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転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
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第二十五話 日常へ



 




 ◇◇◇◇





「お前、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、救いようのない馬鹿だな」


「なんだと!?」


「お前、本気で俺のせいでギラウスが死んだと思ってんのか?」


「当たり前だろうが!団長が犠牲にならなくても、勝つ方法があったはずだ!」


「なら、お前がその方法を考えるべきだった」


「っ、それは!」


「なぁ、なんでギラウスが死んだか教えてやろうか?」


 こいつ、本当に馬鹿だ。今ここで殺したいぐらい腹立つし。それでも、ギラウスの最期の頼みだ。嫌だが、叶えてやる。


「お前が弱かったからだ」


「っ!」


「お前さ、この戦いで何かしたか?何か為したか?どうなんだよ?なぁ?」


「ぐ……そ、それは……!」


「何もしてないよな?何も為せてないよな?それはなんでだ?お前が弱かったからだろ?」


「………!」


「お前がもっと強ければ、あいつは死なずに済んだかもしれない。……まぁ、もちろん、俺も同じだけどな。俺がもっと強ければ、あいつは死なずに済んだかもしれない」


 そう、アルフレッドばかりを責める訳にはいかない。俺の力が足りなかったのもまた事実だ。結局、最後はギラウスに助けられた。


「いや……」


 アルフレッドはそう言って俺の右腕を始めとした、重症箇所を視界に映した。


「お前は、強かった。お前がいなければ、私たちは、中央騎士団は勝つことは出来てなかった。……例え、団長が命を賭したとしても」


 まぁ、それはそうだな。俺がいなければ、今頃全滅してるだろう。


「アルフレッド。お前の気持ちは分かる、なんて言えないけどな、そのままじゃダメだ」


「何を……?」


「悲しむな、とは言わない。悔しがるな、とも言わない。でもな、下は向くな。立ち止まるな。前向いて、歩き続けろ。これからは、お前が中央騎士団を率いるんだろう?」


「……私には、そんな資格はない。ウィリアム。お前の方がよっぽど……」


「寝言は寝て言え。俺は騎士団に入るつもりもねぇよ。なあ、アルフレッド。お前は、ギラウスを誰よりも近くで見てきたんじゃないのか?」


「……ああ」


「なら、あいつの代わりになれるのはお前だけだ。代わりにならなくてもいい。それでも、あいつの役目を継ぐのはお前しかいない」


「………!」


「お前があいつの後を継げ。お前なら、やれるはずだ」


 こいつは馬鹿だ。だが、熱意は本物だ。俺に詰め寄ってきた気持ちだって分かる。自分の尊敬の対象が、憧れの存在が死ねば、誰でも取り乱すだろう。それでも、こいつは現実を突きつけられてすぐに理解した。自分の力不足を。きっとこいつは強くなる。


 偉そうでごめんね。


「……ウィリアム。今回は無理やりだったが、協力感謝する。騎士団団長として、この恩は忘れない。いつか、必ず君に報いよう」


 顔つきが変わった。やっぱり、こいつはやれる奴だ。俺も真摯に答えよう。


「いや、恩とかいいからもう関わらないでくれ。目立つから」


 こうして、ムーア区域における対龍種討伐戦は終わりを告げた。





 ◇◇◇◇





 緑龍を倒し、ムーア区域は解放された。この報せはすぐに全世界へと伝わることになる。


 元々、ムーア区域に龍種が現れたことは極秘として公表されていなかったのだが、龍種を討伐したと公表すれば、中央の絶大なアピールになる。龍種が現れても討伐出来るレベルの兵力があると。被害もたったの百人前後。通常なら、龍種討伐戦での被害は千人を超えることを考えると驚愕の戦績だろう。例え、相手が最下位の緑龍で、尚且つ、軍隊がほぼ全滅だとしても。

 実際、中央が龍種を討伐したと公表したことによって街は賑わった。そこかしこで吟遊詩人が歌を歌い、酒場は朝から晩まで賑わっている。龍種の素材が手に入ったことで中央は潤い、そこに住む民に還元しているのだ。


 ギラウスは英雄として歴史に名を刻まれた。実際、あいつは英雄だったのだろう。最期には自分の命を賭けて俺に託したのだ。かっこいい生き様だった。


 今はアルフレッドが団長として活躍している。騎士の精鋭はほとんどが死に、騎士団の事務仕事はほぼ全部自分でこなさなければならない上に、龍種討伐によって騎士団に憧れた大量の入団希望者をさばかなければならない。あいつ、過労死するんじゃないのだろうか。


 俺は学園に戻った。もちろん、俺が討伐戦に参加していたことは誰にも明かされていない。中央の重鎮共は俺の存在も公表したいとうるさかったが、アルフレッドが庇ってくれた。俺との約束だから、と。


 俺は報酬として、自分で切り落とした緑龍の爪三本と皮を少しもらった。皮はそこらの鎧よりも丈夫なコートが作れるし、爪は適当にナイフにでもするつもりだ。もっと持っていけと言われたが、多くは貰わなかった。

 ムーア区域は龍種の脅威から逃れたが、戦闘の跡が酷く、再起まで数年はかかるらしい。それを聞かされて、貴重な龍種の素材を根こそぎ持っていけるか?俺には無理だった。だから、他の報酬も貰わずにおいた。俺としては、龍種との戦いが一番重要だったしな。あまり多くは望まないさ。


 俺の右手にあった赤い紋は、手の甲だけにしかなかったのに今では右手全体を覆い尽くした。まだ手袋で隠せる程度だが、侵食のスピードがあまりにも早すぎる。恐らく、龍種の力を使ったからだろう。俺はそう結論付けた。

 これからはあまり使わないようにしよう。この紋の力を使うことは、寿命を削ることと同義なのだから。まぁ、それまでに赤龍ディールを倒せばいいんだけどな。


 とにかく、俺もアルフレッドも、生き残った者はそれぞれの日常へと帰っていった。





 ◇◇◇◇





「おはよう」


「おはよ……ってウィル!?あなた今までどこに行ってたの!?」


 久しぶり、とは言っても怪我の治療も含めて休んだ一週間ぶりの学園で、マナは顔を合わせるやすぐに顎を蹴り上げてきた。反射的に躱してしまう。……良かった、誰も見てなかった。


「ちょいちょい、いきなり蹴るってどうなの?俺、病み上がりなんだけど」


「病み上がり?この一週間、何してたのよ」


 あ〜しくった。今回の件はマナにも話していないんだった。


「いやぁ、実は病気になっててな、やっと治ったとこなんだよ」


「寮の部屋にはいなかったけど?」


「ほら、感染症だったから、病院で隔離されてたんだよ」


「へ〜、大丈夫だった?て言うか、ウィルみたいな化け物でも感染症なんかかかるんだね」


「化け物ってなんだよ!」


「てへ」


 てへ、じゃねえ。可愛いから許す。


「あ、じゃああれ知らない?ムーア区域に現れた龍種を中央騎士団が討伐したっていう話!」


「ああ、小耳に挟んだ程度には」


「凄いんだよ!騎士団の団長さんがその身を賭して倒したって!かっこいいよね!」


 マナの目がキラッキラしてる。こんなにテンションが高いマナを見るのは初めてだ。マナは武闘家だし、血が騒ぐのだろうか。ちょっと、直視するのがつらい。だって俺、その現場にいたんだもん。


「へぇ、凄いなぁ」


「でしょ!流石のウィルも中央騎士団の団長さんには敵わないよね!……敵わないよね?」


 おい、なんで自信なくすんだよ。敵わないってことにしとけ。


「あ、それとこの噂も知ってる?最近出回ってるんだけど」


「噂?」


「うん。その龍種討伐戦にね、騎士団とは別で一人の助っ人がいたんだって。その人は誰よりも強くて、団長さんも含めて騎士団の人達を守りながら一人で龍種と渡り合ってたらしいの!それで、最後は団長さんと協力してトドメを刺したって!」


 ……俺、別に守ったつもりはないけど?


「かっこいいよね!自分を犠牲にした団長さんもかっこいいけど、その人はもっと憧れちゃう!」


 ああ!マナさんの瞳がさっきよりもキラキラしてる!ダメだ!眩しすぎるよ!


「その人の素性は分からないんだけど、騎士団で生き残った人達が敬意を込めて二つ名を付けたらしいの。確か『赤紋』だったかな」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「なになに、大丈夫?」


 恥ずか死ぬ!


 なーにが二つ名だよ!しかもなんだ『赤紋』って!あいつら(騎士団)勝手なことしやがって!


「い、いや、大丈夫だ。それよりその話だけど、所詮噂なんだろ?」


「うん。でもほとんどの人は信じてるよ?」


 なんでだよ!?


「その生き残った騎士の人達が街でよく話してるんだよ。騎士本人が言うなら、本当なんだろうって」


 ……決めた。明日、街へ行こう。そこでその生き残りを見つけ出してしばいてやる。


 何はともあれ、俺はしばらく平和な日常を過ごすことになった。『しばらく』と付けなければならないのが惜しいところだ。






どうでもいいことですが、実はこの作品のヒロインはまだ登場していません!

まあ登場人物もまだそんなにいませんしね。


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