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スペオペ妄想兵器のワゴンセール  作者: オーメイヘン
9/9

『移動宇宙要塞ティタノマキアート』

最終回です。

北極上空攻防戦の後も戦闘はダラダラと続いた。民主国は本国の防備を削ってまで補助艦艇の回復を急ぎ対地精密爆撃を続けたし、神君国は民主国艦隊の宙域封鎖を突破してやってくる『宇宙そらの眼』の武器商人との取引で戦力をかろうじて維持していた。ヒエイーザ戦争はいつまでも続くかのように思われた。


それはケンタウリ入植暦758年人類共通月7月のことだった。いつものように北極上空で双方の艦隊が激突。梵天鉄騎隊ボンテンリッターのスマートな宇宙戦闘機がササガニの脇をかすめ飛び、サザレ級が切り離した質量弾が重力に引かれて落ちてゆくのを主砲の焼き付いたアルパカ級の乗員が悔しげに見つめる最中、両軍の無線機に銀河共通電文が届いた。


「即刻艦隊運動ヲ中止シ、ワープ余波ニ備エヨ。」


しかし、民主国も神君国も戦闘を放り出すわけにもいかず、それでも一応銀河共通通信であるからと半信半疑ながら距離をとっての砲撃戦に移行した。それから数分が過ぎた時、各艦の計器が異常な値を示したかと思うと惑星ヒエイーザ3の軌道上、衛星ビシャモンの反対側に巨大な人工天体が出現。両軍の度肝どぎもをぬいた。それはコヨルシャウキ契約国の移動宇宙要塞ティタノマキアートであった。


ティタノマキアートは直径2000㎞のほぼ球形をした人類初の移動宇宙要塞でこの時は4基あるワームホールドライブの試験中に1基の出力が不安定になったことから超空間から緊急脱出し偶然ヒエイーザ星系に出現してしまったのである。この問題は後にワームホールドライブの配置を工夫したことで無事に解決し、コヨルシャウキ契約国は移動宇宙要塞先進国として銀河に勇名を轟かせることになる。


だが、そんなことは民主国と神君国にはわからない。計器の不調が発生したこともあって両軍はパニックに陥った。どちらの軍もティタノマキアートを敵の新兵器であると勘違いしたのだ。そして、移動宇宙要塞の余りの巨大さに距離感を誤って両軍仲良く届かない粒子ビームやミサイルを撃ちまくったのである。


数時間後、燃料が尽きるまで飛び続け漂っていたササガニがティタノマキアートに保護される。それによりコヨルシャウキ側が状況を理解し、再び銀河共通電文で歴史再現イベント・・・・・・・・を邪魔したことに対する謝罪メッセージが伝達され、パニックは収まった。念のためコヨルシャウキの擁護をしておくと、これは別に技術力の未熟さを馬鹿にしたわけではなく、彼ら自身もティタノマキアートが銀河のどこにいるのかわからなくなっており、銀河自然保護区である『地球』によく似たヒエイーザ3の姿を見て伝統祭祀『太陽系平和祭』と勘違いしていたのである。


この『ティタノマキアート遭難事件』の結果、両軍は戦意を喪失。一時休戦となり、ヒエイーザ3の美しさに感動したティタノマキアート司令のお節介とコヨルシャウキ契約国政府の仲介もあってそのまま講話することになる。その条件は民主国側に有利に進みヒエイーザ3の南半球と衛星ビシャモンの割譲(これまでは租借だった)、軌道エレベータ3号塔の無傷での返還(ハシダテについては言及されず)、北大陸軌道エレベータ建設会社の共同設置、無条件での捕虜交換、人権侵害的研究の停止などが取り決められた。おおよそ民主国の勝利と言える。ただし、コヨルシャウキの介入により民主国による神君国の完全植民地化は妨げられた。神君国は市場解放がなされコヨルシャウキ契約国を含む列強各国が利用する貿易港として栄えていくことになるのである。


せっかくなので最後に両国のその後をもう少しだけ見ておこう。


神君国は先ほど述べたように貿易港として栄えることで文化の多様性を受け容れる風潮が生まれ、僧院の影響力が低下。これまでお飾りであった神君(世襲君主)の復権を大義名分とした革命が発生し、小規模な流血をへて世俗化。半惑星国家として重要な位置にありながら列強大戦では中立を保ち、その和平交渉の場を提供することで銀河史に名を残した。


そしてワビサビ民主国はティタノマキアート移動宇宙要塞に衝撃を受けたもののさすがに張り合う余力はなく、しばらくはワビサビ星系と新たに獲得したヒエイーザ3の南半球や衛星ビシャモン、それにその後で外交交渉により購入したヒエイーザ星系の各惑星(ヒエイーザ1・2・4・5、他小惑星多数)の開発を進めることに専念した。それに並行してもとから仲の良かったアポロン自由星系同盟やティタノマキアート遭難事件で交流を持ったコヨルシャウキ契約国と技術交流を重ねたことでなんとか列強大戦直前には列強の末席に名を連ねるまでになる。


しかし、自由星系同盟や契約国との友好関係はそれらと対立するクロイツ正統枢軸国などとの間に軋轢あつれきを生み、ワビサビ星系とヒエイーザ星系の各惑星は列強大戦の主戦線のひとつとなってしまう。もっとも悪い時には全ての有人惑星を失い、なんの因果か旧式化して給与されていたティタノマキアート移動宇宙要塞(民主国での名はニライカナイ)に臨時首都を設置したほどであった。それでも列強大戦後は戦勝国として人類文明の指導的国家のひとつとなったのだから悪いことばかりではなかったと言って良いのかもしれない。




人類が初めて母なる太陽系の外、ケンタウリ星系に生活基盤を打ち立ててからもう1000年。これからも人類は時に汗を、時に涙を、時に血を流して銀河の中心へ、あるいは銀河の外へと進んでいくことだろう。それではみなさん、さようなら。銀河の歴史がまた1bit……



最終回までお付き合いありがとうございました。悔いが残るとすれば人型ロボットのアイデアが浮かばなかったことくらいです。短期連載とはいえ、初めて未完ではなく連載を終えることができたことを嬉しく思います。次回作はまったくの未定ですが、活動はダラダラ続けるつもりですので見かけたならば読んでほしいです。改めて、ご愛読ありがとうございました。

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