第十二話 体育祭は観戦する時間の方が長い、はず
◇◇◇◇
マナとウーガと共に花壇の花を育て始めて一ヶ月ほどが経った。経過は順調、芽は少しずつ成長し、少しだが蕾も出てきた。若干早い気もするが、異世界産と考えれば分からなくもない。
「結構育ってきたわね」
「うん。2人のおかげだよ。ありがとう」
「なに言ってんのよ。元はと言えばあんたが頑張ってたからでしょ。もっと自信持ちなさい」
マナとウーガも打ち解けてきた。と言うか、ウーガがマナに慣れてきた。彼女のツンデレ気質に気付いたらしい。マナはウーガの気の弱さが気に入らないみたいだ。よく叱咤している。
「ウィル君。ほんとにありがとう。ウィル君に声をかけて良かったよ」
「なんか照れるな。俺も声かけてもらえて良かった」
最近、少しずつだがウーガに対する評価が良くなってきている。実は心優しい人なのではないか、と。良い傾向だ。この調子なら作戦成功も近いんじゃねえかな。それと同時に、俺とマナの評価も上がっているみたいだ。なんか嬉しい。最近は他のクラスメイトと話すことも増えてきた。
「そう言えばウィル君はなんの種目を希望したの?」
「種目?なんの話だ?」
「え?」
「え?」
え?ほんとになんの話?
「……ウィル。あなた話聞いてなかったの?」
マナが呆れたようにため息を吐いた。色々と腑に落ちないが、とりあえず説明を受ける。
「……体育祭?」
◇◇◇◇
体育祭が開かれる。ざっくり言ってしまうとそういうことだった。この中央学園の体育祭は時期が早めらしい。チームは縦割りで5クラス、1年だけランダムに振り分けられる。俺はマナとウーガと同じチームらしい。チームはB。2年からはAからEと優秀なクラスに分けられるため、Bチームはなかなか良い。
「で、種目の希望ってのは?」
「先週、希望調査の紙をもらったでしょ?そこで自分が出たい種目にチェックをいれて提出するの。もう期限終わってるわよ?」
な、なんだと……?じゃあ俺は不参加になるのか?
「それは大丈夫。代わりに私が出しておいてあげたから」
ふふん、と自慢気な表情を浮かべる。マナ、可愛いしその心遣いは嬉しいけど、俺が出してないことを知ってたんなら先に教えてくれ。
「……それで、なにを希望して出したんだ?」
「全部」
「……は?」
「なんでも出来ますって書いて提出した」
「……なんでやねん」
馬鹿なのか?
「だって、ウィルならどれでも勝てるでしょ?」
「いや知らねえよ。そもそもどんな種目があるかも知らないのに」
「結構たくさんあるよ。体育祭は1週間あるからね」
「そんなにあるの!?」
ウーガの言葉に流石に驚く。1週間て、ほとんど祭りじゃねえか。……ああ、一応体育『祭』か。
「上回生は屋台を出せるし、種目もたくさんある。毎年盛り上がるらしいよ」
「それに、体育祭は世界中から人が集まる。学内トーナメントほどじゃないけど、各国から声がかかることもあるわよ」
へえ、そんなにか。ちょっと楽しみだな。
「2人は何を希望したんだ?」
「私は走る系はほぼ全部。足には自信あるからね」
「僕はパワー系。棒倒しとか、そんなやつかな」
まあ、そうだよな。イメージ通りすぎて面白くないな。
「あ、これもチャンスだな。この体育祭で活躍すれば人気者になれるんじゃないか?」
マナもウーガも改善されてきているとは言えまだ恐れられている。体育祭で活躍すれば更に改善されるだろう。それに、2人ともハイスペックだ。充分活躍できると思う。
「それは簡単に考えすぎ。確かに私もウーガも学年内じゃ好成績残せると思うけど、体育祭は学年混合だから。多分上手くはいかない」
なるほど。確かにマナの言う通りか。
「まあウィルなら大活躍だろうけど」
「ウィル君ってそんなに凄いの?」
「当たり前。ウィルはこの学園内でもトップレベルだから」
「そんなに凄いんだ」
やめろやめろ。
「マナ」
「……分かってる」
マナは俺が目立たないようにひっそりと過ごしていることに不満があるらしい。たまにそんな感じを醸し出している。もちろん、今回の体育祭も目立つつもりはない。
まあ、そう簡単にいかないのが人生なんだけどな。
◇◇◇◇
「このクラスから、チーム対抗リレーに出る生徒がいる。ウィリアム、お前だ。しかもアンカー。期待してるぞ」
我らの担任、ロー・キラーが言った内容に一瞬固まる。
簡単な話だ。チームごとに誰がなんの種目に出場するかの会議。そこでロー先生は希望調査を見る。そこに1人、チーム対抗リレーへの出場を望む生徒がいた。名前はウィリアム・ランベルツ。
「おい、マナ」
「……なんでも出来ます、出来たらチーム対抗リレーに出たいですって書いた」
「……あとで覚えておけよ?」
ロー先生はそれを真っ先に報告した。チーム対抗リレーは出たがる生徒が多い。なによりの見せ場になるからだ。しかしそれは上回生の、しかも自信がある者だけ。見せ場になる分、半端だと悪目立ちするからだ。
その中でロー先生は奮闘した。1年の生徒が出たがっている。この向上心は尊重するべきだと。ロー先生の熱意に負けた上回生クラスの先生方はそれを受け入れ、そしてアンカーという最も重要な役割をも譲った。
「………」
俺が出る種目は他にもたくさんあった。そもそも、1週間もある体育祭だ。1人あたりの出場数が多くなるのは当たり前だ。俺はその中でも多く、そして重要な種目が多かった。
意外と、クラスメイトは俺に頑張れと言ってくれた。リレーに出場するだけで見直したのかもしれない。見直すもなにも、俺は別になにもしてないが。
「マナ」
「……はい」
とりあえず俺は、マナを校舎裏に連れていって正座をさせた。
「俺がなに言いたいか分かるよな?」
「……本当に申し訳ございません」
「なんであんなことしたんだ?」
「ウィルは凄いってことを、みんなに知って欲しかったから」
「俺がそれを望んだか?」
「………」
「はぁ。まあ、気持ちは嬉しいよ。マナが俺のためにやってくれたことだ。登校初日に俺を蹴り飛ばしたマナが、って考えたら凄え嬉しい」
これは本音だ。でも、
「……俺は目立つ訳にはいかないんだ」
エルドラド・ジニーウォークスの弟子と知られてしまったら、俺は自由な人生を歩むことができなくなる。エルドラドとの繋がりを求める者、強者との戦いを求めて俺に挑む者りそういった奴らが俺を血眼になって探し始める。そう、ドライアドから忠告された。だから俺は手紙を送り、ランベルツ領では既に緘口令が敷かれている。
「だから、これからは控えてくれ」
「……分かった。反省する」
良かった、分かってくれたみたいだ。しょんぼりするマナも可愛らしい。
「体育祭はどうするの?」
「まあ、もうそれは仕方ないしな。応援してくれる人もいるし、それなりに頑張るよ」
本気でやる訳じゃないが、期待外れとは思われたくない。Bクラスの縦割りチームだし、2位ぐらいを目指して頑張るか。