんだけど……あの背中に蹴りぶちかましてもいいかな?


「ウーガ」


「なに?」


「頑張れよ」


 色々あったが、結果だけ見れば俺はウーガに面倒ごとを押し付けた。まぁ、(人間)が力尽くで解決しようとすれば話は更に拗れるだろうし、ウーガの臆病な性格も少しはマシになるかもしれないし、一石二鳥だな。


「気持ちは嬉しいけど……ウィル君、僕は多分君の期待に応えられないよ?」


「大丈夫。お前ならきっと勝てる。少なくとも、俺はそう信じてるからな」


 学内トーナメントまで、あと7日。






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