『53年式軌道列車砲ハシダテ』
第3回です。
軌道エレベータの建設は列強の経済支配の象徴であった。建設に数年を要するこの巨大建造物は技術力や経済力を示すのみならず、宇宙と地上のどちらにも速やかに兵員を送りこめることから軍事施設としての側面も持ち合わせていた。
セトーチ宇宙海賊討伐戦争の勝利によって民主国がヒエイーザ3に建設した軌道エレベータも例外ではない。惑星の南半球にあった小さな島にそれは建てられた。
『3号塔』と無機質に名付けられたこの軌道エレベータはしかし、民主国の人々の誇りであり希望であった。民主国の本拠地であるワビサビ星系のもつ2つの有人惑星に存在した軌道エレベータはどちらも列強の援助によって建設されたものだったが、3号塔は違う。民主国の資本、民主国の技術、民主国の人員によって建設された純国産の軌道エレベータなのだ。思い入れが違う。よって、その防備にも自然と力が入る。『53年式軌道列車砲ハシダテ』はそんな経緯で配備された。
ハシダテの主武装は20センチ高初速砲だ。軌道エレベータに張り付いたハリネズミのような姿はキュートであると好まれ、立体電子絵葉書などの題材として民主国国民に親しまれていた。見た目だけでなく、性能もまた十分なもので真空でも大気圏内でも神君国が有するほとんどの兵器を撃破可能であったとされる。あのアルパカ級でさえハシダテの生み出す亜光速の20センチ砲弾幕を交わし切るのは難しかっただろう。
しかし、現実にハシダテが活躍することはなかった。ケンタウリ入植暦756年、現地時間23月86日(人類共通月10月29日)に神君国が行なった奇襲作戦『レセップス』により軌道エレベータ『3号塔』は無傷のまま制圧され、ハシダテは自爆した。この際、民主国の現地司令官は本国から『いざという時は3号塔ごとハシダテを爆破せよ』との命令を受けていたが、あまりにも3号塔に愛着をもってしまっていたがために命令を黙殺。部下を退避させた後にハシダテと運命を共にした。この事件に対し、民主国軍は現地司令官の名誉を剥奪し命令違反を非難したが国民の中には同情する声も多くあり、生還した部下達による請願もあってヒエイーザ戦争終結から50年を経た後に二階級降格のうえで名誉回復がなされた。
レセップス作戦の後、戦場は宇宙と北半球に移り南半球の軌道エレベータ3号塔が戦場になることは遂になかった。民主国にとっては奪還にはリスクが大きすぎ、神君国にとっては確保したは良いが宇宙への物資補給に使うにはあまりにも本国の工業地域から遠すぎたのである。軍事史においてレセップス作戦は成功したものの戦争全体への影響は小さかったと評価されている。
『鳴らなかった号砲・運命の開戦』 終
本文で書くほうが良かった気もするけど、軌道エレベータが軍事的にも商業的にも意味の薄い場所に建設されたのは宗教上の理由からです。首都から見えるような位置に宗教施設より目立つものを建てたくないというのが、神君国指導層の考えです。そのため開戦時にも真っ先に占領しました。占領した軌道エレベータを寺院風に改造するという考えもありましたが、軌道エレベータの構造が想像できなかったので没になりました。