表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した世界で  作者: 剣玉
第一章 世界を学ぶ
23/61

第二十一話 祭りが終わり、祭りが始まる



 




 ◇◇◇◇





 体育祭はあっという間に終わった。いや、俺が考え事ばかりしていたからそう感じたのかもしれない。


 最後のリレーで俺は一位を取った。軽く流したが、それでもダントツで一位だった。最初の走者であるマナが大きくリードを取っていたからだろう。

 体育祭全体の結果は俺たちのBチームが優勝。それも当然だろう。俺は3日目の種目から全てで一位を取り続けたのだから。あまり体育祭に集中できず、良い感じに手を抜くことが出来なかったからだ。


 まあそんなわけで、体育祭は終わった。父と母とエルザもランベルツ領に帰り、体育祭ムードも終了。特設されていた客席や屋台も全て片付けられ、学生達はいつも通りの学園生活に戻っていった。


「ウィリアム、時間だ」


「……ああ」


 俺はアルフレッドの声で我に返り、席を立って部屋を出た。


 俺は現在、中央騎士団の詰所にいる。龍種討伐の作戦会議に出るためだ。体育祭が終わった翌日に、早速召集の手紙が届いた。まったく、せっかちな連中だ。


 長い廊下を、アルフレッドの少し後ろをついて歩く。騎士団の鎧は全て白で統一されている。俺の髪と一緒だ。だから俺は、今日は全身真っ黒の服装できてやった。ちょっとした鬱憤晴らしだ。


「ここだ」


「あいよ」


 アルフレッドに連れられて入った部屋は巨大なホール状をしていた。その真ん中に長方形の机が置かれており、そこに騎士が集まっている。中央なだけあって、様々な種族が同じ騎士鎧を着ている。不覚にも、良い光景だと思ってしまった。……めちゃくちゃ視線を感じる。


 そして、その机の正面に1日の男が座っていた。鍛え上げられた筋肉、そして頭に生えている一本の角。鬼の魔人族か。この男が団長だろう。恐らく、俺と同じぐらいには強い。


「お前がウィリアム・ランベルツだな?」


「ああ」


 俺はこいつらに対して畏るのはやめた。本意ではなかったとしても、俺の家族を人質にしたのは事実だ。そんな連中を敬える訳がない。


「ほぉ、思っていたよりもやれそう(・・・・)だな」


「それは俺のセリフだよ、団長さん」


「くく、天下の中央騎士団団長にその言いようか。嫌いじゃない」


「名前は?」


「ギラウス・ウルペン。ギラウスでいいぞ」


「そうか、よろしく。俺のことはウィリアム様でいいぞ」


「抜かせ、小僧」


 周りの騎士達が俺を射殺さんばかりに睨んでくる。アウェイってのは辛いね。ちょっとした冗談じゃないか。


「それで、俺は何をしたらいいんだ?」


「その前に聞くが、お前が龍種と戦ったというのは本当だな?」


「ああ。でも、大したことじゃない。手を抜かれてたし、その上で負けた」


 俺が答えたと同時に、ギラウスが消えた。いや、消えてはいない。気付けば、目の前まで迫っていた。その手には立派な騎士剣が握られている。速い。が、反応できなくはない。


「ほっ」


 切っ先を躱し、ギラウスに足払いを仕掛ける。が、ギラウスはそれを飛んで躱すと、俺に対し全方向(・・・)から襲いかかってきた。恐らく魔法による幻影。ならばと俺は足で思い切り地面を踏みつける。ジルギード先輩の炎の魔法に対して使ったのと同じだ。自分の周囲の魔法を霧散させる技。


「むっ!」


 無数の幻影が一瞬で消え去り、ギラウス一人の姿が露わになる。


「喰らえ」


 踵落としを放った。ギラウスはそれをギリギリで回避し、後ろに退がる。俺の踵は宙を切り、地面を深く抉った。


「っ!?」


 俺の踵を中心にフロア全体にヒビが入る。危ない、もう少し力を込めてたら崩れるところだった。


「おいおい、騎士団の詰所を壊すなよ」


「それならもっと丈夫な素材で作れよ。大理石とか、脆いっての」


 まあ、いい。団長(こいつ)の三文芝居には付き合ってやっただけだ。


 一連のやりとりを見ていた騎士達が騒めく。要するに、ギラウスは不信感を抱く騎士に俺の力を見せたかったのだろう。その狙いは成功みたいだ。


「で?俺はここで何をすればいい?」


「今は作戦の会議中だ。お前も参加してくれたらいい」


 普通かよ。





 ◇◇◇◇





 かくして、俺はムーア区域に立っていた。背後には中央騎士団。今代の騎士団はまだ龍種の討伐経験は無いらしく、皆緊張した面持ちをしている。


 ムーア区域に住み着いたのは緑龍グリーンドラゴン。龍種の中では一番下の種類だが、生物として最強であることには変わりない。


「……また、龍種と戦うことになるとはなぁ」


「どうした?怖気付いてるのかい?」


 アルフレッドが隣まで歩いてくる。こいつ、馬鹿なのか?


「当たり前だろ?」


「お前ほど強くても怖いのか?」


 今度はギラウスが隣にきた。団長と副団長に挟まれる俺。ちょっと偉い人感出てるよな。


「あんたに至っては俺と同じぐらい強いだろうが」


「そうだな。その俺は別に怖くない。だから聞いたんだ」


「あんたはまだ龍種と戦ったことがないから、そんな事が言えるんだ。先に言っておくが」


 そこで俺は後ろを振り返った。そこには百を超える騎士団が並んでいる。皆、それなりに強いのだろう。それでも、百という数は龍種を相手にするには少ない。


「俺も含めて、全滅してもおかしくない。それだけは忘れるなよ」


「そんなにやばい相手なのか、龍種ってのは」


 俺も龍種の全力を知らない。だから俺は出来るだけ最悪の状況を考えているが、恐らく龍種は俺の想像以上をいくだろう。


「これは作戦会議の時にも言ったが、常に最悪を想定して動くべきだ。大切な部下を失いたくないんならな」


 今回、この作戦には最新の兵器も投入される。まだ開発されたばかりで、一つ作るのにかなりの費用がかかる代物らしい。それだけ、中央は本気ということだ。


「分かった。素直に忠告を聞いておこう」


 ギラウスは頷くと、団に進軍の指示を出した。


 ムーア区域は綺麗な土地だった。豊かな緑が一面に広がっており、澄んだ川が流れている。遠くには大きな山も見えた。あそこからは鉱石がたくさん採れるようだ。


 そんな『恵みの大地』を、真っ白な鎧に身を包んだ騎士団が進軍する。もちろん俺は真っ黒な服装だ。ス◯ミーを思い出す。あれは周りが赤だったけど。


「出てこないな」


「………」


 ギラウスの呟きに俺は反応せず、辺りを見渡した。なにか、違和感を覚える。確かに緑龍の姿は見えない。気配もない。足跡などの形跡もない。だが、違和感がある。


「ギラウス」


 俺はギラウスに合図をすると、ギラウスは右手で騎士剣が抜き、高く掲げた。それを見た騎士団がピタリと行進を止める。


「いたのか?」


「分からない。分からないが……嫌な予感がする」


 騎士団が止まったのは広い草原の真ん中。赤龍と戦った時を思い出す。あの時も、こんな場所だった。


「だが、ここには龍種が隠れていそうな場所なんてないぞ?」


 確かにその通りだ。なのに、この違和感がどうしても拭えない。だから嫌な予感なのだ。


 こんな場合は、大抵『上だ!!』って感じだよな〜って思いつつ、チラチラ空を確認しているのだが、そこには雲一つない青空が広がっているだけだ。


「ぎゃああっ!!?」


 そんな時、不意に背後から悲鳴が聞こえた。振り返ると、そこには一体の緑龍が悠々と立っていた。ぺっと、何かを吐き出す。ゴロゴロと俺の足元に転がってきたのは、一つの頭。あの日、俺を連れて行くために保健室まで来た騎士の一人だ。


「っ!全軍!陣形を展開し、武器を構えよ!!」


 烏合の集と成り果てそうになった騎士に、ギラウスが一喝。軍はすぐに陣形を整えた。簡単な陣形だ。兵器を準備する少数の部隊と、それを守るための部隊。以上だ。


 今回の作戦はほとんど俺の案が採用された。唯一、龍種との戦闘経験があったからだ。俺も一度しかないのだが、ギラウス曰く『1と0の差は大きい』らしい。


 とにかく、この陣形も俺が提案した。龍種相手に、半端な攻撃は意味がない。故に、その新兵器とやらを当てることを最優先にした。説明を聞いた感じでは、恐らく新兵器は龍種に通用すると判断したからだ。


 しかし、兵器の使用までは少し時間がかかる。それまで守り切るのは至難の技だろう。そこで、時間を稼ぐ部隊も編成した。俺とギラウスとアルフレッド。この3人だけだ。俺たち以外では龍種とまともに戦えないだろう。と言うか、俺たちでもやばい。もちろん援護はしてもらうが、あまり意味はないだろう。正直、この作戦の成功確率は低いが、これ以外に思いつかなかった。


 俺たちが出来るだけ時間を稼ぎ、漏れた分は守る部隊にカバーしてもらい、新兵器をぶち込む。単純な作戦だ。


 緑龍がどこから現れたか分からない。既に不測の事態が起きている。それでも、こうやって姿を見せた。ここからが本番だ。


「さて、龍狩り(祭り)の始まりだ……!」


 ごめん、今のはなし(ノーカン)で頼む。






次話から少し間隔が空くと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ