『バイオ強襲艦マニと艦内専用レーザーガン』
第4回です。
宇宙戦艦内部で銃火器を使用したい。それはいつの世においても一部の軍人の、つまり白兵戦要員の夢であった。実弾火器は個人携帯可能な無重力下弾道予測システムが開発できず、レーザーやビームは船体を傷つける恐れがあり、また威力を抑えたなら簡単に鏡面鎧と光線減衰煙幕に防がれてしまう。結果として列強の軍隊でさえ白兵戦要員は手斧や実体剣で武装しなければならなかった。そんななか、神君国寺院軍は遺伝子工学の面からこの問題を解決しようとした。それが『バイオ強襲艦マニ』である。
マニは一見するとごく普通の強襲揚陸艦に見える。しかし、その質量の30パーセントはアメーバ型細胞によって満たされているという点が特異だ。このアメーバは遺伝子組換によって偶然生み出されたもので、電気信号によって操作でき、熱に非常に強いという特徴をもっていた。これにより、マニの白兵戦要員はレーザーガンとアメーバを電気信号によりリンクさせ、レーザーガンの着弾地点をアメーバに防御させることで艦体が破壊されるのを防ぐことに成功したのだ。この技術に自信を持った神君国は本艦をレセップス作戦の一環としてヒエイーザ3の衛星ビシャモンの民主国基地攻撃に投入した。衛星ビシャモンの基地は地表近くの哨戒網に穴があり白兵戦でならば制圧できる可能性があったのだ。
超低空から進入したマニとその陸戦隊はレーザーガンの使用により戦闘を優位に進めた。アメーバ型細胞を基地中枢へと伸ばすのに時間がかかる他は何の問題もないように思われた。しかし、細胞が食料庫へと伸びたとき問題が発生した。食料庫に大量に保管されていた塩によって細胞が異常をきたし縮み始めたのである。訓練時には塩をいくらかけたところで問題は発生しないとされていたが、ビシャモン基地が予想外に広大かつ複雑な形状をしていたために細胞が薄く広がりすぎて塩を取り込んでしまったのだと考えられている。
これにより神君国軍は基地の確保を断念し撤退。戦果は基地の補助コンピュータ群を破壊したことのみとなった。もしもあと数時間にわたり状況を維持できたなら独力で中枢コンピュータを制圧できなくも神君国の増援部隊によって基地の無力化が成功しただろうと言われる。そうなれば、民主国宇宙艦隊の展開は非常に困難なものとなり戦争の結末は変わっていたかもしれない。その意味でこの戦いはレセップス作戦の本流以上に重大な意味を持つものだった。
その後、マニはアメーバ型細胞の修復には数年かかるということで通常の揚陸艦に改造されて戦い、終戦まで生きのびた。そして神君国のバイオ研究は遺伝子工学に対して嫌悪感を抱く民主国によって封印され、バイオ強襲艦という艦種が他国で建造されることはなかったのである。
『女神のいたずら・ビシャモン基地の勝利』 終
最初はプロペラ機のプロペラと機銃のように宇宙船が回転し、重要な部分に当たらない時だけレーザーが発射されるという構造を考えていたのですがそれだと結局船体が穴だらけになりそうだったのでやめました。その穴だけスライムで塞げば実用性が出るかななどと捻り続けた結果が本艦マニです。名前は船体をグルグル回すつもりだったころの名残り。