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The eternal train  作者: 齋藤翡翠
7/10

Constant dripping wears away the stone.

次に――第7話――第7話が参ります。


お乗りの際は、足元に気をつけて――、

駆け込み乗車はなさらないようにお願い致します。


間もなく――第7話、発車――致します。

違いがあるから人は比べる。競う。争う。みんな違うのに何故に完璧さを求めるのか。そんな結果は誰も望んでないのにーーー。




「ああ、駄目。これも駄目。これもこれもこれもこれも!」


女性は頭を抱えて、目の前にある絵に持っていた筆で大きくバツを描いた。


「こんなんじゃ、全然駄目!」


遂に女性はビリリと音を立てて帆布(キャンバス)を破いた。


「はぁ…はぁ…」


荒く肩で息をする。


彼女の名は松尾榛架(まつおはるか)芸術家(アーティスト)だ。


大学時代に中々の功績を残し、芸術家新人賞でトップを取ったルーキーとして少し前までは注目を浴びていた。


そう少し前までは―――。


しかし、それも栄枯盛衰。素晴らしい作品を作り続けなければ、あっという間に地に落ちる。


彼女が新人賞を受賞してから、早五年の月日が過ぎようとしていた。



*******************



「もう……何なのよ………芸術、芸術って…!」


美しいモノを創造し描く、それをずっと繰り返してきた筈なのに、それがもう何なのか分からなくなった。



何度描いても描いても描いても、美しくなろうとするそれは歪んで汚くなっていく。


いや、実際にそうなっているのかは定かではないが、私にはそう見えるのだ。


止めてしまおうか、この職業を。


生活を。


人生を―――。




「はっ!」

何て夢を見ていたんだろう。


成功者の私が挫折して命を投げようだなんて。


ああ、そうよ。あれは全部夢だったんだ。


だって此処には私の沢山の成功を記した賞状が―……。


「…無い。」


私は幻想の賞状やトロフィーに手を伸ばしたが、それは消えて地に手をついた。


「此処……何処よ?」


私が居た場所は真っ白な駅のプラットホーム。


目の前に線路があるが、他は何もない。


家も店も人も、一つも見当たらない。


ただ白い地と青い空の平行線が広がっている。


唖然として、私はその場に座り込んでいた。


ガタンガタン―――…。


遠くから電車の走る音が聞こえてきた。


キィィイイイッ――ふしゅ――…。


機械音と蒸気音を立てながら、やって来た電車は私の目の前に停車した。


青と白のツートンカラーの電車。まるで、この世界の情景のような。


電車の扉は私を招くように開いた。


何だろう、この中に入れば懐かしい何かが待っているような……。


そんな気がして、私は迷わず即座に電車に乗った。



中に入ると扉は待っていたかの如く、直ぐに閉まった。


中には誰も乗っていなかった。


「誰も…居ない」


向こうの車両には居るだろうか?そう思って、隣の車両へと続く扉に手を掛ける。


と、それより先に扉がガラッと開いた。


「わっ!」



そこには黒髪の少女が居た。


肌の色は白く、大きな黒い瞳。

そして、彼女はこの電車をモチーフにしているような、青いリボンを腰に付けた白いワンピースに身を包んでいる。



「あ、あの、ごめんなさい。気づかなくて……。」



ジッと私を見つめて立っている少女に、私は慌てて謝った。



「いいえ、こちらこそ。」


少女は全く動じずに、私の横脇を通り過ぎていき、車両の真ん中の席に静かに座った。


私は隣に移動しようとした足を止め、少女に近づいた。


「あの、この電車は何処に向かうの?」


少女は静かにこちらを向き、囁くように答えた。


「貴女の望む、還るべき場所。」


少女の瞳には光が灯っていなかった。


可笑しなことを言う。

「かえるべき場所」って…一体何処なんだ。それに答えになっていない。


「あなた、何言ってるの?」


怪訝な顔をして私は訊き返すが、少女は黙ってそっぽを向いてしまった。


「着いたみたいね…。」


「え…?」



電車の窓の向こう側を見てそう言う少女に、私もその方向に目を向ける。


電車はゆっくりと停まっていく。

何処かの駅、少し太陽の日射しが明るく眩しい所だった。


そこに一つの人影が立っていた。


「あれは……誰?」


よくよく、目を凝らしてみる。


太陽の光のプリズムで少し視界が霞む。


扉の方に近づいて見る。


そこに佇む一人の男性。


見たことのある面差し。



「おと、う…さん?」


その人は紛れもなく、幼い頃に亡くなった父だった。



「っ!……お父さん。」


扉が開いて、私は彼に近寄る。


優しい笑みを湛えて、彼は私の名を呼んだ。


「榛架。」


広げられた両腕の中に、私は思わず飛び付いた。



「ごめんなさいっ……お父さんっ、お父さん!」


嗚咽が止まらない。


「大きくなったなあ、榛架。」


父は抱き締め返して、温かな大きな手で私の頭を撫でる。


「忘れてた…すっかり、お父さんのこと。」



――父は十五年前に亡くなった。

母は私が小さい頃に既に居なかった。


父から訊いたことには、病気で亡くなったらしい。


それからずっと男手一つで、私を育ててきてくれた。


だけど、父も工場の仕事場で事故に遭い、亡くなってしまった。


それからは、親戚の家に貰われて過ごしていた。


養子と言うだけあって、中々その人たちと打ち解けられず、居心地の狭い思いをした。


昔から絵を描くことが好きだった私は、その実力を発揮し独立した。



だけど直ぐに挫折した。



日々に嫌気が差して、過去の事などすっかり忘れていた。



その事を思い出して、父の胸でずっと泣いていた。


「涙を流したい時は流してもいい。だけど、笑顔が一番だ。」



父は笑っていた。

昔と変わらない笑顔で。



「私、本当に忘れてた……大事なこと……。」


「何だい?」


父は柔らかな微笑みを向けて訊く。


「美しいモノは、作るものじゃない。細やかでも、ほんの一握りでもそこにある幸せが一番美しいんだって――…。」


そうか…。と一瞬淋しそうに呟いて、父は満足そうに笑った。


「気づいたなら、それでいい。ほら、時間だ。行きなさい。」



父は私の肩を掴んで、電車へと導く。





「笑って。」


笑顔のまま、手を振る父。


電車の扉は閉まる。


「お父さぁぁああんっ!!ありがとぉぉおー!!」


私は父に届いたかどうかわからない、感謝の言葉を叫んだ。



そこからは、はっきり記憶がない。

泣き過ぎて忘れてしまった。


また電車が元の場所に戻って、少女が私の背中を押したことだけは覚えてる。



「またのご利用、お待ちしております」


その言葉を呟いて―――。



*******************



気が付くと、目の前は白。


いや、白い天井だった。


白いベッドの上で起きて、病院の先生に色々と説明を受けた。


食事を長い間摂らず、睡眠不足が仇となったようだ。


数日休むと、私は家に戻った。


私はそれからある絵を描いた。


ある人の顔、笑顔。


別に誰かの賞賛を得たいが為に、描いたわけではない。


だが、それを描いている最中に通り掛かった人達に「いいですね」と言われて、「是非、あたしの似顔絵描いて下さい」と懇願され、似顔絵師になるきっかけとなった。


沢山の人の笑顔を今まで描いてきたが、やはり最初に描いた彼の笑顔が最もよく出来たのでは、と自負している。


彼の笑顔は他の誰よりも私にとっては、素晴らしく思える。



「ね、お父さん。」


あの笑顔に話し掛けた。


絵顔は動きはしない。だけど、少し笑い返したように見えた。



その時、部屋の窓からザアッと突風が吹いた。


「うっ!?」


目を細めて見ると、ヒラリと何かが舞う。

それは私の足元に落ちた。


「紙?」


名刺カードのような紙。


何も書かれていないのかと思ったら、拾い上げて裏返すと、一言こう書かれていた。



『最後のご利用、お待ちしております』

*******************


「いいね~、似顔絵。僕も描いて貰いたい!」


黒猫のルアーが羨ましそうに呟いた。


「猫の似顔絵なんか描いてくれるかしら、こんな真っ黒な顔。黒く塗り潰すだけで面白味が無いわ、きっと。」


少女メルは冷たくルアーをあしらう。


「ひっどいなあ!黒にも神秘的な個性があって良いんだいっ!」


プンプンと音が聞こえそうな程、怒ってルアーは言い返した。


「そう言うメルの方が、描いて欲しいんじゃないの?」


嫌な笑みを向けて、ルアーが訊く。


「いいえ、私の顔なんか描いてもらうようなものじゃないわ。ルアーより要らない。」



「そーだね―…メルは笑えないもんね―…。」


ルアーは「あ、しまった。」とついつい溢した言葉を慌てて訂正しようとするが、メルは何も気にしてないようだった。


「大丈夫よ、そんなの気にしてない。ごもっともだし、私には感情が無いのだから――。」



窓越しの景色を遠い目で眺め、メルは黙ってしまった。



「僕は、メルがいつか笑える日が来る時を願ってるよ。」


メルに聞こえるか聞こえないかの微かな声で、ルアーは呟いた。



「………。」



電車はまた走っていく。

永遠に回り続けるレールに乗って。


最後の駅は何処になるのか――少女は未だ知らない。



――――第7話END――――

間が空きすぎました。


すいません。


中々書くのに時間がかかってしまいました(汗)


もう、この話も降板に差し掛かってきまして、「ああ、書いてしまったら、終わってしまうのかぁ」とつくづく寂しさを覚えます。


それでも、書き上げるのが本望。


メルとルアーの正体、そして永遠の電車に乗って来た人々の未来。


それぞれがこの話のエンディングを飾ります。



繋がっていく過去と今、果たしてメルは此方と彼方、それとも狭間のどの世界に居るべきなのか。


そして行くのか。


そろそろ、その話へと入ろうと思います。


では、また次のお話で。

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