第十三話 体育祭1日目
◇◇◇◇
「体育祭最初の種目は1000メートル走です。出場する生徒は入場ゲートに集まってください」
「じゃあ行ってくるね」
体育祭当日。放送に従ってマナが入場ゲートに行く姿を、フランクフルトを片手に見送る。これ、めちゃくちゃ美味い。
「マナさん大丈夫かな?」
相変わらずウーガは気が弱い。まだ自分の出番ではないのに緊張している。
「大丈夫大丈夫。足の速さでマナに勝てる奴なんてそうそういないって」
マナは腕がろくに使えないため、ずっと足を鍛えてきた。元々ウサギ系の獣人であるために足に関しては最強クラスだ。同学年はおろか、上回生でも勝てる者は数人程度だろう。
あ、1000メートル走が始まった。………。
「おい!あれありなのか!?」
走ってる途中に競争相手に攻撃魔法撃ってんだけど!!全然足の速さ関係なくね!?
「あれ?ウィル君知らなかったの?」
「え?逆にウーガは知ってたの?」
あり、らしい。まあここは魔法が実在する意世界。俺がいた世界とは常識が違っていてもおかしくないよな。それに俺もこの世界でなら1000メートルを余裕で1分以内に走れるし。魔法を使わずに。
お、マナの番だ。そういえばマナって魔法使えるのか?
「………」
マナの番が終わった。結果はマナが圧倒的な差で1位。凄かった。周りがマナに魔法を撃っても届かない。その魔法を超えるスピードで走り、あっという間にゴールしてしまった。観客からも大きな拍手が送られている。
「凄いな。速いとは思ってたけど、あそこまで速いのか」
俺とどっちが速いだろ。いや、それは考えるまでもないか。
「あれ?ウィル君どこに行くの?」
「ん?あ〜このフランクフルトもっかい買いに行こっかな〜って」
いや、ほんとに美味しいんだよ。これ。
◇◇◇◇
「今度は僕の番だね」
「だな。行ってこい」
次は棒倒し。ウーガがその力を存分に発揮できる種目の一つだ。
「何言ってるの?ウィルも参加するじゃない」
「あれ?そうだっけ?」
もはや俺は自分が参加する種目を覚えていない。だから基本マナに教えてもらう。マナはなぜか俺が参加する種目を覚えているからだ。多分、自分のせいだと負い目があるのだろう。と言うより、多少でも負い目があると信じたい。
「じゃあ行くか」
「うん」
「頑張って」
棒倒しのルールは簡単だ。相手陣地にある10本の棒を倒すだけ。制限時間内に決着がつかなかった場合、その時点でより多く棒を倒した方の勝ちとなる。棒は倒さなくても、3分の2以上の長さを切断でも有効とされる。
「ウーガ。お前は敵陣地で棒を倒しまくれ。俺は自陣地で棒を守る」
なんでもそうだ。同じだけ活躍をしても、守備より攻撃の方が目立つしかっこいい。サッカーでもそうだった。だからウーガを攻撃手にする。ウーガならば活躍できるだろう。そして目立って人気を出す。完璧な作戦だ。
「ウィル君はいいの?やっぱり守るより攻める方が楽しいんじゃない?」
「いや、いいんだよ。思いっきり楽しんでこい」
棒倒しはチーム対抗戦だ。各チーム20人ずつ。1チームで各学年4人ずつで、A〜Eチームで総当たり戦となる。
俺たちBチームの初戦の相手はAチーム。最優秀クラスのチームだ。
試合が始まると同時にお互いの攻撃手が相手陣地に走り出す。とりあえず、俺は相手の足元に落とし穴を作り出した。
「ぬおっ!?」
「きゃあっ!?」
と叫びつつ俺の落とし穴に嵌る。ふはははは、ざまーみろ。穴はちゃんと隠しつつそれなりに深い穴にしてやったからな。俺の魔法の技術を舐めるんじゃねえ。しかも、ノーモーションで魔法を行使したから俺が作ったとは分からないはずだ。
歓声が聞こえる。Aクラスの生徒が落とし穴から出てきたからだ。思ったよりも早い。さすがはAクラスといったところか。
「っ!」
相手チームの1人が俺に向かって炎の槍を撃ってきた。なんとか避ける。完全に不意打ちだった。危ねえ。
「よお!穴掘り野郎!」
あ〜バレたわ。
「小癪な魔法使いやがって!ぶっ殺してやる!」
おい、ぶっ殺すってなんだよ。物騒すぎやしないか?
「ん?ぬわっ!」
ごごご、という音と共に足元の土が隆起し始める。そして一瞬の沈黙の後、地面の壁が俺を飲み込むように挟んだ。
「………」
少し、認識が甘かった。この学園は俺が思っていた以上にレベルが高い。まあそれなら、俺だってそれ相応の戦い方をしよう。
とりあえず、俺は深いため息を吐いた。
「はっ!出てくるか!」
俺のため息で弾け飛んだ土を躱しながら、相手は嬉しそうに叫んだ。まさか、自分の魔法がため息で破られたとは思ってないだろうな。
「俺は4年A組、翼人族のジルギード・グレイだ!」
「俺は1年C組のウィリアム・ランベルツ。人間族だ」
お互いに魔法弾を撃ち出しながら名乗り上げる。翼人と対等に戦う、もしくは勝利となれば確実に目立つだろう。だからここは逃げに徹するべきなのだろうが、駄目だ。楽しくなってきた。
背後では既にいくつかの棒が倒されている。AとBには確かな力の差があるらしい。一方、前で倒した棒はまだ一本だけ。それを倒したのはウーガだ。流石だが、そこで足止めを食らっている。
「はは!1年の人間族風情がやるじゃねえか!」
「そりゃどうも。あんたも、その翼が邪魔にならなきゃいいな」
「ああん?翼人に羽が無かったらお前らと同じじゃねえか」
「そういう意味じゃねえよ」
翼人はその翼で飛べる。まあ、こいつの言う通りだな。翼が無けりゃ翼人は人間と変わらない。見た目的には。
俺が言ったのは、的の広さの話だ。
俺はジルギードの翼を睨む。ピタリと、翼の動きが止まった。金縛りに近い魔法だ。
「んなっ!?」
突然のことに驚いたのだろう。ジルギードは無防備な体勢のまま地面に墜落した。俺はそこに走り込み、拳を握る。が、ジルギードは俺が殴るより先に魔法を撃った。俺はそれを回避し、後ろに下がる。
「……演技か」
「いやぁ、お前の魔法やべえな。俺ですら知らねえ魔法ばっかだ。面白いぜ」
チラリと背後を見ると、自陣地の棒は一本しか残っていなかった。とりあえず、バレないように魔法を使い棒が倒れないよう地面に固定させる。
敵陣地の棒はまだ3本しか倒れていない。攻撃手が全員ノックアウトさせられるのも時間の問題だな。
「だが、俺に勝つなんてまだ早い!」
津波が起きた。観客席は騒めく。それも仕方ないだろう。なんせ、水がない場所でこれだけの規模の津波を発生させたのだから。
「……これ、周りに被害出ないの?」
「競技場は結界で覆われてるから問題ねえよ!」
そこじゃなくて、仲間に被害ないのかって話だよ。
「さて」
俺は手を前にかざす。仕方ない。多少はやるか。
「はあ!?」
津波の水が俺の手に触れた瞬間、俺の手を通して津波が凍りついた。流石のジルギードも驚愕の声を出す。はっはっは。
「水刃」
俺は氷から手を引き抜いた。その手で手刀の形を作り、横薙ぎに払う。刹那水の斬撃が発生し、凍りついた津波を真っ二つにしてジルギードへと迫った。大丈夫、威力は弱めている。
「うわっ!」
水刃はジルギードの目の前で霧散した。その一瞬の隙をついてジルギードに迫り、ボディブロー。鳩尾にクリーンヒットした。
「げあっ!?」
嘔吐するジルギードを尻目に、俺は敵陣地へと走る。作戦変更、俺も攻撃だ。自陣地の残り一本の棒はまだ倒されていない。てか、俺が倒されないように固定してるし強化してるからな。
「っ、ふっ」
俺はジャンプした。次の瞬間、足元の地面が迫り上がり、土の棘が俺を襲う。それを躱し、俺は後ろを見る。
「おい、まだ終わっちゃいねぇぜ」
ジルギードは息を切らしながらも、俺を足止めしようと魔法を使ったらしい。
……なんか俺、悪者感出てないか?