プロローグ 多分転生した
◇◇◇◇
「これは……俺の記憶か?」
俺の名前はウィリアム・ランベルツ。由緒正しきランベルツ家……とは言っても底辺の貴族だが、とりあえず貴族であるランベルツ家の長男だ。ちなみに6歳。え?6歳にしてはしっかりしてる?ああ、ありがとう。まあ俺は優秀だからね。
……とかじゃなくて、違うんだよ。ほら、冒頭で言ったばかりだろ?なんか、さ。俺、転生ってやつを体験したのかもしんねぇ。よくあるやつだよ。ほら、死んだ人間が違う世界で生まれ変わるやつ。多分あれなんだよな〜。
たださ、『これは……俺の記憶か?』とか格好つけたけど、肝心なことは思い出せないんだよ。前世での俺の名前とか、どうやって死んだとか。
突然だ。ウィリアムとして生きていた俺がある日寝て、そして起きたら前世の記憶が戻ってきた。正確に言えば本当に自分の記憶なのかも疑わしいが、でもこうやってなんでもないタイミングで思い出すのは逆にリアルな気がする。いや、知らんけど。
「よいしょっと」
俺はベッドから降りると、いつも通り呼び鈴を鳴らす。するとすぐに我が家のメイドが現れた。記憶が戻った今の俺からすると、このタイミングはおかしい。あれか?部屋の前で待ち構えてるのか?以前の俺はなんとも思ってなかったが、環境ってのは怖いもんだな。明らかに異常なのに慣れちゃうとか。
「おはようございます、ウィリアム様。早速朝の着替えといきましょう」
メイドの名前はエマ。年は確か14歳。ピチピチの14歳だ。胸はいいぐらいの大きさだし、顔もかわいい。俺がもう少し歳をとってたら声をかけてたかも。まだ若いのにもう働いてるなんて偉いなぁ。
「ほら、ウィリアム様。早く服を脱いでください」
エマは俺の普段着も手に待ち構えている。いや、確かに今まで着替えさせてもらってたけどさ、もう恥ずかしいよ。うん。恥ずかしい。
「ねぇ、エマ。着替えはもう1人で出来るからさ、これからは手伝わなくていいよ?」
「ええっ!?無理などしなくていいんですよ?」
「え?いやいや、別に無理なんかしてないよ。て言うか、恥ずかしいんだよね」
「そ、そんなぁ!!嫌ですよウィリアム様ぁ!私の楽しみを奪うつもりですか!?」
いや、なんだよ楽しみって。お前、いつも俺の裸を見るのを楽しみにしてたのか?この6歳児の裸を?
「毎朝ウィリアム様の裸を眺めるのが楽しみだったのに!こう、成長が色々と見れて」
そう言うエマの顔は明らかに乙女が浮かべるべきでない表情を浮かべている。ダメだ。
「……あれだ、やっぱりこれからは1人で着替えるよ」
まだ若いエマの危ない性癖は今のうちに直しておくべきだろう。心底絶望したかのようなエマに若干の申し訳なさを感じつつ、しかし、よく考えればなぜ俺が申し訳なさを感じなければならないと思い直して、むしろ憐れみながらエマを部屋の外に出した。そして1人で身支度をしながら、思う。
せっかくもう一度チャンスを得たんだ。前世での俺は普通以外の人生を歩んでいた、と思う。重要な部分はあまり思い出せないが、何かを遺すことは出来なかったのは確かだ。
ならば、今度は何かを遺したい。自分に何が出来るか分からないし、この世界がどんな世界なのかもよく分かっていない。それでも何かを遺したい。歴史に、とは言わない。ただ幸せに生きて、自由に生きて、誰かの記憶に俺が生きたという事実を遺して、少しでも満足して、逝きたい。それが俺の望みだ。
「よし。目標は定めた。あとはそのために必要なことを考えればいいが……」
あれ?何すればいいんだ?
新作です。これからよろしくお願いします。